ファリャ

バレエ音楽「三角帽子」
 作曲者のファリャは、20世紀前半に活躍したスペインの作曲家です。パリに留学して学んだ作曲技法と、スペインでのジプシーとの交流で知った、彼らの舞踏音楽であるフラメンコとを結び付けました。当然、作曲するものは舞踏に関係があるもの、つまり舞台音楽が主になったのです。
 当時、ヨーロッパではディアギレフの率いるロシア・バレー団が大活躍していました。ファリャも、このディアギレフからバレー音楽を依頼され、この「三角帽子」が作曲されたのです。「三角帽子」は、スペインの小説家アルコンが、アンダルシア地方の民話をもとに書いた小説で、題名の三角帽子は代官が権威の象徴としてかぶっているものです。主人公はアンダルシアの町はずれの水車小屋に住む粉屋の若夫婦。この奥さんに横恋慕した代官が夫婦にからかわれ、恥をかくという物語です。

第1幕
 粉屋の夫婦が、飼っているつぐみに日時計の時刻で鳴かせようとしています(午後)。2時なのに、夫のほうが鳴かせると3回、4回と鳴いてしまいます。奥さんが教えて、やっと2回鳴きます。そこへ代官の行列がやってきて、粉屋の奥さんに一目惚れします。行列は一旦通り過ぎますが、代官はあとで戻ってきて、物影から奥さんに言い寄るチャンスをうかがいます。それを知ると、奥さんはファンタンゴを踊りはじめます(粉屋の女房の踊り)。たまらずに代官は姿を現わして追いかけますが、足をすべらせてひっくり返っていまいます。隠れていた粉屋が助け起こして、ほこりを払う振りをして殴るので、逃げ帰ります。

第2幕
 その日の夜は聖ヨハネ祭で、近所の人々が集まってセギディリヤを踊っています(隣人たちの踊り)。奥さんに勧められて、粉屋はファルーカを踊ります(粉屋の踊り)。ホルンとイングリッシュ・ホルンの前奏が終わると、足を踏みならす、男性的な情熱あふれる踊りが始まります。次第に熱気を帯び、速度がどんどん上がって行き興奮のうちにおわります。
 さて、このあと、代官の護衛兵が粉屋を連行するわ。その間に代官が忍んで来て踊るわ。小川に落ちてびしょびしょになって、服を脱いでベッドにもぐりこむわ。護衛兵から逃げてきた粉屋がそれを見て、仕返しに脱いであった代官の服を着て代官の屋敷に忍び込みに行くわ。それを知った代官は、粉屋の服を着て追いかけるが、粉屋を追ってきた護衛兵に見つかってなぐられるわ……とドタバタが起こります。残念ながら、本日は時間の関係でこの部分は省略して(一部に演奏が難しすぎてできないからだという噂があるようですが、よいこは信じてはいけません)、代官が川に落ちる前に踊る、なぜかバロック調の優美な踊りだけ演奏します。
 騒ぎを聞いて駆けつけた近所の人々もいっしょに、嫌われ者の代官をやっつけた楽しさに陽気な踊りが始まります(終幕の踊り・ホタ)。

 ディアギレフ率いるロシア・バレー団は、当時の多くの作曲家に作曲を依頼しています。その中でも現在最も有名なのはストラヴィンスキーに依頼したもののうちの「春の祭典」でしょう。新作を発表するバレー団にとっては、音楽が同じ拍子、同じテンポで続いていては話にならないのです。したがって、演奏する側にしてみれば、あわせるのがむちゃくちゃ難しいわけです。今回のファリャも、元がリズムに特徴のあるスペインものだけあって、8分の6拍子と4分の3拍子と4分の2拍子が同時に出てきたり、テンポがどんどん変わったりと、もう大変でした。
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