エロール

「ザンパ」序曲
 エロールは、19世紀初めのフランスの作曲家です。生まれたのは1791年で、同世代の作曲家としては、1つ年下にイタリアのロッシーニ、5つ年上にドイツのウェーバーがいます。
 ウェーバーは「魔弾の射手」でドイツロマン主義歌劇を確立し、それが19世紀後半のワーグナーの活躍へと受け継がれていきました。また、若きロッシーニの「セビリアの理髪師」等が人気を博したイタリアでは、ドニゼッティ、ベルリーニからヴェルディへとますます歌劇が盛んになっていきます。ロッシーニは長生きしましたが歌劇を作曲したのは人生の前半だけで、最後の大作「ウイリアム・テル」はロッシーニ37歳の時の作品です。その頃は活躍の場をフランスに移していたので、「ウイリアム・テル」は実はフランスで作曲・初演されたのです。
 当時のフランスではバレエ・合唱・群衆などをふんだんに使ったグランドオペラが作られはじめていました。フランスの歌劇はとにかく派手(といって悪ければ「豪華」)です。カステラ1番、電話は2番……の踊りはオッフェンバックの歌劇の一場面ですし、バラをくわえて踊ったり「オ、レ」の掛け声が飛び交うのはフランス人ビセーのフランス歌劇なわけです。この前日本に来たグランドオペラと銘うった公演も、会場が野球のグランドだったからではなく、19世紀以来のフランスオペラの伝統だったのです。そういう豪華な歌劇を見慣れていたので、フランスでは他国の歌劇は「バレエのない歌劇なんて……」と不評になりますし、それを見越した興行主は作曲家にバレエの場面を追加させるのです。
 とまあこんなことを書いていると、あれ、エロールは? 「ザンパ」はどうなったの? とお思いでしょうね。
 エロールは「ザンパ」1曲(しかも歌劇ではなく序曲だけ)が有名な一発屋さんなわけです。ひとつ年下のしかもイタリア人であるロッシーニがフランス歌劇界で大活躍をし、後世にも名曲として聞きつがれている名曲を作曲しているのを横目に、現在では既に忘れ去られている歌劇を作っていたのです。とはいえ、当時は大人気を博したそうですし、序曲だけでも150年以上ものあいだ名曲として演奏され続け、名序曲集のCDに収録され、NHK−FMの番組のテーマ曲としても選ばれるというのは、やはりすごいことではあります。
 この序曲は劇中の旋律を使って作曲されています。いくつかの部分をつないで作られているため、曲の構成という点ではまとまった形式にはなっていませんが、もともとが豪華なグランドオペラのおいしいところを集めたわけですから美しい旋律が次から次へと出てくるのです。
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