ブルッフ

ヴァイオリン協奏曲第1番 ト短調 作品26
 ブルッフの有名な曲というと、今回演奏するこの曲くらいなのですが、そのかわりロマン派のヴァイオリン協奏曲としては、もっとも有名なメンデルスゾーンの曲の次にあげられるくらい有名です。
 ロマン派の前の時代というと古典派の時代。ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンといった作曲家が活躍していた時代です。ソナタ形式という音楽の形式が、これら大作曲家たちによって完成されました。ソナタ形式の楽章を含む曲がたくさん作られ、それが独奏曲ならソナタと呼ばれ、オーケストラの曲なら交響曲と呼ばれました。そして、独奏楽器とオーケストラとか協演する曲が協奏曲です。ソナタ形式は、おおざっぱに言うと、2つの主題が提示される提示部、主題を使って自由に音楽を発展させる展開部、提示部を再現する再現部でできていて、最初の提示部は2回繰り返すことになっています。協奏曲では最初の1回はオーケストラだけ、繰り返した2回目に独奏楽器が登場する、というのが当初のお約束でした。しかし、ベートーヴェンの後期の作品あたりから、最初から独奏楽器が活躍するようになり、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲では曲の最初から独奏者が主題を演奏しはじめます。また、ベートーヴェン最後のピアノ協奏曲「皇帝」では、本来曲の後半にあるべきカデンツが最初から出てきます。ブルッフもこういった協奏曲の発展の成果を存分に取り入れてこの曲を作曲しています。特に曲のはじまりは、「皇帝」同様、独奏者のカデンツが最初に挿入されています。
(泉11)


スコットランド幻想曲
 ブルッフは19世紀後半から20世紀のはじめのドイツの人で、作曲の他、指揮者・教育者として活躍しました。合唱曲をはじめ、作曲は多いのですが、よく演奏されて有名な曲といえばほとんどバイオリン協奏曲第1番のみという状態です。そのかわり、第1協奏曲はとても有名で、そんな曲しらないよという人でも聞けばああ、あの曲かということになります。というのは、最近テレビでアン・アキコ・マイヤーズと森繁久弥がやっていた電話会社のCMで演奏されていたからです。
 ブルッフのバイオリン曲は、メンデルスゾーンの協奏曲の美しさをもっともっと推し進めたと言えるもので、このプログラムの解説のタネ本にしている音楽之友社「名曲解説全集」のスコットランド幻想曲の解説中には、「しかし、あまりに美しすぎるためであろう。今日ではあまり演奏会のプログラムにはのらない。」という、わかったようなわからないような文章があるくらいです。
 このスコットランド幻想曲は、スコットランド生まれの作家、ウォルター・スコットの作品を読んで感動して作曲したと言われています。古いスコットランドの民謡の旋律を取り入れて、序と4つの楽章の構成になっていますが、序と第1楽章、第2楽章と第3楽章は続けて演奏されます。
 序は、古色蒼然とした雰囲気の和音をバックに、語り部がこれから美しくも哀しい昔話を語り始めるよといった感じ。続いて曲想が少し明るく甘くなって第1楽章が始まります。「年老いたロブ・モリス (Auld Rob Morris)」という愛の歌の旋律をバイオリンが懐かしく温かく奏でます。
 第2楽章は、管弦楽の導入部のあと舞曲のリズムになって「ほこりまみれの粉屋 (Dusty Miller)」の旋律をバイオリンが技巧を駆使して変奏していきます。管弦楽の1拍ずれたユニゾンあり、バイオリンとフルートとのからみありの楽しい楽章です。カデンツ風の部分を挟んでそのまま第3楽章へ。「ジョニーのことが悩ましい (I'm a Doun for Lack O'Johnnie)」という美しい恋の歌が、いくぶん情熱的な中間部を挟んでせつせつと歌われます。有名なスコットランド民謡「ロッホ・ローモンド」と同じシンコペーションのリズムが素朴な郷愁を感じさせます。
 第4楽章は一転して古い戦いの歌を元にした変奏曲です。管弦楽のいろいろな楽器が入れ替わり演奏する旋律を、独奏バイオリンが技巧をこらして装飾します。最後にちらりと第1楽章の主題がでてきますが、最後は独奏と管弦楽が一緒にこの楽章の主題を高らかに歌って終わります。
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