ベルリオーズ

幻想交響曲
 ベルリオーズ(1803〜1869)は、女優ハリエット・スミッソンの舞台を見て恋に落ち、手紙で結婚を申し込みましたが、見ず知らずの男からの手紙を大女優が相手にするはずもありません。当然、失恋となるわけですが、そこは異才ベルリオーズ、とんでもない曲を作曲してしまいます。
 この曲の楽譜には、次のような序文があって、曲を説明しています。
「病的なほどの感受性とはげしい想像力をもった若い芸術家が、恋に絶望して阿片を飲み自殺を図る。だが麻薬の服用量が少なすぎて死ぬことはかなわず、深い眠りに落ちて奇怪で幻想的な夢をみる。夢の中で、彼の感覚・感情・回想は楽想と心象に変形してゆく。恋する女性は、固定観念のような旋律となり、彼は至る所でその旋律を聞く。」
 また、各楽章に標題も持っていて、その全ての楽章を通して序文にあるように女性を表す固定観念の旋律が様々に形をかえて登場します。
 第1楽章は、芸術家が恋人にめぐりあう前の不安や憧れを表現した長くゆっくりとした導入部のあとに、主部では恋人の主題が、美しく気品をもって優雅に、恋する人を表現するにふさわしく現れます。恋を知った芸術家は情熱的になり、最後には祈るように終わります。
 第2楽章は、ワルツです。絢爛たる舞踏会で恋人に会うのです。恋人の固定観念の旋律もワルツのメロディーになって出てきます。
 第3楽章では、夕べに野辺で2人の牧童が吹く笛の応答を聞きながら、恋の成就への微かな希望や、裏切りに対する不安が心の中に浮かんできます。遠い雷がティンパニの和音(!)で表され、牧童の笛もとぎれ、静かに終わります。
 第4楽章は、恋に破れ、恋人を殺した罪で死刑を宣告された芸術家が断頭台へ引かれて行きます。死の直前、恋人の固定観念の旋律が現れます。
 第5楽章では、死んだ芸術家が山中の魔女の夜宴に参加しています。そこにはかっての恋人が醜く気品を失って現れます。死者のためのミサで歌われる聖歌「怒りの日」のあと、魔女のロンドが始まり、狂乱のうちに全曲が終わります。
 この曲が作曲されたのは1830年ですが、これはベートーベンの第九の数年後にすぎず、ブラームスは生まれてもいません。また、第2楽章のワルツにしてもワルツ王ヨハン・シュトラウス2世の生まれる前の作品です。そのような時期にこんな曲を作曲してしまうのですから、ベルリオーズは正に異才というしかないでしょう。
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