432.曹灰長石 Labradorite  (グリーンランド産ほか)

 

 

labradorite

ラブラドライト(研磨面) −グリーンランド、カンゲック産
細かい条線がたくさん入っているのは、
生成のある段階で非常に強いせん断応力が働き、
結晶に断続的な滑りが起ったためと説明されている。
(おそらくそうではあるまい)
ラブラドレッセンスにも立体的な趣きが加わる

ラブラドライト(研磨面) −マダガスカル産
この標本では、クリプトパーサイト層の厚さが上下方向に
次第に変化しているため、回折/干渉効果で強調される
光の波長が変化していると解釈される 
(赤色系⇔青色系)

labradolite

ラブラドライト(研磨面) -ウクライナ、ゴロヴィノ産
結晶の成長面をなぞるように現れたラブラドレッセンス

 

長石族のこと。いましばらく、自分でもあんまり理解していると思えない記述を続けさせていただきたく。

No.68
(ラブラドライト)に、95年から99年までの間に長石の分類基準が変わって、プラジオクレース(斜長石)という用語がなくなった、と記した。で、どんな風に変わったのか。ほかの鉱物系で採用されているのと同じように、灰長石曹長石とを端成分とし、それまで独立的に扱っていた中間種をどちらかに振り分けて2分したと聞く。
ただ、標本の世界では以前の慣例が残っていて、斜長石を両者の組成比によって6つに分ける分類が今も行われている。私見だが、分類の細分化を喜ぶ鉱物コレクターは多くあっても、簡素化を歓迎する向きはマイノリティではないか。
とりあえず手元のラベルは、例えば Anorthite var.Labradorite (灰長石の亜種、ラブラドライト)のように冠でもつけておき、耳に響きのよい呼び慣わした名前はしっかり温存しておきたいものだ。
というわけで、慣例的に「斜長石」を細分化すれば次のようになる。

鉱物名 組成比  Ab:An比
曹長石 Albite Ab100〜Ab90An10 
灰曹長石 Oligoclase Ab90An10〜Ab70An30 
中性長石 Andesine Ab70An30〜Ab50An50 
曹灰長石 Labradorite Ab50An50〜Ab30An70 
亜灰長石 Bytownite Ab30An70〜Ab10An90 
灰長石 Anorthite Ab10An90〜An100 

ここに、Abは曹長石、Anは灰長石の略号で、後に続く数字はそれぞれが成分中に占める割合である。例えば、曹長石を40%、灰長石を60%含む標本は Ab40An60 と表記されることになり、曹灰長石(ラブラドライト)に分類される。ちなみに20種ばかりある長石族は、「カリ長石」、「斜長石」、「それ以外の長石」の3つのグループに大別されてきた。

左の図は、Ab、An にカリ長石(記号 Or)成分を含めて、斜長石グループとカリ長石とを総合的に組成分類した三角図である。
中央から右肩にかけて大きな空白領域があるが、これは、例えば、Or-Ab-Anを等分に含む鉱物は存在しない、ということを意味している(別の言い方をすれば、別種の鉱物として晶出して共存する)。
繰り返しになるが、OrとAbとの間は、高温下でのみ固溶体が存在し、低温では二成分に分離してパーサイト構造をつくる。
一方、AbとAnとの間は連続的に組成が変化する固溶体が存在する。(cf. No.204 追記 各名称の由来)

ということがいろんな鉱物図鑑に書いてあるのだが、どうも話はこれで終わらないらしい。
それは固溶体をなすはずの灰長石−曹長石シリーズが、少なくともある組成領域では、低温下で構造が不安定になり、電子顕微鏡的な微細な互層組織に分離しているとも述べられているからだ。
実際、ラブラドライトの妖しい閃光は、この鉱物が灰長石と曹長石とのクリプトパーサイト構造になっており、そのため層境界からの反射光に干渉が起って特定の色の光を返して寄越すに起因するという。またインド産のムーンストーンはカリ長石系でなく、斜長石系のラブラドライトや亜灰長石であるが、やはりクリプトパーサイト構造によって青白いシラーを発するという。(※ラブラドライトにみられる光彩効果は O.B.ベッジルドらによって研究され、繰り返し層状組織(ベッジルド構造と呼ばれるラメラ構造)が要因とみられる。)
それならなぜ連続した固溶体シリーズを作ると言い切れるのか。また、ほかの鉱物系ではどうなのか。渾然一体の顔をして実は油水の如く交わらない仮面結晶が思いのほか多いのではないだろうか。
鉱物とは実は永遠の相の下に静止安定したものでなく、微細な領域では絶えず平衡状態へ向けて、あるいはより秩序の高い状態へ向けて進化・純化・細分化を遂げる旅の途上にあるのではないか。
いろいろとモノ思う秋だ。(いや、まだ夏だけど)

それから、同じラブラドライトでもラブラドレッセンスを放つものとシラーを放つものとがあるのはなぜか(もちろんこれらの光学的効果を示さない場合も多い)。両者の区別は奈辺に発するのか。
クリプトパーサイト層の厚みの微妙な兼ね合い、成長した微粒子の形状効果、斜長石に特徴的なアルバイト双晶と呼ばれる繰り返し双晶の効果、結晶構造の不整合による微小な空隙やへき開面での反射・散乱、輝石類や黒雲母や磁鉄鉱の微小板状片の混入による相乗効果など、さまざまなことが語られている。これらはいずれも事実かもしれない。しかしその説明は藪をつつくに似た印象を受ける。
言葉は語られる。でも、私たちはほんとうに知っているのか。

余談だが、ラブラドライトは水に漬けると閃光がより鮮やかに見えることがある。

参考:ラブラドライト No.68No.163No.200
補記:斜長石シリーズは屈折率や比重が連続的に変化するので、組成比を調べなくても、ある程度種別を判断出来る。カリ長石は光軸角(2V)の測定による光学的特性の別で、ある程度晶系を判断できる。

追記:長石全般の名称と宝石名を暫定的に整理してみたのが下の表。カリ長石3種(5区分)の詳しい分類基準は No.430 正長石(補記5)、長石類の名称の語源は No.204 曹長石 参照。なお、「長石」はもともと中国本草に用いられて硬石膏(または方解石)を指したが、明治期に西洋鉱物学が導入されて以来 Feldspar 類を指すようになった。cf .No.883  (2020.7.4)

鉱物たちの庭 ホームへ