317.ブラジル石 Brazilianite (ブラジル産)

 

 

ブラジリアナイトの結晶塊
−ブラジル、M.G.、リナポリス産

 

とある標本会で初めてこの石を手にしたとき、「ブラジル石。…ああ、ブラジルの石かあ」、とは思わなかった。モノ知らずなワタクシは、そんな安直な名前の鉱物があるわけないと判断したのである。ところが、たまたま隣りにいた見知らぬ方が、「これがあのブラジル石か!」と嘆息したものだから、君子(←誰が?)豹変す。テーブルに戻すつもりだった標本を、一転、獲得に回ったのであった…。

ブラジル石は国名が与えられた石の中でも、最も魅力的な宝石鉱物のひとつである。(ヲイヲイ)
一説によると、この石が発見されたのは1942年の11月。アルフレド・セヴェリーノ・ダ・シルバという方が、田んぼの掃除をしている時に、風化した露頭から見事な結晶を3キログラムも拾ったのだそうだ。

一方、ちょうどその頃、アメリカ自然史博物館の学芸員フレデリック・ポー博士がブラジルを訪問中で、ある会社の手助けのため、リオの業者を通じて標本を買付けていた。そしてテディ・バドリンという業者から、発見されたばかりの2個の巨大なブラジル石の結晶を手に入れる幸運に恵まれたのだった。
実はテディはその標本をクリソベリル(金緑石)として仕入れたのだが、博士からすると、「別種の鉱物であることは明々白々で、なぜ間違ったのか不思議だった」という。
新種の燐酸塩鉱物を直感した博士は、「誰か他の者に研究発表させて、私の名前(=ポー石)をつけてもらいたいという気持ちもあったが、ブラジル石と命名することでブラジルへの親善を示し、将来の国際協調を図ることにした」。

とはいえ、それは一筋縄の作業ではなかった。
最初 Brazilite を考えたが、当時研究されていた別の鉱物に使われていた(後に Baddeleyite と判明-補記参照)。そこで、 Brazilianite として公式論文に記載した。ところが、この名もかつて銀星石の呼称に使われていたことが分かった。二番煎じはイヤだったので、さらに別綴り( Brasilianite )に差し替えようとしたのだが、この時すでに Brazilianite の名が広まっていたため、残念ながら意に任せなかったという。
とにかくに、その名は、なにがなんでもブラジルに捧げたいという意欲の賜物だったのである。

ついでながら、ブラジル石が発見された場所コレゴ・フリオは、宝石が出たと察知した数人の住民にすぐさま囲い込まれてしまったが、その後、1945年から46年にかけて採掘権をリースした標本商らがポケットを掘り当て、大量の良標本を市場にもたらした経緯がある。またこの時の作業がきっかけとなり、さらに二つの燐酸塩鉱物が発見された。鉄天藍石(Scorzalite)とスーザ石(Souzalite)である。

補記:鉱物和名辞典(1959)には Brazilite として 1)ブラジル、バイア産の含油石、2)ブラジル産バッデレイ石、3)繊維状、乳房状のジルコニアが挙げられている。
ちなみにブラジル産の緑色トルマリンはブラジル・エメラルドと、ブラジル産のクリソライトChrysolite はブラジル・ペリドットと呼ばれた。

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