895.レインボーガーネット Rainbow Andradite (日本産)

 

 

Rainbow Garnet  レインボーガーネット

Rainbow Garnet  レインボーガーネット

レインボーガーネット。 やや透明感のある茶黄色(〜黒褐色)の結晶だが、
特定の角度で光を当てると、表面付近で金色を基調とした金属様反射を示す。
たいていの「レインボー」ガーネットはこのタイプで、名前からイメージされる
虹色のグラデーションが結晶面に見えるものは少ない。(見えるとしても破面や割面に生じる)
-奈良県吉野郡天川村、行者環岳産

{110}面(d面)に加えて、狭い{211}面(n面)が見える微小結晶

レインボーガーネット(微小結晶)  結晶面よりやや内部に反射光色が見える。
光を当てる角度によって色が変わったり、帯縞状の閃光(色)が見えたりする。
-奈良県吉野郡天川村、行者環岳産

アンドラダイトの金属様反射 (No.249 の部分拡大画像) 
−ロシア、ダルネゴルスク産

条線の発達したラブラドライトの金属様反射
レインボーガーネット(天川村、ソノラ、サン・ペドロ産など)にも
このタイプの光条を持つものがある。

No.432 再掲 グリーンランド産)

 

宝石や鉱物には光学現象によるさまざまな美的効果が知られるが、ガーネットでは、色変わり(カラー・チェンジ)、星彩(スター)、猫目(キャッツアイ)、金属様反射(玉虫光/シラー/アデュラレッセンス)〜虹色効果(イリデッセンス)などが観察されている。
一般に色変わりはパイロープ-スペサルチン系に多く、星彩/猫目はアルマンディン-パイロープ系に多い。そして金属〜虹色効果はアンドラダイト(〜グランダイト)に見られる。

アンドラダイト(灰鉄ざくろ石)の金属様反射は普通にあるもので、No.249のアリゾナ州産やダルネゴルスク産のように独特のテリと輝きを示す。結晶表面に限らず、透明感のある結晶では少し内に入ったあたりから光が返ってくる印象がある。
そして時に虹のような多色の、オパールのような、あるいはラブラドライトめいた強い彩光を示すものがあり、今日レインボー・ガーネットの名で知られている(鉱物名でなく、宝石名ないし商業上の通称)。学術的な文書ではイリデッセント・ガーネットと呼称される傾向がある。

この種の虹色効果は、例えばアイリス・クオーツ(虹水晶)のように「ごく薄い裂け目状の割れ面(俗にカンという)に生じた光の干渉」(近山)、あるいは光の波長に近い厚さの境界被膜や層状構造による光の干渉によって現れる。原因は異なっても効果が似るため「イリデッセンス」の語でまとめられているが、レインボー・ガーネット、レインボー・ストーン(虹の石/褐鉄鉱)、アイリス・アゲートレインボー水晶、油膜、シャボン玉、コンパクト・ディスク、魚の鱗、アワビ・真珠母貝の内殻などの虹色はいずれも後者の、構造的な干渉光である。

(参考) ベトナムの貝殻細工(螺鈿)

レインボー・ガーネットは 21世紀に入るまで珍しいものと思われていた。実際珍しく、そういう呼び名で商業的に喧伝されるようになったのも 1990年代のことだった。メキシコ、ソノラ州のシエラ・マードレ(母なる地)山地で 1954年頃からあるメキシコ人の鉱夫一家によって虹色効果を示すガーネットが手掘り採集されて、 時折市場に出ることがあった。80年代にはカボッション・カットされたりラピダリー製品に作られたりしたが、流通が僅かだったため知名度も高くなかった。
それが 1992年にアメリカ・ツーソンの企業家が鉱区を買い取り、晩秋頃から「レインボー・ガーネット鉱山」の名で組織的な採掘を始めて、翌年のツーソン・ショーで宝石質の商品を披露したことで一躍業界の耳目を集めたのだった。
ところがその後は(理由はいろいろ言われているが、操業したのは93年3月までで)新たな市場投入がなく、楽しい図鑑2(1997)の時点ですでに美品は高嶺の花、現時点では「絶産・幻の標本」扱いのようだ。
ちなみに同州アラモスのある方解石鉱山で 1世紀以上前に「レインボー」ガーネットが出たそうだが、今はどうなのかさっぱり分からない。

アメリカではネバダ州のアレデード鉱区にイリデッセント・ガーネットの報告があった(1934年発見/1943年に報文)。
日本では山口県上保木(かみほぎ)に(半世紀以上前に)出たアンドラダイトにイリデッセンスを示すものがあったそうで、構造的な要因について秋月瑞彦らが AM誌に論文を寄せている(1984)。秩父の大滝鉱山や岐阜県遠ヶ根鉱山にも少量出たという。
そしてこれらの産地をはるか下に見て、膨大な量のレインボー・ガーネットを出したのが奈良県吉野郡天川村(てんかわむら)のスカルン鉱床であり、2000年代前半のことだった。

天川村のレインボー・ガーネットにはさまざまな産地情報が存在するが、肝心なところはぼかして表現されていることが多く(おそらく上述の他の産地の情報も同じだろうと思う)、またブレイク後にネット上に飛び交った情報の多くはすでに消えてしまっている。残った中で「空想の宝石結晶博物館」さんの記述は詳しく、「はちみつ屋」さん提供の美麗写真が紹介されている。(⇒リンク
当方は例によって巷に流布した伝説をさらっとなぞってみる。話半分でお聞き下さりたい。

天川村は紀伊半島の中央部、紀伊山地の脊梁をなす大峰山脈を抱えた広大な村で、熊野川に注ぐ天ノ川が流れる。ジュラ紀の付加コンプレックス帯に小規模なスカルン鉱床の露出があり、天ノ川のさらに上流の(奥地の)白倉川や川迫川周辺に磁鉄鉱等を掘る鉱山があった。白倉谷の鉱山(跡)でアンドラダイトの巨晶が採れることは以前からマニアの間で知られていたが、交通の便が悪く、宝石質でもないざくろ石だけを目的に遠隔地から出張るには二の足を踏む、というところだった。
とはいえ大阪市内から国道309号線が(旧)行者還(ぎょうじゃがえり)林道を挟んで熊野市まで繋がっており、2002年には林道が国道に編入されて整備が進んだので、狭路山岳道ながら車があれば産地近くまで何だ坂こんな坂である。行者還トンネルの西口には登山客のための有料駐車場もある(産地からは少し遠い)
行者還岳は天川村と上北山村とに跨る標高 1,546mの山で、その昔、役行者の回峰を峻嶮をもって退けたことからその名がついたという。

天川村レインボー・ガーネットの標本の多くは行者還岳ないし川迫(こうせ)産のラベル付で流通している。川迫鉱山のアンドラダイトは 1995年にH.O.氏が発見したと海外の文献にあるが、標本が一般の愛好家の眼に触れるようになったのは 2004年以降のことと思われる。この年の 9月にボナンザ(富鉱)が見つかったとされる。その以前(2002年?)に川迫鉱山跡付近あるいは還岳西側の登山道付近で、ぎらぎらと脂ぎったような金属様反射を示すざくろ石の転石が見出されて一部採集家の間で話題となっていたのだが、やがてあたりの地中から虹色に輝く鉱脈が発見されたのだった。
G&G誌 2006 冬号には、9月にボナンザを見つけた採集者は 4ケ月かけて地中 5mの深さまで手掘りで脈を追ったとあり、数百kg の原石が採集されたが、宝石質のものの比率は小さかった(※それが普通)と述べている。金色のメタリックなざくろ石はレインボー・ガーネットないしレインボー柘榴石と呼ばれ、その後に出た派手派手しいイリデッセンスを放つ結晶はスーパーレインボー・ガーネットと称された。

テンカワ・レインボーガーネット・フィーバーが始まった。採集派の方々は「車を降りて徒歩 15分」という横づけ産地に大挙して押し寄せたようで、2ちゃんねるの鉱物スレなどみると根こそぎ総ざらえといった感じで収穫を誇りあっているのだった。
地中にあった鉱脈はすっかり掘り上げられて、 2005年の初夏(大阪ショー直後)にはぼろぼろに崩れた柘榴石の破片が坑口の下の斜面に十数mに亘って厚く散り敷き、キラキラと虹色に輝いていたというが、それもほどなくさらわれた。
にわかな乱獲騒ぎは地元民の目にあまったか、6月にはこのポイントでの無断採集を公的に禁じる看板が掲示されたのだが(※国立公園内の私有地で、そもそも看板が立つ以前から無断採集していい場所ではない)、例によって採れるものは採り尽くされていた。新聞紙上でレインボーガーネット発見が記事になったのは 8月、祭りのあとである。9月に検挙者が出たと報じられた。
その後は別のポイントでひっそり採集されているとしても、村の平穏は保たれているようだ。

私は京都だったか大阪だったかの鉱物ショーでO社さんが大量のスーパーレインボーを出しておられるのに行き逢ったが、特級扱いの標本群はそれは見事な七色に輝いて、驚きももの木さんしょの木であった。ハナから私が手を出せるお値段ではなかったのだけれど、今ではすべて然るべき愛好家のもとに然るべく収まって秘蔵されているに違いない。
なにが「スーパー」かには諸説あり(馴染みの業者さん方は含羞の笑みを浮かべながら口に乗せられていた)、私はメキシコ産を凌駕するレインボーのゴージャスさからと聞いた。
普及レベルの標本はメタリックな輝きが弱く色目も単調なのだが、良品は色目にバリエーションがあり輝きが強い(結晶面が曇りのない鏡のように光る)。特級品になると透明感のある結晶面を透かして暗い内部からまさに虹が見えるのだった。フランキーのアニキならずとも、「ん〜〜〜、スーパー!」と言ってみたい気になろう。スーパーマリオとかスーパーぷよぷよとかスーパーロボットとかスーパーあつし君とか、頭に冠して妙にすわりがよい。

自形結晶の多くは{110}面(d面)を主とする菱形 12面体で、特定の角度から光が当たると表面付近で黄金色〜金緑色〜金紫色を主調とする金属様反射を示し、この時、面の透明度は低い。光の当たり方で反射色が変わることもある。{110}面に加えて {211}面(凧形 24面体をなす面: n面)を伴うものは、若干の透明感を残して反射がやや内部に見えることがある(経験則)。{211}面が卓越した結晶は稀という。金属様反射はたいてい単調だが、結晶毎に発色が異なる傾向がある。いわゆる虹色(スペクトル/グラデーション)は普通、面の窪みや{110}面に対して傾斜した破面(条線の発達した断面)に見られるが、結晶面に現れることもある。
表面より深いところで結晶面に平行な彩光が見られるものは、インド産のレインボー水晶に似た干渉作用と思われる。ただレインボー水晶の彩光面は6つの錐面のうち一つおきに現れるが、レインボーガーネットは隣接する面も輝いている。

なにしろ大量の原石が採集されて出回ったので、どのようにカットしたらいいかといったノウハウもネット上にさまざま見られた。原石のカット研磨を得意とされるある標本商さんのサイトにも情報がシェアされていた。結晶面(d面)に対してある角度で磨くと虹色のグラデーションが現れるのだ。レインボーがもっとも強く輝くカットを開発されたという方もあられた。
その後数年間にさまざまなタイプの標本が市場を賑わせたが、完全な虹の七色が出現する原石はそうそうあるものでなく、レインボーという呼称を補って、レッドライン、オレンジライン、グリーン、モルフォ(モルフォ蝶の青色閃光)、ホログラム、メタリック、ネオン、オーロラ等々の形容語がついた。まあ、呼びたいように呼んだわけである。
このうちネオンレインボーガーネットは、ブームが一段落した頃、届き忘れの手紙が舞い込むようにショーに姿を見せた。かつてない暗褐色の結晶に熱帯魚のネオンテトラのような青色を主とする帯状光が散って、そのお値段とともに見る人にため息をつかせた。
淡い青色閃光のレインボーガーネットは白倉谷鉱山跡付近でも採集されるようで、また産地をぼかして天川村北角(きとずみ)産(白倉谷、川迫川、行者還岳登山路あたりを含む地域)のラベルで出回っているものもある。

天川村のレインボーガーネットは端成分のアンドラダイト(灰鉄)に近く、アルミが鉄を置換するグロッシュラー(灰ばん)の固溶比率は平均 3〜4.5%と報告される。また若干のマンガン分も含む。理想組成に近い層とアルミ分を多く含む層とが明瞭な境界面をなして {110}面(d面)と平行に互層する微細構造が認められている。
構造には2通りの周期があり、一つは結晶成長時に生じたとみられる 10-20μm厚さの層が作るパターン(振動成長による塁帯構造)で、層間に 5-6%程度のアルミ含有率差がある。もう一つは 0.1-0.3μm厚さのパターンで、層間のアルミ含有率差は 1〜1.5%程度。結晶生成後に離溶作用で生じたと推測される。いずれの周期でもアルミ分の多い層の方が厚みが薄い。後者は周期が光の波長に近いことからイリデッセンスの主要因とみられている。層厚や屈折率の変化が加わって干渉光はさまざまな色を帯びる。結晶成長に伴う前者の周期パターンは {110}面上にも不完全な杉綾(wavy)模様として観察できる。すなわち菱形の結晶外辺に平行な微細な菱縞が連続的に組み合わさった 10-20μmピッチの幾何学模様である(※「奈良県天川村産レインボーガーネットについて」 下林ら 2005)

G&G誌の記事は、この杉綾模様は {110}面に対して角度を持ったあらゆる面上にむしろ顕著であり、{110}面に平行な層構造とは無関係に生じたものと推測している。これが回折格子のように作用して干渉縞(モアレ)を生じさせ、{110}面よりも鮮やかなイリデッセンスを見せるのだろうという(原理的に金属様反射は起こさないとしても)。またエチオピア産のオパールに似た虹(遊色)を持つ標本もあると指摘している(※私としては G&G誌の記事はあまり筋が通ってないと思う、というかよく理解できない)

原石は一般に風化が進んで崩れやすく、群晶標本はたいていサイズが小さい(クリーニング中に砕けるらしい)。結晶面に風蝕による円い霜斑が見られるのが普通で、上品をお持ちの方々は「ざんねんレインボー」などと呼んで容赦ないが、宝石的価値はともかく標本としては趣きが感じられる。大半の標本はばらばらになった分離結晶(完晶でなく破面がある)で、これを集めて白粘土に固定してケース入りで売られているものもある。イリデッセンスが見えるように揃えて嵌めてあるので、そのまま鑑賞出来るのがよい。
母岩に薄く粘土を貼って、その上に分離結晶を敷き詰めた標本もあるが、どうもたくらみすぎに思われる。産地の採集禁止をセールスポイントにするのは、まあ常套手段か。天川村の「奥は深い」、というのが自採派の方々の見解なのだが。

天川村産のレインボーは現在も市場に供給が続いており、国産鉱物にしては弾数が豊富で息の長い商品となっている。ただし現状、「スーパー」な逸品は根気よく放出を待つほかない。並品でも良品と呼ばれたり、極美・超美・スーパーなどと形容されることがあるので注意。(主観だから…)
海外産では上述のメキシコ・ソノラ産がちらほら。また天川村産と前後して、アメリカ・ニューメキシコ州サンペドロ山地で発見されたものが 2000年代中頃から若干量出回っている(電子湾などに今も出ている)。結晶面に多彩な縞状イリデッセンスが強く出てインパクトがある。良品の縞は虹の七色を示す。
昨 2019年1月、ニジェール北部のアルジェリアとの国境付近で新たにレインボーガーネットが発見されて話題になった。産地はチバラカテン金鉱(Tchibarakaten goldfield)といい、砂岩中に 2km にわたって延びた石英脈に肉眼的な自然金が含まれる小さな鉱山である。金採集の副産物と思しい。端成分に近いアンドラダイトで、結晶面に美しい彩光縞が見られる。天川村産のオーロラ・レインボーに感じが似る。