825.フローレンス石 Florencite-(Ce) (ハンガリー産)

 

 

フローレンス石  母岩はQuartzite
−ハンガリー、ソプロン、Füzes Ditch 産

 

希土類元素は化学的性質が似ており、挙動を共にするためにかつては分離が難しかった。最初のレグルス(と信じられた物質)が発見されてからすべてのランタノイドが分離されるまでに1世紀を要した(cf. No.822 補記1)。理由の一つはいずれもがふつう3価の陽イオンとして振る舞うことにある。しかし例外的にセリウムは+3価のほかに、酸化環境で安定な+4価の形をとることが出来、その性質を利用して比較的容易に抽出される(4価のセリウムイオンは溶解度が低い)。またユーロピウムは強い還元環境で唯一安定な+2価の形をとりうるので、やはり比較的容易に分離される。(還元環境で+2価になる希土類はほかにサマリウムとイッテルビウムとがあるが、やや不安定。)
こうした性質は自然界でも効果を持つことがあり、ほかの希土類と異なる挙動を示すケースが知られている(ランタノイドの共存比率にセリウムやユーロピウム成分の異常値が現れる)。また地表付近の風化作用で希土類鉱物が分解されるとき、軽希土類と重希土類とでは異なる溶脱〜濃集現象を起こすことがあると考えられている。

具体的な挙動は地質環境によってさまざまであるが、一般論的には次のことが言われている。
・火成岩が風化作用を受けるとき、軽希土類よりも重希土類が先に流失しやすい(地下水や河川中に選択的に高濃度で検出される)。風化が進むと原位置近辺(酸化帯)に滞留していた軽希土類も溶脱するが、セリウムは(4価の酸化セリウム(Cerianite))として沈積して)残っていることがある。
・4価セリウムの存在は系が酸化環境にあることの指標となる。
・希土類の溶解度は作用する水の酸性度によって変化する。
・地下水中に溶け込んだ希土類イオンが、環境の(酸性度の)変化によって再び沈積して(移動した先に)濃集帯を形成することがある。
・溶脱した(セリウムを含む)3価の希土類イオンは、鉄やマンガンを含む堆積土壌に捕獲吸着されて濃集する傾向がある。
・雲母風化物(バーミキュライト/蛭石)には軽希土類が捕獲されて濃集することがある。
・酸性の地下水中で希土類はたいてい+3価のイオンとなって存在しているが(硫酸塩のイオンを形成することもある)、PH6 以上になると、地下水に含まれるある程度の濃度(10-4M 以上)の炭酸イオンと反応して炭酸塩を形成する(例えばランタン石)。燐酸塩が形成されるのは高濃度の燐分が存在するときのみ(燐酸は−3価イオン)
・地底のマグマ中に希土類が含まれるとき、ユーロピウムが+2価で存在すると、カルシウムなど+2価の元素と共に長石に取り込まれて固定されると考えられる。ほかの+3価の希土類は取り込まれずにマグマとともに上昇し、地表付近まで残留して濃集するが、この場合残留物質中のユーロピウム濃度はほかの希土類濃度と比べて異常に低い。

ここに挙げるフローレンス石は風化作用によって生成される希土類二次鉱物の一つである。組成  CeAl3(PO4)2(OH)6、セリウムとアルミの燐酸水酸塩で、セリウムは+3価として働く。ミナス・ゼラエス州が原産地で、本鉱の予備的な化学分析を行った同国の鉱物学者ウィリアム・フローレンスに献名され、1899年に報告された。わりと希産であるが、例によってあるところにはある。
褐れん石(希土類の珪酸・酸化水酸塩)燐灰石(副成分として希土類を含む)を含む花崗岩が風化を受けて希土類が溶出するとき、水中に(燐灰石から溶け出した)高濃度の燐酸イオンが含まれていると、セリウムはラブドフェン(モナズ石の一水和物に相当)やフローレンス石としてただちに析出して再固定される傾向がある。この場合、他の希土類が流失して移動するのに対し、セリウムはほとんど移動せずに上部酸化帯に留まるのである(反応に+4価の中間状態が寄与するとみられる)
またブラジルやガボンの(鉄分を含む)ラテライト土壌では、土壌中に希薄に含まれていた(地下水に溶けて火成岩から流出〜循環した)希土類が主にフローレンス石/クランダライト族鉱物を形成して濃集する例が報告されている。
フローレンス石はセリウム優越種のほか、ランタン種、ネオジム種、及びサマリウム種が知られている。

補記:モナズ石(リン酸セリウム)は風化を受けにくく、また溶解度が低い。