心のエネルギー

 最近、何かの本で「心のエネルギー」と言う言葉を目にした。人間の思いにはエネルギーがあって、それが様々な形で周りの人々や社会に影響を与えるのだという。音楽、特にギターという楽器を弾いていると、色々な点で思い当たることがあった。
 音の伸びをコントロールできる楽器、例えばバイオリンなどは弓で弦をこすって音を出す。弓を動かすのをやめれば、音は止まる。また、フルートなど管楽器は楽器に息を吹き込めば音が出る。息を吹き込むのをやめれば音は止まる。したがって、その伸びている音の長さ、強さは、しっかりと演奏者がコントロールすることが出来る。しかし、撥弦楽器であるギターは、いったん弦をはじいて音を出してしまうと、そのあとの音は弦の振動にのみゆだねられ、演奏者が音を短く切る以外にその音の長さ、強さを自由にコントロールすることは、現実的にはほとんど出来ない。
 しかも、ギターは音が小さく、しかも減衰が速い。特に高音は伸びずに、すぐに消えてなくなってしまう。そこで、ギタリストが苦労するのは、高音の長い音符を弾くときである。そんな時には、伸ばしたい音に「伸びろ!」と、おまじないをかける。すると、その音はしっかりと伸びてくれるのだ・・・。まあ、これは半ば冗談なのだが、半ば本当の話でもある。頭の中でその音が長く伸びているイメージを描くと、実際に音は減衰して消えてなくなっているのだが、聴いている人には、その音が伸びているようなイメージを与えることが出来るということなのだ。ギターのレッスンの際に生徒さんにこのことを指摘すると、その人の音楽はがらっと変わって滑らかなものになる。
 こんな場合、多少飛躍はあるかもしれないが、確かに「心のエネルギー」は存在し、具体的に現実世界に働き掛けるものであることを実感する。
 これは、何だかとても怖いことであり、同時に喜ばしいことでもある。なぜなら、心で強く思ったことは、現実となって現れる可能性があるからである。もし、世界中の多くの人が、希望を持たず暗い思いに終始するならば、この世界は暗く、希望のない世界になってしまう。逆にみんなが、希望を持ち明るい気持ちで生きるならば、そういう世界になるということである。今までは、自分の心の持ちようなどは、あまり気にしなかったが、これからは、そうもいかないような気がする。



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