ギターの魅力

 テレビのトーク番組に、若手ギタリストの村治佳織さんが出ていた。その番組の中で、村治さんの小学校の卒業記念文集が、紹介されていたのだが、その中で彼女は「私は将来ギタリストになって、世界中を駆け回るんだ。」言っていた。すごいものだな、と思った。本当に、その通りになっている。
 自分は子供のころ、いったい何になりたかったのだろうか。そういえば、みんなに「大きくなったら、交通整理のお巡りさんになるんだ。」と言っていたのを思い出した。子供心に、交差点の中心に置かれた台の上に立って、交通整理をしてる姿がとてもカッコ良く映ったのだ。しかし、交通整理のお巡りさんという仕事は、信号機に取って代わられ、今は存在しない。若い人たちは、そんな仕事があったことさえ知らないだろう。
 そんなことを思っていると、子供のころの懐かしい風景が、次々と浮かんできた。家族で通った銭湯。一升瓶をもってお使いに行った醤油屋。なぜかお好み焼きも売っていた貸本屋。七輪で魚を焼いているばあさんの後ろ姿。冬の朝は本当に暖かった火鉢・・・。どれも今は失われてしまった暖い風景だ。その中で、もっとも心に強く残っているものがある。それは、小学校の頃、友達の家で初めて手にしたギターの音色だ。
 放課後、友達の家に遊びに行くと、居間にギターが置いてあった。それを見た途端、なぜかとてもドキドキし、興奮したのを今でも覚えている。名もないオンボロギターだったと思うが、甘く優しい音色でポーンと一音はじいてみては、その音に聞き入り、長い間ギターを手放さなかった。
 今にして思うのだが、ギターの魅力は正にそこにある。他のクラシック音楽には、ほとんど興味を持たないが、ギターにだけは魅力を感じる、という人がたくさんいる。そういう人たちは、ギターの生の音色に魅かれるらしい。
 詩人のエウニゲ・ドルオスという人は、「ピアノの歌は散文的な物語だ。チェロの奏でる歌はエレジーだ。そして、ギターの歌は、歌そのものだ。」とギターを賛美している。ギターは、音は小さいが、暖い心に響く優しい音色を持っている。
 手前みそになったが、もし、クラシックギターを聴いたことがないなら、是非、一度聴いてみて欲しい。出来れば、CDではなく面倒でもコンサートに足を運んで欲しい。なぜなら、ギターの本当の魅力は生の音色にこそあるのだから



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