新春のニースで


ギターの勉強のため、フランスに数年間留学していたことがあった。
 ある日、友人が車を買い替えるというので、今乗っている車を買わないかと持ち掛けられた。何を血迷ったか金もないのにOKしてしまった。
これがひどい車だった。フランスでは、車検制度がないので、想像を絶するオンボロ車が平気で街を走っている。
 まず、助手席のドアが閉まらなくなった。走行中にハンドルを切るとドアが自動的に開いてしまうのだ。しかし、これはガムテープでドアを貼り付け難なく?問題解決。
だが、2週間ほどして今度は、バックギヤが入らなくなり、バックできない状態になった。これにはまいった。車は後ろにも動かないとどうしようもなく不便であると、初めて悟った。スーパーに買い物に行って駐車場に入れようとするとバックしないと入れない。頭から入れれば、帰りにバックしないと出られない。仕方がないので、買い物をするときにはいつも友達に同行してもらい、バックするときには車から降りて押してもらった。助手席のドアは壊れたままなので走行中は手で押さえてもらい、帰ったらまたガムテープで補習した。
 そうこうしているうちにとんでもないことが起こった。交差点で赤信号になったので止まろうとしたら、ブレーキが利かなくなったのだ。とっさの判断で、私はドアを開け片足を出し、思いっきり路面を踏ん張った。交差点前で徐行していたのが幸いして、車は何とか止まってくれた。うそのような本当の話である。
こんな車に乗っていてはいくつ命があっても足りないと、音楽学校の先生にただであげてしまった。
 当時は、日本はバブル景気の絶頂期で日本の友人にこんな話をすると、決まって日本製は素晴らしい。日本は豊かだ。日本は世界一安全な国だ。日本はいい国だ。という話になった。自分も、その頃は外国で大変な思いをしていただけに、本当にそうだと思った。
 しかし、昨今の状況を見ていると必ずしもそうとは言えなくなってきたようである。ちょっと前には考えられないような凶悪犯罪、大企業の倒産、日本もグローバル化の波を受けて社会情勢も西欧並みになってきた。
 今年は、日本も正念場の年になりそうだ。安心して暮らせる国日本が、過去の神話にならないよう願うばかりである。


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