バタフライ・キス 

監督:マイケル・ウィンターボトム  
出演:アマンダ・プラマー、サスキア・リーヴス、 /イギリス
/’95ストックホルム映画祭新人監督賞受賞*京都みなみ会館8/1〜8/9

 「ユーニス」と「ミリアム」という、
二人の中年期にさしかかった女の出会いから別れまでの特異な極限状態の数日間。
 それまで閉ざされ抑え続けてきた「ミリアム」の心の変化と躍動。

 ぼさぼさの髪に汚れた服。
「あなたの名前はジュディス?」と聞きながら寒々とした田舎のガソリンスタンドの売店ばかりを
訪ね歩く
「ユーニス」。
 そんな「ユーニス」を誰も気にもとめない。胡散臭そうに追い払おうとする...。

 ミリアムが勤めるスタンドにユーニスがやってくる。
うち震える「ユーニス」の心の奥を二言三言の会話で、
無意識に見抜いた「ミリアム」のheart。
 初めての暖かみのある言葉(探してるレコード、曲が解らないのならかけて聴いてみる?)に
戸惑い、
外に出、訳もなくガソリンを自分のジーンズに振りかける「ユーニス」。
そんなユーニスを放っておけず、自分の家に連れ帰るミリアム...
驚く寝たきりの祖母...多分、ミリアムは初めて人を家に連れてきた...

 朝、いなくなったユーニスを追いかけずにいられないミリアムの心。
 ミリアムの出現で心の隙間を少しずつ埋め合わせながらも、
狂気と繊細さ、大胆さの危うさの中、どうしても殺人を止めることができないユーニス...。
いつもいつも、小脇に抱えている手紙の束(聖書の世界?)を放せない。
(神さえわたしを見放している!!!) 

 「ユー」 「ミー」 と呼び合うせっぱ詰まった声に、二人の心の求めあいがあふれて、痛い。
最後、ユーニスはミリアムの愛にすがる......。

 そんなユーニスを丸ごと、しもべのようになって愛しきることで、
逆に癒されていくミリアムの描き方が とてもよく解って 上手いと思った。

 心の解放を知ったミリアムの、嬉々とした回想の表情のショットと
インタビュー(あるいは取り調べ)を
間々にはさんでの強烈インパクトの強い、痛々しい映画。
それでいて 本当に真摯に生きることの 大変さと難しさを、
映画ならではの狂気の世界で教えてくれる、とっても奥深い作品でした。

 ――バタフライ・キス――ミリアム曰く、
私が本当にキスしたことがあるのは両親と叔母と、そしてユーニス...。


 晩菊 
 
監督:成瀬巳喜男
  出演:杉村春子、細川ちか子、望月優子、
沢村貞子、加藤大介、上原謙、小泉博、有馬稲子/林芙美子原作/1954年作品
(自宅ビデオ鑑賞)
 「稲妻」「晩菊」「浮雲」と、林芙美子原作の底辺の女を描いた作品を映画化した中のひとつ。


 
う〜〜んと、ため息つきながら、見終わってまず思ったこと。
成瀬監督って、なんと女性の描き方がリアルで上手いんでしょう。
にくいほど頷くものがある。
それぞれの女がしたたかに生き生きと息づいてる感じが自然で、
今の時代にも充分納得させられるものがある。

 いろいろあっても生きていこうじゃないのって、肩の力が抜ける。
モノクロ映画っていいなってつくづく思わされた。
女優人もそれぞれがわくわくするほど持ち味でていて、コミカルな軽妙さもちょっぴりあって、
楽しめますよ。

 一言で言えば?平凡な世間並みの幸せから、ちょっとはみ出た人たちの、
終戦後すぐの時代の日常をたんたんと追ったもの。
 三人の芸者上がりの女がそれぞれの過去を引きずって、
時々シビアな関係ながら会い、戦後をまさに生き抜いている。
 倉橋きん(杉村)はお金を貯めて、小ぎれいな家に
聾唖の若いお手伝いさんを置いて住んでいる。
貯めたお金で不動産を転がして、したたかにがめつく生きている。
不動産の転売等を手伝ってもらっている男(加藤大介)に
「耳の聞こえない子じゃ、不便じゃないかね」
といわれ、「しずかでいいよ。余分なことあちこちでベラベラしゃべらないし」に、
きんの人情としたたかさの入り交じった人間像が浮かぶ。

 小池たまえ(細川)は、温泉マークの怪しげな旅館に働き、息子がいる。
 鈴木とみ(望月)はビルの掃除婦をし、娘が一人いる。
 しかし、子供たちもそれぞれがしたたかで活力あって、
二人は、老後を当てにする楽しみもままならず、ため息をつきつつ、
とみは、珠恵の家に同居し、気持ち的には支えあって暮らしている。

 ある日、きんのもとへ、昔、無理心中を一緒にした、片割れの「せき」と云う男が
1万円貸してくれ と訪ねてきたが、心一つ動かされず、一円も貸さない。
 もう一人、にくからず思っていた田辺って男の一度訪ねていきたいと云う手紙には、
そわそわ、うきうき。
(この辺の描写がおかしくって、せつなくって、うま〜いの)
 いそいそと化粧までしてお酒を飲ませて、恋心よ、あわよくば再び!との思いも、
借金ほしさだったことが徐々に解ってくる。
あからさまにがっかりし、冷たく白けてく様がとってもうまいし、おもしろいの。 
 戦後を生き抜く中年女たちの個性、才覚、生活の匂いのぷんぷんする。
その時代にいたであろう等身大の女の性を、
愛情をこめたカメラワークで見せていただいた気分です。
 「たまえ」の細川さんの雰囲気が猛々しくもなく、無理もなく、
哀愁があって、何となく好きだなあと思った。

 ◇◆成瀬監督は明治38年生、苦労して育ち、
15才で松竹蒲田撮影所に小道具係として入社。
後助監督を10年してから監督になられた人。
 ◆◇余分な台詞を削り、不要なアクションを削り、ロケを削り、
背景の目立つものを省き、成瀬世界を作っていった。
基本的にカラーのきらいな監督。
現場でも大きな声を出さない、特にあれこれ指示も出さない、監督だったようです。
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とってもうれしいことがありました。  
Aさん(男性・50代)が、晩菊を観た感想を送って下さいました。
  ☆ここに掲載OKを頂きましたので、よんでくださいな。(1999/5/21)

 私は杉村春子の大ファンで、
亡くなられてから最近ではスクリーンに映し出されることもほとんどなくなり、
それだけに懐かしい思いで観賞させていただきました。
 個性的で人間の心のあやを表現できる素晴らしい女優さんで、
男では”笠 智衆”の名があげられるでしょうか。
二人とも日本人の奥ゆかしさや、ロマンを背中に背負っていて、
観る人の心を感動させずにはおかない、
日本を代表する名優でした。

 さてプロローグの字幕と共に流れる音楽はとても懐かしく、
おかげで遠い昔の良き時代にさかのぼることができました。
当時の日本映画音楽、文芸物の大半があのような曲で始まったものです。
(pu−koさんはまだ赤ちゃんの頃だから覚えてないと思いますよ。)
 一般的に短調は日本人受けするのですが、私自身もその点例外ではありません。
 昭和20年後半から30年にかけて自分はよく母に連れられて映画をみに出かけましたから、
音楽を聴いたとき、母の面影や、当時の世相やらが走馬灯の如く浮かんでまいりました。
 
 今ふりかえってみると当時は実に生活をテーマにした映画が多かったと思います。 
日常のことが日本人皆の関心事だったからでしょうか。 
 個人主義や、人道主義といった今は
古い価値観にともすれば受け取られるヒューマニズムが流布し、
一方では社会派が思想界をうずまくそういった純粋さがまだ残っている時代でした。
 演劇や映画の世界にもそれが色濃く反映され、その延長線上に
この映画<晩菊>がつくられているといえるのではないでしょうか。
内容のほうですが私にはウムーと一声かけたところといえますか。
 良い映画だということはわかりますが、
女性の方のほうがこの映画の良さをもっと感じとれるというところですね。
 小津監督の方がやはり自分にはあっているようです。
でもpu−koさんにはとても気に入った映画だということが、よ〜くわかります。
自分が女性の立場で考えれるとしたら、やはり同じ感動をうけるかもしれません。

 ベニスに死す 

監督:ルキノ・ヴィスコンティ
 原作:トーマス・マン 
出演:ダーク・ボガード/ビョルン・アンドレセン/
シルバーナ・マンガーノ 1971年フランス・イタリア合作品。
  自宅ビデオ鑑賞(10/18)

 大作曲家のグスタフ・マーラーをモデルにしたといわれる、
トーマス・マンの同名小説の映画化作品です。
小説の中では作家・アシュンバハですが、ヴィスコンティは音楽家マーラーを意識して脚本した。

 いきなり、マーラーの「交響曲第5番」が、うねりのように重々しくも静かに流れ、
海のような川のような水面に蒸気汽船が走る。
 コート、ハット、しゃれたマフラーをたらし、手袋と傘をもった、丸めがねの立派な紳士が、
画面に流れ、その、何となく落ち着かない様子が、音楽とマッチするかのようだ。
サン・マルコから遊覧船に乗り、ベニスの高級な避暑ホテルに逗留することになる。
支配人らしき人に「アシュンバハ教授、海の見える最高のお部屋、308号が用意してある」と
いわれても、
も一つ反応は神経質に見える。彼はここへは心臓の疲れもあって、休養に来たようだ。
このホテルのロビーで食い入るように見つめてしまう美少年に出会う、アシュンバハ。

 少年一家が食事をする頃自分も食堂へ、そして密かに盗み見る。
そして、砂浜で仲間と海に入ったり、砂遊びをする姿を、貸しテーブルに向かって
作曲活動をしてるふりをしながら、
真っ白な礼服姿のアシュンバハの目が「タドツィオ!!」と、母や姉から呼ばれる美少年を追う。

 その、暗いきまじめな葛藤を、ダーク・ボガードが心迫の演技で顕わしてくれる内面の世界だ。
 もともと、享楽など好きでなかった、落ち着かないアシュンバハに
訪ねてきた友が杭を刺す。
 「人間嫌いの、自分を出せない、逃避者。小さな過失も忌み嫌う者。
もっと汚らしさに身をさらせ、それが芸術家だ。君の芸術の底に何がある?平凡だ!」と、
罵倒され、
己がいたたまれなく、ミュンヘンに戻る為船に乗るも、手違いで荷物がなく、列車に乗れない。

 またホテルに戻らねばならぬ自分が、うれしくてうれしくてたまらない。
その雰囲気が伝わってくる。
 ベニスの街をぶらぶら散歩する「タドツィオ」家族を、
散歩のふりで追う彼を「タドツィオ」は振り返り、何度も確認する。
 そこには無言の交流が始まっているようだ。
少年のその、思わせぶりな姿が、アシュンバハを最後の力を振り絞るように燃え立たせる。
 彼はつぶやく。
純粋は努力で得られるものではない。老人は不純だ。
 自分の中の相対するものの中で、歓喜と絶望をない交ぜにし、
美少年に精神と官能の合わさった美を描き求め、交響曲をうならせながら、
芸術家は心臓をおさえ、砂浜に倒れる..........。
苦悩という官能が、ナチス時代をくぐった人のそれをだぶらせて、
独特の世界を、静かに感じさせてくれる。
秋の夜の、大人の世界を感じさせてくれる映画だった。
暗さも混じった、きまじめさの流れる映画ですが、たまにはこんな日もいかがですか。

 わたしは、最近、成瀬巳喜男監督作品と併せ、
ふる〜い映画をwowwowから録画してあったビデオでみることが多い。
つい、眠ってしまうことも多いんですが..。*^_^;;

  

 カンゾー先生  

監督:今村昌平 
 出演:柄本明/麻生久美子/唐 十郎/
   世良公則/伊武雅刀/松坂慶子/
1998.11.8京都弥生座1にて、鑑賞。
第51回カンヌ国際映画祭特別招待作品/音楽=山下洋輔/
先日、黒沢明監督が亡くなられたとき、弔問に訪れる今村監督をT.Vで拝見しました。
 杖をついて、支えてもらって、やっぱり、お年なんだと、思ったものですが、
この作品、想像以上にエネルギッシュな監督の熱い想いと深い目線を感じました。
「うなぎ」以上にいい作品ですよ。今村監督のラスト作品といううわさも聞きました。

 おまけに音楽はあの山下洋輔ですぞ。
映画とジャズそしてブルースが、戦時下の風景、人間模様と妙にマッチするおもしろさもありました。
真っ正面からとらえる戦争映画とは異質の重みもあるし、
坂口安吾の原作と今村世界のドッキングの面白みと、軽妙だけど重厚って感じがある。
戦時下をくぐり抜けた監督のメッセージがしっかり伝わってきます。 

 カンゾー先生は、「開業医は足だ!」という先代の遺訓をを守り、
毎日診療鞄を抱え、町中を走り回る町医者の話です。
 原作では伊豆が舞台ですが、映画では瀬戸内・岡山の日比海岸、牛窓等が舞台になってます。

 栄養不足からみんなの肝臓が腫れている。
肝臓炎じゃ、いうて、ぶどう糖の注射をみんなにするので、藪医者とか、カンゾー先生といわれている。
これはどうもウイルスとよばれるもののせいでは?の見込みで、
何とか正体を見極めたいと、一生懸命の肉体派?の人。

 これを演じた、柄本明がなかなか良かったのです。
頭の先から爪の先まですべてグー。鞄を持って走りに走るその全身、表情がとってもよかったです。
一皮むけた役者になったのではないでしょうか。惚れました。
 住職を演じる唐 十郎、ヒロポン中毒の外科医を演じる世良公則。
この3人の戦時下での特異なキャラクターとずれ。
そして身は持ち崩しても心根は〜〜って、妙に熱くなるところが、
でも、嘘っぽく感じない、不思議な映画。不思議な3人。
で、結構羨ましい。
 おまけに、戦争に行く町の若者が「かわいそう」と、請われれば誰とでも寝てしまう、
天然の人、ソノ子を演じた、麻生久美子ちゃんが、
伸び伸びしていて、まぶしかったです。
捕虜収容所所長役の田口トモロヲもよかったし、料亭の女将の松坂慶子も華があったし、
日本映画もいいなって、思いました。
 日曜の朝、観たのですが、観客7人!!
なんで〜〜??来週からは時雨の記に変わるから、そのかわりめだからかな。
「時雨の記」の方が動員数多いんだろうな。中里恒子のこの原作、読んだことあるけど、そんなに魅力感じなかった。
吉永小百合さんは原作のどこに惚れ込んだのかな?私はカンゾー先生の方がお薦めなんだけど。
おまけ:
 wowowで香港映画、アン・ホイ(女性)監督の「女人 四十」(にょにん よんじゅう)って作品見たのですが、
とっても良かったです。
 義母が急死し、アルツハイマーになった舅を引き取ってからのドタバタを
コミカルに切なく真面目に撮ったさくひんです。
 長男の奥さん役の女優さんが絶妙の演技。
おかしくって、ほろっと来る。カンフーと違う香港映画もいいですね。
日本でこのタッチは難しいかも。機会があったらご覧下さい。
       


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