「山の郵便配達」
’99・中国/'99年度中国金鶏賞最優秀作品/

監督:フォ・ジェンチイ/出演:トン・ルゥジュン/
リィウ・イェ/ジャオ・ジィウリ/他

山や田圃、山道の脇の風に揺れる草色
すべての緑がたとえようもなく静かで美しく、川が緩やかに流れ、
父親の顔は素朴でそれでいて眼に強さがあり、
犬の次男坊が頼りがいのある利発な動きで
心を熱くしてくれて、
息子役は可愛く中国の近代化を予感させる
新しさと素朴さを備えたいい顔で、
とても心が静かに満たされていく
お気に入りの映画でした。

2001年作のイタリア映画「息子の部屋」と併せてみたのですが
イタリアの海、家並み室内装飾男優女優の顔もいいのですが、
やはり落ち着いて、すーーーーっと感情移入できたのは
中国の若手(30代後半くらい??)監督の眼のほうやなー。

1980年代はじめ、
湖南省西部の険しい山岳地帯の村々を
歩いて届ける実直な公務員の郵便配達の父。
まじめで幹部にもならず、ワイロに手を染めることもなく、
膝を痛めて早期退職させられることになり、
息子に山の郵便配達の過酷な仕事を託していく話。

二人と犬で山道を歩き、村々に郵便物を届け、集めながら
それぞれの村で事情のある人の心をくみ取りながら進む3日間で、
なかなか家に座っていられない仕事のためその父になじめず、
一度も「父さん」と呼べなかったわだかまりが
すっかりとれ、
父子の心が奥深く交わりる物語。

近道をするため頭に郵便物の入った
リュックを乗せて川を渡るシーンがあるが、
父は当然自分が見本を見せるつもりでいたが、
あっさり息子に制止され、
おまけに息子に背負われて川を渡る。
その背中で流す涙に
老いて息子に仕事を譲る父の寂しさと誇りが
息子に伝わっていく様がすばらしい。

最初の村でみんなが新しい配達人となる息子を
見に、そして父を送るため集まったその顔顔が、
多分本当に山岳地帯に住んでいる
人たちのエキストラなんだろうが、ジーーンと 懐かしい。

郵便配達人はこの山岳地帯の娘と
恋をして結婚した。
故郷を思い続ける母に息子が聞いた一言。
「山の人はなぜ山に住むの」
「それが一番合ってるからよ」
どうしてだか、この映画の中で
一番心に残った言葉です。

また、「何にもない山」という息子に
「考えることなしに人生の喜びはない」と諭す父の言葉も
何年も山の人たちと交わってきた父の重みだ。

(2002/7/ビデオで・・・)

「息子の部屋」  2001・イタリア/カンヌパルムドール受賞
監督:ナンニ・モレッティ/出演:ナンニ・モレッティ/
ラウラ・モランテ/ジャスミン・トリンカ/
ジュゼッペ・サンフェリーチェ/他

上記中国作品と同じく家族の絆の大きさを表した映画だと思う。
監督も主演もするモレッティーは
多才でこだわりを強く持っている人のようです。

父親は精神分析医、母親は広告系らしい会社勤め、
そして素敵で可愛い娘と息子の4人家族。
強い絆で結ばれているような、またそう思いこんでいるような
危うさもそこにはある、よくある知識階層の一家族の物語。

この平穏はいつまでも続くものと思ってそれぞれの日々は
忙しく過ぎていく。

家のインテリア(特に絵画)が興味深く、
母親役のラウラ・モランテがとても魅力的で娘と息子役も
知的で可愛く自然な演技がなかなかよかった。

潜水中の事故で突然息子が死んでしまい、
その元に戻れない現実を前にそれぞれがもがき
苦しみむ。
息子が事故直前に出会い
心惹かれた女の子が会いに来てくれ、
家族全員で車で送っていく時間を
共有する中で個々が現実を受け入れていく様が
ジーーンときた。
精神分析の場面も多く、興味深かったが
自分をどこかで無価値と思ってしまう人の多さは
よく分かる気がする。
ゆとりは悩みでもあるのかなー。


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