阪本順治監督/阪本順治・宇野イサム脚本/ 
 出演:藤山直美.豊川悦司.國村 隼.大楠道代
     牧瀬里穂.内田春菊.渡辺美佐子.中村勘九郎.
                  岸辺一徳.佐藤浩市

 小さい頃から どんくっさくて、ちょっと太めで、
かわいい妹と比べてコンプレックスを持っていたであろう、
「吉村正子」35才。
 尼崎のある町の古びた店の一階でクリーニング店を営む母の姿。
 二階で古くさい足踏みミシンをがたがたいわせながら、
リフォーム、かけつぎ、寸法直し等を
おかきを頬ばりながら、時にはふてくされた顔で、時には空想の世界で
にやりと笑いながら、
延々変わらない日常を送っている正子。
 ある日、ホステスをしている妹が、いつものように、洗濯物がいっぱいになる頃、
それを持って家に帰ってくる。
 二階に上がり、急いでわざと内鍵をかけた正子に
「お姉ちゃん開けてよ、ディズニーランドのみやげ」
ワンピースを正子に差しだし「これ先に直しておいてよね」
「いや!」
顔も見ず、ひたすらミシンを踏み続ける.....
「おねえちゃん、一度病院で診てもらったらいいよ」

 タイトルの「顔」
そして監督名から結構「孤独に心を閉じる、いじけた女」を
シリアスに直美ちゃんが演じるのかな?
って思っていたのですが、
冒頭画面から、やっぱり、直美ちゃんカラー(オーラ?)が彩色されている。

過労からアイロン掛けの最中に急死した母。
その通夜の晩、
「おねえちゃんの存在が恥ずかしくてたまらんかったけど、
ここを喫茶店にするのに出てってくれれば、許したげる」
「別に許してもらわんでいいよ」
思わず首を絞め、二階から突き落とし、妹を殺してしまう。
香典袋の束と昔のアルバムをかかえ、
逃げるその朝は、阪神淡路大震災のその日だった。

 大阪のラブホテル、別府のスナック、
姫島で漁をする身よりのないおばあさんの身代わり娘になって....
逃亡を続ける正子。
 彼女が考え、意図するわけでもないのに、
自然にぼくとつに話す1つ1つの言葉や動作や存在そのものが、
出会う人、人を喰ってしまうところが、爽快でもあり、またウソっぽくも感じるが、
いかにも「直美」色というところか。
 震災の日、やっと大阪の喫茶店で飲み物で休息をとっているとき、
相席にきた「福田和子」らしき設定の女が、
「あんたと私は似たもの同士。福井の方で店するけど、一緒に来ない?」
「友だちはおらんとあかんの?」
そういって去る正子。
やくざからどうも金を借りているらしいラブホテルのオーナー。
彼に「休みの日も部屋にこもってるんやってなぁ。したいことあらへんのか」言われ、
「自転車に乗りたい、泳げるようになりたい」
自転車の後ろを持ってもらいながら、
何度も溌剌とこける正子。
「肩の力を抜いて」
「教え方悪いんと違う」
この言い方、間合いは舞台のノリでもあり、関西人、直美ちゃん独自の味。
でも、直美ちゃんファンの観客のどっと押し寄せる一斉の笑いがちょっぴり、うっとうしい。

前半のミシンを踏むあの姿のやりきれなさの暗さ、大アップのふてくされた顔と
後半のぶっ飛んだ笑顔や逃げる必死の顔のギャップがそれでも結構リアルで、
シリアスに落ち込まない分、暗くなく映画として等身大に楽しめて良いのかもしれない。

この役、よくやったなぁ、直美ちゃん!って感じと
やっぱり、監督も喰っちゃったかな?って感想と
もし、無名の美しくない女優が演じたら
阪本色はどんなふうに変わっただろう??って思いも残りました。
結構あの安定感のある素足が
たくさんアップで写されてました。
外股気味で歩くあの「ドタドタ」ってリズムが
妙にこちらの心を落ち着かす不思議さがありました。

逃げるに際し、整形を選ばなかった脚本が好きです。
「人は変わらない部分を持ちつつ、
でも人は変われる、やり直せる」ってメッセージも
妹を殺してしまった一人の女を
最後までいとおしんで溌剌と生かしてくれた監督の眼も好きです。


 バーフライ  
 
   バーベット・シュローダー監督/チャールズ・ブコウスキー原作脚本/
          出演:ミッキー・ローク/フェイ・ダナウェイ/
              フランク・スタローン/J・C・クイン/
                 1987年(アメリカ)
狂気のない人生は無意味とばかりに、
酒場を徘徊、酒浸りでダウンタウンで同じように日を送る人たちとの軋轢の中で暮らす、
他の仕事はとっても出来ない、売れない作家「ヘンリー」
ある日、いつもの酒場で、酒浸りでありながら、何となく華のある女性「ワンダ」と
意気投合し、彼女のアパートへ。
酒を奢ってくれる男なら誰にでもついていくワンダに腹を立てるほど、
ヘンリーは彼女の気質に惚れ、彼女も、
うらぶれた酒場にいない、繊細で鋭い感性を持つヘンリーに惹かれる。
黄金の部屋で小説は書けないというヘンリーと、
元はウエイトレスだったけど、
お酒におぼれ、誰かからお金をもらうワンダの
狂気で感性を研ぎ澄ますギリギリの危うさとふてぶてしさの
薄皮一枚の貼りあわせがよく出ていた映画。
フェイ・ダナウェイが魅力的だった。


トップへ戻る
シネマ目次へ