更年期応援歌HP上オンライン創作童話(初作品)  

 「常夜燈」  pu-ko・作  

小さな森に囲まれた小さな村だった。
夕方の森は
生ぬるい風がさわさわさわさわ、
大きな竹の葉を揺らしていた。
夏美は母に頼まれて
ねこのチャーと一緒に
「常夜燈」に灯をともしに出かけることにした。
「常夜燈」はこの森の守り神で、夕暮れ時を照らす灯りでもある。

澄んだ水がチョロチョロ、ジョロジョロと草を揺らしながら流れる沢沿いの小径。
この細い道を一気に駆け下りようとしたとき、
チャーが先に腕から飛び出し、走り出してしまった。
「まってぇ〜 チャーー」
夏美も長靴をキュッキュッ鳴らしながら走り出した。

大通りまで出ると常夜燈の周りでホタルが2〜3匹光ったり消えたり。
チャーが飛びつこうと、まるで、蹴鞠ボールのように跳ねていた。
ゆさゆさ揺れる木の葉の音を聞きながら
夏美はそっとプラスチックの蓋を開きローソクを立てた。
「シュワ〜〜〜」
マッチ棒に火をつけた。
焼けそうなほど鼻を近づけてみる。
「ツ〜〜〜ン」
目を閉じあごを上げ、夏美の頬は喜びで紅潮する。
ローソクに火を付けた。
炎が左右に揺れ、「夕方だ〜夕方だよ」
「夕方だねぇ〜」夏美も声に出してみる。
「こっ、こっ、こっ、こっ」 きつつきさんもごあいさつ。

風が夏美のおかっぱ頭を膨らませると、
夏美の胸も思いきり風を吸い込んで
風さんは夏美を連れて森を一周したよ。
下ではチャーがあわてて走り出した。
エメラルドグリーンの透明な目をしたワシさんが
「シューーッ」
「夕方だねぇ〜」
隣のロッジのけむりさんもモコモコ「夕方だねぇ〜」
「ストーーン」
風さんに降ろしてもらった夏美は両手を広げ幸せの一息。

そこへ、
走ってきたチャーが嬉しそうに夏美の足にスリスリしながらくわえてきたものは
なんと、こわれた首から上だけの市松人形の顔。
片方の目がはげ、頬がくずれ、白い下地がボロボロしている。
でも、
そのはげた目に、夏美はとても引き寄せられる気がした。
「連れていってぇ〜」声が聞こえたような。。
そばの水路で洗い、
チャーと人形をだっこして帰り、ドライヤーで乾かした。

お母さんに手伝ってもらい、
藤つるを曲げて、体と手足を作ってみた。
それから2才の頃着ていた夏美のパジャマを着せてみた。
はげた顔の市松人形とパジャマの組み合わせは
何だか泣き出したいほど可笑しかった。
そこで、赤いちっさなエプロンを探して付けたら
なんだか、お人形がコックリ頷いた気がした。
チャーも夏美もこのお人形が大好きになり、
「ななこ」と名付け、一緒に眠った。
 

ところがある日、忽然と人形が消えてしまった。
チャーに聞いても「みゃぁー」って悲しそうに答えるだけ。
夏美はローソクを持って常夜燈の神様に聞いてみた。
「ななこちゃんを知りませんか」
「ななこちゃんは人形の国へ、作ってもらった体と洋服を見せに帰ったんよ」
「でもいつかきっと帰ってくるから待ちましょうね」
「お人形の国の入口はどこ?」
「この私の足の下には深い長い階段があるけど・・」
「入れるの?」
「出られないけど」
「風がうなる音より大きな悲しい叫び声がこだましているんだよ」

夏美はどうしたらいいのか、わかりません。
でもなんだか、
悲しい声や血を流した顔やゆがんだ口やつかまろうとする長い手が見えるようで
息が苦しくてたまりません。

常夜燈は人間の心の灯火だけじゃなくて、
地下深く旋回している人形たちへの懺悔のあかりでもあったんだね。
何となく夏美はわかったような気がしました。
そうだ。
大きくなったら、人形館の館長さんになりたい。
そうすればきっと、ななこちゃんは帰ってくると思うのです。


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