窓ぎわのベッド 
  いやしの心理小説  (M・スコット・ペック著) 

この本はアメリカの精神科医である著者の初小説で、
アメリカ中西部を舞台に養護ホームで起こった殺人事件の
前後6週間ほどを描いたものです。
私はここ数年「癒し」という言葉に惹きつけられているので、
このサブタイトルを見て買い求めました。
読んでまず感じたのは、人生の終末を過ごす養護(老人が主)ホームの人間模様が、
魅力的なドラマの舞台に成りうるという驚きでした。
老人たちの過去には様々な生があったと想像するも、
行き場が無くなってホームに来た、
もう今後何の楽しみがあるだろうと思われる人たちに、
心の豊かさを求める純粋な懸命さがある.....
「あなた達にとって豊かな生活って何なの?」と.....
そして、生きることと同じように死もまた選んで逝けるものだという
重いテーマも隠されているようです。
自然死の時期でさえも本人が選んでいけるんだと...
今あまりにも病院にゆだねすぎてしまっている
個々人の尊厳死を掘り下げて考えていきたいと思っている人にはお薦めの一冊です。
当たり前といえばそれまでですが、人間は癒し・いやされてふくらんでいけるんだ、
そういう関係をつちかって行くことが生きる ことではないでしょうか。
日本のノンフィクション作家「柳田邦男」著「犠牲ーサクリファイス」
同著「死の医学日記 人間らしい死に方」新潮社等も
このテーマを考える上でお薦めです。

 詩の中の風景  
-くらしの中によみがえる--   
(石垣りん著) 婦人之友社
  '92年刊行されたものですが、大好きな「石垣りん」さんが選んだ
53人の方の詩に呼応したかたちで「りん」さんの心模様が
それぞれに短い文で添えられています。
自分がつぶれそうなとき、落ち込んだとき、どのページを開いても心の栓が溶け、
あったまり、そしてちょっぴり痛い棘を刺してくれます。

         声   会田綱雄
         忍び音というのは

             オクターブは低くても声になる
                         けれどね
         本音というのは
             オクターブを上げても下げても
         なかなか声にならないものだな
    
☆あなたならこの詩にどんな心の窓を開けますか?☆

 もの食う人びと  
(辺見庸著)  ノンフィクション    共同通信社

共同通信社の特派員として長くハノイ支局等に勤務し、
現在は作家の「辺見庸」さんのノンフィクションです。
 バングラディシュからベトナム・フィリピン→
欧州(ドイツ・ポーランド・クロアチア・セルビア・スイス)→
アフリカ(ソマリア・エチオピア・ウガンダ)→ロシア→韓国と、
飢餓線上を訪れ、ともに同じものを食べ語らうことで
今見えにくくなっているものの突破口が.....
著者自身、不安である。意義もわからない。愚かかもしれない。
でもそうしてみたいと。
日本は飽食の文化なのか今変わりつつあるのか私には解らないけど、
「食べる」という直接行為だけでない、
精神の立ちようもそこには深く根を張っている気がします。

 とても重い、口に耳にと蓋をしたくなる(知りたい・知るべきだけど怖い)
旅先ばかりの中で
私が唯一笑ったのは、ワルシャワに近い炭鉱町カトウィツェでの
辺見さんの鉱夫体験の筆です。
石炭はポーランドでも斜陽で、炭鉱労働者削減問題等で深刻なんですが、
それでもここは辺見さんの生地の出るホット出来る部分でした。
こういう人だから(前向きの好奇心?)このヘビーな長旅を続けられたんだと思える。
ヤルゼルスキ前ポーランド大統領との会話も含蓄があっておもしろい。
 一番ねっとり辛いのは、’94年、ソウルの日本大使館前で、
元慰安婦の三人の老婦人の、日本政府からの補償を求めての割腹未遂の件。
一日たりとも消えることのない日本への怨念を抱えつつ、
初恋の人はたくさんの相手をした日本兵の一人だったりして....
マッカリをガブ飲みし、焼き肉を食べ、
辺見さんを初恋の人に見立てて、
お互い泣きながらチークダンスを踊る所がたまらなく切ないです。
「ハノイ挽歌」(文春文庫)を併せて読むと重なるところがあって、
より近づけるかもしれません。 

 FBI心理分析官  

--異常殺人者たちの素顔に迫る衝撃の手記--  
 ロバート・K・レスラー著    早川書房


 地下鉄サリン事件の実行犯の一人、「林郁夫」に無期懲役が求刑されたこともあって、
も一度本棚からひっぱりだしてみました。

林被告はこの一年拘置所で心理学、精神分析学を学び、
松本(麻原)被告は、痛みを感じるのが嫌で、
自分の作ったイメージに逃げ込む「自己愛的人格障害」と結論づけた。
自身については自発的に出家した段階で松本被告への拘束感を持たされ、
自我を崩壊、松本被告の世界観を植え付けられたと分析した。
):毎日新聞より抜粋

 昨年の「神戸小学生殺傷事件」といい今、中学生の手による殺傷事件が多いけど、
中途半端な好奇心でなされるディスカッション以上のものがなかなか見えない。
私自身もその域でストーンと止まっています。
消化不良の野次馬で嫌だなと思っていたので、この本を開きました。
 犯罪の多くの資料→系統的分析→詳しい資料→
犯罪者自身と話をする(犯罪者性格調査プロジェクト)きめ細かい作業の積み重ねから、
外側から犯人を見るのではなく、犯人の頭の中から外を見ることが出来るようになる。
36人の凶悪殺人犯を面接し、犯罪の原因は異常な思考パターンの積み重ねであることがわかる。
(自らの空想によって殺人へと駆り立てられる)
ある段階の空想に飽き(内面のファンタジーだけで満足できなくなる)
もっと過激でもっと異常な空想(思春期の頃からサディスティックな空想を繰り返す)に
耽り、
殺人を犯す(精神的満足を得るのが目的)ようになる、
そして服役していても空想を生かし続けている(犯行現場の写真を欲しがったりする)
 具体的にそれぞれの犯人の経歴、犯行状況、収監後の面接等が細かく記され、
それが即今の日本の犯罪状況の分析に重ならないとしても、
文化(社会)の荒廃との連動みたいなものはあるんじゃないのかなあ。
日本も塀の向こう側に入って以降のフォローの状況を分析・公表してるのかな?
それともそういうシステムがないから、
水面下で少年の供述調書が雑誌社に流れたりするのかもしれません。
 


 「女の生き方」四○選  
山崎朋子編   文春文庫上・下

 戦後の「分藝春秋」誌に掲載された中から、
女性史研究者でノンフィクション作家の山崎さんが選んだ四〇編。
四〇数とおりの全く違う生き方。
 当たり前といえばそれまでですが、むねがわくわく、ドキドキ。
文庫でこんなにたくさんの人生をかいま見、味わえるなんて...
やっぱり読書は最高...
 平林たい子、愛新覺羅浩、淡谷のり子、杉村春子、デヴィ・スカルノ.....
小野洋子、田中絹代、黒柳徹子、岸恵子、岡本綾子、
俵万智、吉本ばなな、都はるみ.....
そうそうたる名前を見てもなかなか深みがあっておもしろそうでしょ??
 自伝と違って文が短いだけに逆に行間が読めて
何となく相手が身近に迫ってくることもあります。
 そんな中、
 「四十年を看病に生きて」を寄稿(1967.12.)された
吉野登美子(歌人・吉野秀雄の妻、二人とも再婚)さんの人生に
ある種の透明感・すがすがしさを感じた......

 「あなたって、看病するためにこの世に生まれてきたみたいね」といわれ、
 ―考えてみればそうかもしれません。
八木重吉、桃子、陽二、吉野、吉野陽一と、
昭和の四十年間の大半は看病で過ごしてきました。
  私は子供の頃、父が日本画をやっていたので、日本画家か声楽家になりたいと
思っていました。
十八で嫁いで以来、その夢は完全にどこか へ消えてしまいました。
  でもそのことを、少しも不幸と思っていません。看病に没頭することで、
人の命に心に魂にまっすぐ目をむけ、余計なことに気を散らさずにすんだことは、
かえって私にとって幸福なことだったかもしれないと思います。
それだけ純粋に生きられた、と思うのです。

     …とても凛としたものを投げかけられた気がしています…

  
 死の泉  
  
 皆川博子著  ハヤカワ・ミステリワールド   早川書房

 第二次世界大戦下のドイツ・ナチスによって設立された<レーベンスボルン>は、
未婚のまま身ごもった女たちの産院と孤児院を兼ねていた。
そこは、アーリア人こそ世界一の優れた人種と云う思想を
せっかちに強固に押し進める政策の一つであった。
金髪に青い目、高い鼻、ほっそりした顔、バラ色をおびた白い肌...
外観でまず選別し、その要素があればポーランド等からも拾い集め、
ドイツ総統の子として育て上げようとした...
 これがこの物語の始まりですが、
ミステリ・幻想小説・時代小説を融合させた独特のねっとり感があって、
でも一気に読める本でした。特に登場する少年たちは
みんな生き生きと存在が飛び跳ね、
児童文学から出発した著者らしい片鱗が感じられます。
カウンター・テナーの魅力にとり憑かれてるという著者の愛と思い入れも感じられます。
私はこの本を読みながら
浅田次郎著の「蒼穹の昴」(宦官を選んだ・あるいは選ばされた少年の一生)の
ことが胸をよぎり、
脈々とつづく人の生の重み、力強さを信じたくなりました。

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ちょっと個性的でユニークな本屋?さん。
私、「フランス女」長坂道子著・「トリュフォー」山田宏一著・
「生活はアート」パトリス・ジュリアン著・「父の娘たち」矢川澄子著の4冊を買いました。
すべて山本和美さんの書評を見て読んでみようと思いました。

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