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□やどかりの里−家族主義と個人主義□

 2000年1月に2日間に渡ったやどかりの里国際セミナーへの参加は,私にとって精神保健福祉の分野への最初のアプローチとなりました.私は,大学院博士課程にて社会保障政策を専攻しているため高齢者福祉や身体障害者福祉に関わってきたものの,精神保健福祉の分野に関わる機会を得ていませんでした.国際セミナーへは,偶然に誘いを受けての参加でした.

 高齢者では介護保険制度,身体障害者では視覚障害者の就労をテーマに研究していることと,国際セミナーでの報告内容とはまったく関連性のないものではありませんでした.国際セミナーで盛んに言われた「コンシューマーイニシアチブ」は,当事者主導で自立生活を目指し,周囲はそれを救済ではなく支援するという概念であり,高齢者,身体障害者,精神障害者のすべてに当てはまるものでした.もちろん,それぞれの分野でその達成度も違えば,方法論も異なるので一概に共通と言うことはできません.

 カナダにおける精神障害者が自立生活を勝ち取ってきた経緯,そして現在の精神障害者の自立生活を支援する体制についての説明を受けて,日本側からはやどかりの里の目指しているものとの共通性を強調する発言がなされていました.セミナー参加後に,精神保健福祉におけるやどかりの里の独立性と先進性は群を抜いているとの紹介を受けたことからも,発言の真意は精神障害者の自立生活の実現を目指す熱意にあると感じました.

 カナダの実現したものと日本の取り組みに共通性を見いだすのは重要なことですが,一方でその違いについても十分に認識しておく必要があります.カナダの取り組んだ経過を踏襲すれば日本でも同じものが実現できるというわけではないからです.カナダの社会的支援について,医師,知人そして親族をも利用可能な資源として相対化して自立を目指す,当事者を中心とした個人主義とも呼べる概念が核となっています.日本では,身体障害者の分野でもそうですが,当事者と言ったときに障害者本人のみならず家族や支援者を含めて当事者とする考え方が見られます.家族も障害者本人のことを自分のことのように思い悩み,喜怒哀楽をともにする.カナダの個人主義に対して,日本の家族主義と呼べるものかもしれません.

 家族主義も善し悪しで,本人の波が激しいときに同調していたり,極端に将来に悲観的であったりすれば,自立を目指すことを妨げる恐れがあります.カナダのように個人主義に則って相対化すれば,見捨てるというのではなく自立を見守るという健全な姿勢が保てるのでしょうけれども,日本で定着可能な考え方かどうかには疑問が残ります.日本において当事者自身が家族主義と個人主義のバランスをとって自立を目指すことができるのか,その模索と検証をやどかりの里メンバーに期待したいと思っています.

(2000-8-14改訂)


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