/lab/izumit//Essay


□SFC Open Research Forum

 慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスの略称がSFCです。潮風も届かないような山奥にありながら,どこが「湘南」だと言われつつも,最寄り駅は「湘南台」だと言い訳する。そんなことはどうでも良いのですが,不便なだけでは大学としての存在が忘れ去られてしまうということで,毎年研究成果の発表展示会を都心で開催しています。それがOpen Research Forum略してORFです。2004年は昨年に引き続き六本木ヒルズの40階にあるアカデミーヒルズを2日間貸切の会場にしていました。企業スポンサーも多数後援してくれるために会計収支はそれほど悪くないのでしょう。

 11月23日には注目すべきトークセッションがあったので,子どもらの手を引きながら参加してみました。だって祝日なので,相方は出勤して保育所は休み,必然的に子守は私しかありません。さすがにいつ昼寝タイムに突入するか読めない3才児2人を連れてバス・JR・地下鉄乗り継ぎを敢行する勇気はありません。六本木ヒルズには何度もクルマで行っていますから駐車場の勝手も分かっています。休日なので混み具合が気になりましたが,結果的には新宿・神宮外苑付近の渋滞にははまったものの十分に余裕のある時刻に到着することができました。子どもらは車中,当然のように寝ました。

 セッションテーマは「市場とコモンズ」,金子郁容教授×竹中平蔵内閣府特命担当大臣,コーディネータ玉村雅敏氏というメンバーでした。慶應幼稚舎舎長を務めた経験を持ち,コミュニティスクールの実現に熱意を持って取り組み,フラジャイル(弱い)であることの強みといったコミュニティ論をお持ちの金子先生,そして小泉政権における構造改革推進の中心人物となった竹中大臣の対論が面白く無いはずがない,そんな思いがありました。

 竹中大臣はテーマ設定の妙についてまず最初に発言された。市場と組み合わされる通常の概念は政府であって,コモンズを持ってきたのはSFCらしさを表現している。これは「公と私」,「官と民」を別の次元で捉える試みと言って良い。つまり,PublicとPrivate,GovernmentとMarketを区別するということです。英単語が出てきてわかりにくい人もいるだろうけれども,社会全体のために資する財・サービスその他もろもろがPublicに含まれ,個々の主体(個人でも企業でも)が自らの才覚と裁量で自らの利益最大化を図る部分がPrivateという切り分けです。

 今回のセッションでは,金子先生が教育を具体的なテーマとして挙げて,地域コミュニティのコモンズによって学校教育を改善していくケースを紹介しました。これに,竹中大臣はPublicな財やサービスであっても,VoiceとExitの可能性が残されていることが重要だと話しました。つまり,地域住民を巻き込んだ理事会や評議員会といった学校支援の組織をつくって改善のきっかけづくりをしてやること,あるいは問題点を直すように要求することがVoiceです。最後に改善の見込が無くて別の選択肢,つまりは別の学校に転校するといった手段に訴えるというのがExitです。従来の義務教育の学区制において,選択肢は無く,都道府県教育委員会が小中高の全教員の人事権を握っているといった状況では,VoiceとExitが担保されていなかったのです。

 コーディネータの玉村氏は千葉商科大学政策情報学部助教授であり自らはSFCの3期生です。私も千葉商大で非常勤講師をしていますから事前情報は得ていましたが,加藤寛千葉商大学長(SFCの初代総合政策学部長)がセッションに飛び入り参加しました。飛び入りというには最初からステージに椅子があって準備が良すぎます。玉村氏は,加藤先生をSFCの創設と理念づくりに携わって「未来からの留学生」と学生を位置づけた第一世代と呼びます。さらにその後のSFCを支えている金子先生,竹中大臣(彼がSFCの教授から政治家に転身したことは言及するまでも無いでしょうが)らが第二世代,そしてSFCで教育を受けて研究者として活躍し始めている自らのことを第三世代と呼びます。

 加藤先生の飛び入りによって三世代の交流戦になるかと思われたセッションも,相変わらずお元気な加藤先生の独演会となりかけます。三位一体の改革と言われるものの中身,そして三方一両損的解決方法,竹中大臣が聴衆に多数紛れているマスコミ関係者に気兼ねして言えないことをぽんぽんと代弁していました。最後に止められるのは玉村氏ではなく,やはり名物秘書のKさんでした。

 このセッションは結論を出すためのものではありませんから,将来的な日本のあり方にたくさんのヒントを投げかけるものに終わったという印象を持ちました。古くて新しい営利と非営利との関係の捉え直しを様々な分野で進めていくことの重要性が再認識されたとも言えるでしょう。

 金子先生について,かつてSFCの政策メディア研究科在籍時に教わった経験がありますし,プロジェクトと呼ばれる研究会にも飛び入り参加させてもらったことが何度もあります。私見ではありますが,SFC随一の天才肌という印象を持っています。ユーモアも凡人には理解不能な高度なレベルだったりするために外してしまうこともあるのですが,パラダイムチェンジを起こすことのできる論客として尊敬している方です。

 余談になります。1時間半に渡ったセッションで,子どもらはお菓子を食べたり,眠そうにしてみたり,靴を脱いだり,椅子の上に後ろ向きに座り聴衆を眺めたりとごそごそしていましたが,騒ぐわけでも泣き言を言うわけでもなく過ごしました。周囲には門前の小僧を期待してますなどと言っていますが,親ながら驚いています。


Myself Study Essay Computing Bookmark

index