1999年11月12日
                                       

 岡山市教育委員会
  教育長 戸 村 彰 孝  様
                               豊かな学校給食をめざす市民運動実行委員会

                           代表委員  品  部  義  博

                            代表委員  日  名  泰  之

                           代表委員  椋  代  厚  子

                           代表委員  山  口  捷  子


           学校給食の改善充実を求める申し入れ

初冬の候、貴殿にはますますご清祥のことと存じます。
さて、岡山市の小中学校の学校給食のあり方について議論が起こって約半年が経過し、現在「岡山市学校給食運営審議会」が設置されて、12月には中間答申をまとめると伝えられています。
私たちは、岡山市議会での学校給食の民間委託を求める質問など、学校給食の見直し論議が、より豊かな学校給食のあり方よりも、コスト問題をはじめ合理化の傾向を強くしている点に疑問を持ち、「岡山市の学校給食をみんなでよくする会」が5月29日に開いた「豊かな学校給食実現緊急市民集会」の場での呼びかけに応えて、「豊かな学校給食をめざす市民運動実行委員会」を結成して、さまざまな学習や研究を進め、その成果をもとにここに要望書を提出することといたしました。
飽食の時代と言われるもとで、子どもの食の問題は大きな社会的問題に発展しています。それは、@偏食と栄養の偏り、A朝食をとらない子どもの増加、B加工食品の増加による食事の変化と、健康問題や食の伝統の伝承が断絶している問題等々で、これらの問題は黙過できないほど顕著になっています。その影響は、子どもにまで生活習慣病がひろがる形で現れ、深刻な問題として危惧されています。こうした状況は日本の社会全体の食のあり方の問い直しを求めていますが、社会を担う次世代の子どもたちの問題として考えるとき、その子どもたちの社会的、教育的な環境に責任を負う大人に課せられた課題として、他人事にしないで、真剣に取り組むべきこととして自覚しなければならないと痛感されます。学校給食の問題はこうした視点での新たな教育問題としてとらえ、検討していくことが求められています。
 今日の岡山市の学校給食制度は、相対的には全国的に見て、先進的な内容をもっていると評価しています。栄養士の配置レベル、自校方式を基本とした「見せ、実体験させる食の教育と、給食の提供体制」、調理員の公的な配置システムなどが、その優れた内容となっています。文部省の「保健体育審議会」の答申に沿った施策として実現されている点も注目すべきことです。これらは、先人の関係者の方々のご努力と、現在の学校関係者の皆さん、PTAを中心とした保護者の方々、教育委員会をはじめ、行政や議会の方々のたゆまぬ努力と研鑚の結果と拝察いたします。しかしながら、先に述べたような子どもの食をめぐる現代的な課題に照らすとき、これに甘んじることなく、さらに発展させて、今日的な課題に取り組む新たな充実が求められていると見るべきだと考えます。
 地方自治体の財政危機のもとで行財政の見直しが進む中で、教育としての学校給食を合理化の視点のみでとらえて、栄養士の配置を弾力化し、調理を民間に委ねる事例が自治体の中に広がりつつあります。この一年間の岡山市の学校給食をめぐる論議にも、この動きに同調し、合理化のみの視点で検討を迫る軽薄な傾向が濃厚になっているように思われ、残念でなりません。
 現在、「岡山市学校給食運営審議会」の審議が進められていますが、この間の経過を見る限り、大きな不安を抱かざるを得ません。それは、中間報告をまとめる時期が近づいている現在にあって、部会によっては出席委員が半数程度だったり、委員の現状把握の機会があまりに少ない状態で推移しているからです。これでは、予備知識の乏しいままに判断をすることになりかねません。このままで審議会が進行すれば、まず合理化論があり、その具体化の装飾としての審議会答申になり、結果として民主主義の時代にあってはならない形骸化した教育行政に陥りかねないとの危惧を抱かざるを得ません。
 私たちは、実行委員会を結成して以来、学校給食シンポジウムの開催をはじめ、さまざまな取り組みを通じて、今日の子どもが置かれている時代背景の中で、食と教育のあるべき姿とそのために何が大切かを問いつづけてまいりました。その中で、多くの小中学校における学校給食の現状、他府県における実情や改革の実例、教育者の現状に対する評価や提言、少なくない学校での保護者の学校給食問題への関心と改善充実への活動の事例、また、センター方式で賄われているいくつかの学校の給食の実態や改善への要望の声、等々を受け止めてきました。
 こうした活動から見えてきたことは、岡山市の学校給食がその優れた体制を生かし切っておらず、今大きな改革が求められていること。コスト論のみで学校給食のあり方を評価したり、栄養士の定数削減や調理の民間業者への委託などの必要性はなく、貴重な財政をより効率的に生かして、充実した学校給食のあり方への発展に生かす政策的な工夫と、食の改善と学校給食問題をより教育的な観点からとらえた施策の創造、すべての小中学校に例外なく自校方式の体制を整えることが大切だということでした。私たちは、教育としての学校給食の更なる充実と、学校給食財政のより効率的な活用という視点から、そうした課題を整理し、別紙のとおり改善項目としてまとめました。
 そこで、教育委員会として子どもの権利条約の定める「子どもの最善の利益」を保障する立場に立ち、「岡山市学校給食運営審議会」の審議のあり方が改善されるよう働きかけるとともに、より豊かな学校給食を実現するため、主体的に優れた政策、改善策を打ち出されるよう、下記のとおり申し入れますので、十分に検討され、ご回答くださるようお願い申し上げます。

                           記

1. 「岡山市学校給食運営審議会」の各委員が、日本の子どもの置かれている食の現状と教育上の問題についての深い認識をもって審議にあたれるだけの研究と調査の機会を十分に持てるように、また、優れた研究者の説を多面的に学び、現場の従業者の声、保護者や市民の幅広い声を反映して論議が尽くし、拙速な中間報告とならないよう、審議会に働きかけてください。また、中間報告以後、広範な市民の意見を反映させる機会を作り、それを受けて最終的な答申づくりの議論を重ねるよう審議会に働きかけてください。

2. これからの学校給食のあり方を決める政策決定に際して、限られたメンバーの審議会委員の意見だけに頼るのでなく、広く市民(保護者)や教師、学校給食従事者が参加する討論の場を作ることや、幅広い研究の成果を行政に生かすなど、真に市民と子どもたちの期待に応え、責任を持てる民主的な方法をとってください。特に、最終答申前の審議会の中間報告段階では、賛否が分かれる問題について政策を具体化しないでください。
3. より豊かな学校給食の実現をめざす立場に立ち、教育委員会が直接責任を負う直営を維持し、学校給食調理の民間業者委託等は絶対に行わないでください。栄養士や調理員の定数削減も絶対にしないでください。

4. より豊かで充実した学校給食をめざして、別紙の改善項目について改善・努力してください。

[具体的な改善要望項目]

1. 調理や献立の内容の改善について
 @統一献立をやめて、原則として各学校で地域性や学校に合った献立を、子どもや保護者、教師の参加も保障しながら立ててください。
 Aご飯も各学校で炊き、日本食を伝える米飯給食の回数も増やしてくだい。
 B子ども一人ひとりの健康状況をつかみ、アレルギー除去食など、各々の子どもに対応した給食を提供してください。
 C職員の休憩時間も臨機応変にして、子どもたちにできたての、温かいものは温かく、冷たいものは冷たい食事を提供してください。

2.給食材料に関する改善について
@各学校で、地域の生産者と連携し、作り手の顔が見える野菜や果物などの食材を購入できるようにしてください。
A一括購入方式の良さと問題点を洗い直し、各学校で購入することを基本に抜本的な改善を図ってください。
B食品の残留農薬をきちんと調べ、できるだけ農薬を使っていない、食品添加物のない食材を使ってください。
C地域の高齢者の生きがい対策として、休耕田や畑でお年寄りが作った野菜を学校給食に活用するための制度を作ってください。

3.施設や食器の改善について
@すべての小中学校の学校給食を自校方式にしてください。
Aステンレス食器を強化磁器等に切り替え、温かみと情緒を育む給食になるよう配慮し、箸の提供も含めて、献立にふさわしい数と種類の食器を使ってください。
Bゆとりある給食時間を確保するとともに、全校にランチルームを作って、子どもたちが楽しく食べられるようにしてください。特に、新設校には空調設備を整えた「食堂」を設置してください。

4.学校給食をより教育効果のあるものにし、地域や家庭の食を改善するための取り組みについて
@子どもや親も参加できる学校給食にしてください。そのために、定期的に父母と語り合う場を学校ごとに作ってください。
A外国の料理を取り入れて授業と連携させるなど、献立を教材として生かして、子どもたちの学びに役立ててください。
B学校給食を生かした子どもたちへの食指導をいっそう発展させ、子どもたちに食の能力を育て、日本の食文化を伝承してください。
C三期休業中も含め、学校や公民館などを利用して、栄養士さんや調理員さんを講師にして伝統食などの料理講習会を開いてください。
D家庭への「給食だより」の発行を増やし、家庭向けの「レシピ集」も作って、地域や家庭に届けるなど、地域や家庭の「食」の改善に貢献してください。


5.学校給食の内容やレベル、安全性を向上させるための改善について
@調理員さんや栄養士さんが専門性を高め、より豊かな学校給食を実現できるよう、専門・実務研修を充実させてください。
Aすべての学校で保護者、教師、栄養士、調理員が定期的に給食問題を研究し討論する場や給食を試食したり改善を話し合う場、子どもたちも主体的に関われる場を何らかの形で制度化してください。
B食材や調理、調理機器の衛生検査を、食中毒の範囲からダイオキシンや添加物の検査にまで広げ、学校給食における食の安全を確立してください。

6.給食施設や体制を生かし、その効率的な運用を図るための新たな制度の創設について
@三期休業中の学童保育の子どもたちに給食を作ってください。また、部活をしている子どもたちへの補助食の提供も検討してください。
A独居高齢者への配食サービスのために、お弁当を学校給食調理場を利用して作り、ボランティアの応援も得て、地域の一人ぐらしのお年寄りに届けられるようにしてください。また、学校のランチルーム等を開放して、地域住民のボランティアの応援も得ながら、元気なお年寄りのための食事会を開いてください。