岡山市学校給食運営審議会中間報告への意見書(豊かな学校給食をめざす市民運動実行委員会)


                                 2000年1月18日

 岡山市学校給食運営審議会
  会 長  目 瀬 守 男 様

                           豊かな学校給食をめざす市民運動実行委員会

                             代表委員  品  部  義  博

                             代表委員  日  名  泰  之

                             代表委員  椋  代  厚  子

                             代表委員  山  口  捷  子


                 岡山市学校給食運営審議会中間報告に対しての意見書

 私たちは、子ども達のための学校給食の一層の充実を目指して取り組みを進めているものですが、貴審議会が12月24日に提出された中間報告について精読し、検討した結果、一定の前進面を持つものの、重大な問題をはらんでいる部分があると判断いたしました。
 そこで、今日的な社会背景を正確に捉え、学校給食の持つ本来の意義・役割を正しく評価し、
学校給食の真の発展と改善に必要な検討を今後十分していただくよう、別紙のとおり意見書に取りまとめました。
 審議会委員の皆様にご一読いただき、意見書の趣旨をくんで今後の審議を進められるようお願い申し上げます。


はじめに
 今回の中間報告の具体的な改善項目の中には、私たちが求めてきたことで、2000年度からすぐ実施に移して欲しいことが多く含まれています。中には遅きに失していると思われるものもありますが、そうした事項については、最終答申を待ったり、財政難を口実に引き延ばすことのなく実施を強く要望したいと思います。
 しかし、学校給食を巡って、もっとも基本に関わる点で、決定的に重大な誤りがあります。
そもそも地方自治体は、現在の厳しい社会の動向の中で、住民のくらしの環境と、子どもの将来への展望に向け、どう市民の期待に応えるのかの視点でいろいろな施策の検討がなさなければならないものです。
 地方自治体の財政再建や財政健全化の視点は、なりふり構わず住民サービスを縮小・後退させ、自治体職員にしわ寄せを強いるのでなく、住民本位に施策の無駄を見つけ、不要不急の事業の再検討の中で財政再建を図ることこそ求められています。
 今回の中間報告のベースには、財政難を背景に福祉予算を削り、教育費に削減の矢を射る今日の日本の国政の影響を大きく受け、本来の地方自治体のあり方を逸脱する多くの自治体があることと、共通する問題を含んでいるように思われます。

1.中間報告のもっとも大きな問題点は、答申全体に亘って学校給食のあり方を教育の理念に立ち返って考える視点が貫かれていないことです。97年9月に発表された文部省の保健体育審議会答申と照らしても、大きくずれているように思われます。
 @ その重要な第一の点は「民間委託」の結論を引き出すためのものになっていることです。
「4 学校給食の在り方」では、「次代を担う児童生徒が生涯を通した健康づくりや食文化についての基礎知識を身につけるとともに、集団生活のマナーやルール、経費負担の仕組みなどを体験しながら修得していくという教育的意義は依然として大きなものがある」と、学校給食の意義を評価しながら、その視点で現状を評価をしたのか、疑われる内容です。
 岡山市の学校給食の優れた到達点が、自校方式を基本に栄養職員を各校に配置することで、子どもの最も近いところで、給食を通して食や健康の教育を進めることが出来るところにあり、また、そのことで、学校毎に献立を作り、献立に合わせて地場の物をより多く食材として調達し利用できる条件も兼ねています。これは学校給食の持つ教育的機能の基盤であるはずです。
 しかし、中間報告はこの点については積極的な評価をせず、「制度開始以来、(中略)社会的背景が大きく変化する中で、社会的要請との間に格差が生じ、運営方法そのものに制度疲労をきたしている」と坊主懺悔的な評価を行い、結局は、学校給食業務の効率的な運営への対策として、栄養職員、調理員の削減と民間委託化を目当てにした、民間企業的な合理化策への結論の導き方になっています。

A 第二は、費用の問題の捉え方にあります。
 中間報告は、教育費にしめる学校給食に関わる費用の占有率や、1食あたりの費用の増加の問題を指摘し、営業係数と単純に比較して、費用がかかりすぎ、多すぎるとした分析になっています。しかし、費用の分析・評価には、もっと多面的な要素を持って当たる必要があります。
 教育的な意義や役割を持つ学校給食の評価をするとき、民間の営業の計数との比較をすることにどんな意味があるのでしょうか。報告で民間同業者の製造原価構成比と同水準にすることばかりが謳われ、教育的な意義や役割を発揮するために必要なコストについてはまったく考慮されていません。民間と同等のコストを求めることは、「現在の給食の質の向上を目指しつつ」という審議会自身の指摘と明らかに矛盾するとも考えられます。
 このような改革の目標を立てることは、単なる給食弁当にすることを求めるものとも言え、とても教育基本法や学校給食法が定めた教育の理念とは相容れず、大変な誤謬がここにあると考えます。
 また、学校給食を行っている全国の自治体との比較で、岡山市の場合はどのような水準にあるのかを把握することなど、幅広く多面的な比較による正確な評価ができる検討が必要ではないでしょうか。
 もともと、学校給食は教育と福祉の面からスタートしたものであり、民間の経営的な基準で成り立たない面を公費でまかない、その目的を達するところに存在理由があります。その効果がよりあがるような運営になっているかどうかを分析の視点として、評価すべきです。

B 真に検討されるべき課題
今日、真に検討が求められている視点は、以下の点にあるはずです。
1)構造的な不況の社会環境にあって、子どもの教育と給食問題への市民の第一義的な要望がどこにあるか。その把握と対応策の検討。
2)今日まで作り上げた制度の良さが生きていない根本の原因は何にあるか。その分析、究明と改善点の具体化。
3)これからの子どもの教育の在り方を考えたとき、教育の一分野として学校給食を充実すべき点は何か。その充実を図る方途の検討。

2.「4 学校給食の在り方」や、「5 諮問事項に対する主な意見」の中には、保護者や学校関係者から、この間改善が指摘されてきたことや要望事項について、改善すべきとされた点も多く取り入れられていることは評価できます。
  それは以下の点です。
・ 献立に見合った食器具の使用
・ 地場食材の使用促進、米飯給食の増加
・ 自校炊飯方式の検討
・ 給食センターへの保温・保冷車の導入
・ ドライシステムの給食場への転換・整備
・ 学校栄養職員のチェック機能と指導性の発揮、及び保健所機能との連携強化
・ 学校行事に合わせた献立・弾力性のある給食
・ 食材や献立の制約条件の見直し改善
・ ランチルーム(食堂など)の整備促進
・ 献立工夫で残菜を少なくする
・ PTA組織による学校給食運営方途の検討
・ 共同購入方式を含めた食材購入システムの見直し
・ 削減できた経費を教育施設・設備などの充実に還元
ただし、これらの事項の中には解釈に幅があり、再確認して必要であれば是正を求めるべきこともあります。
@ 自校炊飯方式の検討、給食センターの保温・保冷車の導入に関して
  いずれも大切で必要な改善項目であるが、部分的に継続されている共同調理場方式(センター方式)を現状のままで残すことを前提とする場合に、多くの矛盾を含みます。
・自校炊飯方式は(段階的導入にしろ)、全校が基本的には自校方式で給食がまかなわれてこそ生きる取り組みです。他府県で、様々な試みがなされていますが、ただ単に目先を変えて子どもの気を引くのみというお寒い発想ではいけない取り組みのはずです。この点はどう考えるのでしょうか。
・保温・保冷車の導入も、共同調理場方式(センター方式)を単独校調理場方式(自校方式)に切り替え、岡山市のすべての子どもに同じ条件を提供することが前提なのか、それとも将来に亘ってセンター方式を残すのか、この対応によって大きく違ってきます。センター方式を実現するまでの過渡的対応策として受け止めたいところですが、真意はどこにあるのでしょうか?
・中間報告では、自校方式の方がセンター方式に比較して1食あたりの経費は安いとの指摘がされています。従って、年度計画を明らかにして自校方式へ切り替える策を盛り込み、この二つの改善が真に生きるようにすることが必要です。
A 学校栄養職員のチェック機能と指導性の発揮
この内容は、現状をどのように評価し、何を問題としているのかがどこにも明確にされていません。仮に、栄養職員の機能が現状で十分発揮できていないというのであれば、それは、制度に起因しているのか、その場合は制度のどこか、また制度ではなく運用面にあるのか、その場合は、運用指導の側(管理者)に問題はないのか、こうした点についての吟味と明確な指摘がなくてはなりません。
そうした吟味なくして、「システム全体」の問題とおおざっぱにとらえて、挙げ句の果てにゆがんだ勤務評価が強化されるようなことにならないように、掲げた趣旨と内容を正確にすることを求めます。
B PTA組織による学校給食運営方途の検討に関して
5項の「(4)その他学校給食の運営・改善の上で必要な事項」の中に、保護者の役割・責任としてふれられていることと関連して、給食現場や学校の教育の中でどう子どもを学校給食になじませ食教育の効果を上げるかの視点で、委員会等を組織して献立作成や食材の選択、家庭との連係を図りつつ保護者がその運営に参画するというのであれば歓迎すべきことです。しかし、参画の名を借りて、保護者を体の良いパート調理職員にとの思惑が含まれているのではないかとの危惧が生まれます。そのような誤解を解くように説明をする必要があります。

3.基本的な視点の誤謬の是正と共に、変更、検討事項から削除または最終答申で削除するよう求めること。

(1) 5項の(3)学校給食の効率的運営の中で具体的な改善項目があげられていますが、以下の点については、変更もしくは是正を求めます。

@ 職員の賃金体系、定年年齢
 この問題は職員の雇用関係に関することであり、労働関係法によって労働組合と市の間で協議して決まる問題です。学校給食問題に絡めて提言することがふさわしいことなのでしょうか。
A 栄養職員の配置基準の見直し、パート職員など加配職員の配置見直し
 国の配置基準は全国的なさまざまな事例をふまえて設定されており、その自治体の考え方や歴史的な到達点を抜きに、単純に基準の適用というわけにはいかない問題のはずです。岡山市の給食問題の位置づけと同じ考え方の自治体との比較でどうなのかなど、実態に即し、主体的に誰もが納得できる基準を持つことが大事です。その点で、この項目は削除を求めます。
 加配職員の配置見直しは、具体的な指標でより公正に「過配」であることを明らかにすることが大切です。その公正な基準を示すことが必要であり、運用に当たっては、@と同様に労働組合と市の間で協定する必要があるものです。
B 民間委託、第三セクターの活用の2項目は取り下げを求めます。理由は、学校給食の本来の意義と役割の視点で検討して出てくる結論ではないからです。試行の中で先取り実施することは決して許されません。最終答申では削除することが必要です。
C 共同調理場運営体制の見直し及び設備の集約化
共同調理場方式は、前項でもふれたとおり、その解消と単独校調理場方式への転換が求められています。提案は「見直して、集約化」となっていますが、これでは今抱えている矛盾の解決にはつながらず、将来に問題を先送りするだけです。さらに提案では経費的にも真の低減になるかどうかの判断につながる検討の後が見えません。
具体的なプログラムを持って共同調理場方式を解消し、単独校調理場方式への転換を求めます。

(2)「6 目標値及び目標年度」は、中間報告の具体化の提案になっていますが、その根幹は、職員の削減、民間委託や第三セクターへの移行を前提にしており、このままの実施はとても受け入れることは出来ません。この評価に中で示したように、最終答申で提案の是正をすることを強く求めます。
 この中間報告がなされ、マスコミで報道されたことで、21億円の削減のみがクローズアップされ、内容抜きの受け止めが単純に広がる危険性を持っています。これは大変重大なことであると指摘しなければなりません。
 平成12年度からの試行を求めていますが、試行される当該校にとっては民間委託にしろPTA委託にしろ、本格実施と同じことであり、子どもをモルモット扱いすることは許せません。そもそも子どもの命に関わる重大な問題を提案するにあたって、審議会として民間委託などを実施している自治体を訪問して十分な調査研究を行った上で提案すべきでしょうし、試行というなら夏休みなどに保護者や教職員を対象にして、調理を実施して試すなどの取り組みこそが試行と呼べるものと考えます。
今後、審議会の検討の中で、民間委託化、第三セクター方式を導入した他の自治体の実状や、問題点についての検証を深め、教育としての学校給食を民間の営業の経営指標による判断に終わらず、あるべき発展に何が必要かを検討し、本当に納得のゆく提案になることを求めます。
 また、中間報告と最終報告の関係に関しては、審議会でも意見が分かれた問題についてまで、拙速に試行を求めるのでなく、この中間報告を市民に広く知らせ、意見を求めて、その集約をもとに、更なる検討や論議をした最終報告であるべきと考えます。具体化はその後のことではないでしょうか。

4.今後検討していただきたい課題
 岡山市が作り上げた学校給食の現在の制度の積極面や優れた考え方を受け継ぎ、その上で、さらに求められる充実や将来への発展は何か、この視点から岡山市(市民を含めて)をあげた英知を結集することこそ今何より必要なことです。
あらためて、学校給食の真の発展と改善に必要な検討として、学校給食運営審議会で審議していただきたいことについて以下の提言をします。
1)農業破壊で見通しを失いつつある「食」の問題に目を向けて、不況で苦しむ市民の要望に沿い、複雑化する社会の中でも個性をはぐくみ、強く生きる子どもを育てるための教育環境づくりを進めることから出発して、学校給食はどうあったらよいか、そのあり方を考えること。
2)保護者と教育現場の関係を築いてゆく上で、保護者(得にPTAとして)の学校給食へのどのような関わり方を創造すべきか、関係者の幅広い声を集め、今日的な視点で検討を行い提言を行うこと。
3)学校給食の負っている制約(民間の営業指標に比べると割高になること)を、学校給食に教育効果を求める社会的な当然の課題と認め、その上で、高齢化・女性の社会参加の時代に見合った学校給食制度の多機能化について抜本的に検討すること。
4)具体的には私たちが提言した17項目の具体化のプロセスについて、プログラムを提言すること。