OHNO Women's Clinic

クロミッドの功罪

クロミッドの功罪
 「月経が始まって5日目から5日間服用して下さい。」子供が欲
しいと病院や医院を受診したことのある、または現在受診してい
るひとなら必ず聞いたことのあるこの説明とともに投与されるの
がクロミッドという名のお薬です。もう少し説明があるとすれば「こ
れは排卵誘発剤です。」ぐらいではないでしょうか。月経周期も順
調なのにどうして排卵誘発剤が必要なのかという素朴な疑問を
いだきながら、まあ先生が飲めとおしゃっているのだから、なにか
の効果もあるのだろうとクロミッドを毎月、毎月投与されて服用し
ているひとも多いと思います。ここではこのクロミッドについてお
話しします。
 クロミッドというのは商品名で本当の名前はクエン酸クロミフェ
ンといいます。ですから製薬会社によってその商品名は異なりま
す(薬品群参照)。今からおよそ40年前に開発されたお薬でその
頃としては唯一といってよい排卵誘発剤であり、その排卵誘発率
の高いこと、また副作用がほとんどないことなどから瞬く間に世
界中にひろがりました。もちろんこのお薬が本当に必要なひと
は、排卵障害すなわち月経が無いか、あっても非常に不規則な
ひとで、このようなひとにクロミッドは有効で、排卵のみられない
ひとに排卵が起こります。当初は妊娠率も高く、画期的なお薬と
して注目され、いろんな研究がおこなわれました。そのなかには
月経が規則正しい排卵周期のあるひとへの投与も試みられ、た
とえば黄体機能不全(基礎体温で高温相の短いひとなど)に有効
であるという意見がありました。さらには精子の少ない男性にも
有効であるなど、クロミッドはまるで魔法のお薬のように一人歩き
をはじめて、現在のようにその適用範囲を広げていったのです。
ところが、排卵障害のひとにたいする排卵誘発率が高いにもか
かわらず、その妊娠率が低いという事実があきらかとなりました。
また副作用の少ないクロミッドに実は重大な副作用のあることが
次々とあきらかになったのです。お薬の副作用といえば、お薬を
飲んで腹痛やむかつき、下痢など消化器系の副作用、頭痛やふ
らつき、不眠といった神経系の副作用がすぐに思い浮かびます。
こういった副作用は先に言いましたようにクロミッドにはほとんど
見られません。その重大な副作用とは服用しているひとにはわか
りにくい子宮や卵巣に対する副作用だったのです。クロミッドの服
用を何ヶ月も続けると、排卵日頃のおりものが少なくなったり、月
経の時の出血が少なくなったり、月経の期間が短くなったりする
ひとがあります。これらの副作用はクロミッドの持つ抗エストロゲ
ン作用(女性ホルモンの効果を少なくしてしまう)によるものなの
です。
副作用その1 頚管粘液の減少
排卵日頃のおりものが少なくなるのは子宮の入り口にある頚管
粘液の分泌が少なくなって結果的におりものが少ないように感じ
るのです。頚管粘液は排卵日頃になるとその分泌が増し精子が
子宮の中に入りやすくするという重要な役割を担っています。そ
の頚管粘液が減るということは精子が子宮の中に入りにくくなる
ということになります。精子は魚と同じで水中しか泳ぐことができ
ません。膣内に射精された精子は頚管粘液、子宮内そして卵管
内をまさに鮎や鮭が河口から上流へ遡上するのと同じように卵
子のある源流へと泳いでいくのです。その川の水が日照りでまさ
に干上がってしまえば源流にたどり着くことはできません。精子も
同じように子宮の入り口から卵子の待つ源流(卵管采)までたど
り着くには豊かで清澄な流れが必要なのです。クロミッドはこの流
れの水を少なくしてしまうのです。
副作用その2 子宮内膜の厚みの減少
月経の時の出血量が減少するのは、クロミッドのもつ抗エストロ
ゲン作用によって排卵日頃の子宮内膜の厚さが減少することに
よると考えられています。事実クロミッドを長期間(6周期以上)服
用したひとでは排卵日頃に超音波で子宮内膜の厚さをはかると
その厚みが薄いひとが多くみられます。子宮内膜は排卵後受精
卵が着床するところで、ちょうどその頃(排卵後7日目ぐらい)に
はふかふかの羽布団のような状態になります。しかしクロミッドを
服用しているひとでは羽布団ではなくせんべい布団になっている
ひとがしばしばみうけられるのです。これではクロミッドの投与で
逆に妊娠しにくい状況をつくっていることになります。
副作用その3 卵胞が破裂しない
最近では超音波による卵胞の観察が不妊治療の必須の検査に
なっています。卵胞は排卵に向かって徐々にその大きさを増し、
20mmから24mmに達すると排卵が起こります。排卵とは読ん
で字のごとく卵胞が破裂してなかにある卵子が卵胞内から排出
される現象をいいます。当然排卵が起これば卵胞はほとんど消
失します。それではクロミッド服用周期ではどうなるのでしょうか。
クロミッド服用周期では最大卵胞径(一番大きくなったときの卵胞
の大きさ)が24mm以上、時には30mmに達することがありま
す。また複数(2個以上)の卵胞の発育がみられることもありま
す。大きなことはいいことだは、こと卵胞に関してはまったく無意
味で、このように大きくなった卵胞は排卵しない、すなわち破裂し
ないことが多いのです。破裂しなければ卵子は卵胞から外へ出
られませんから妊娠しません。ここでやっかいなのは卵胞が破裂
しなくても基礎体温はちゃんと高温相になるのです。基礎体温は
決して排卵しているかどうかの目安にはならないのです。卵胞が
破裂しなくても体温は上昇します。このような状態を黄体化無排
卵卵胞といいます。クロミッド服用周期にはこの黄体化無排卵卵
胞がみられることがよくあるのです。
以上の副作用はクロミッドを服用したすべてのひとにみられると
は限りません。また最初に服用した周期から副作用のみられるひ
ともあれば6周期服用してもこれらの副作用がみられないひとも
あります。大事なことはクロミッド服用周期ではこれらの抗エスト
ロゲン作用による副作用がみられるかどうかを注意深く観察する
必要があるということなのです。まず排卵日の頚管粘液検査、子
宮内膜の厚さの測定、そして排卵がちゃんと起こっているか、卵
胞の破裂の確認、これらをちゃんと観察して、もしクロミッドの副
作用があれば次の周期からはクロミッドの投与を中止し、他の排
卵誘発法に代えるのが妥当なのです。
くどいようですがひと月に一度ちゃんと月経があり、基礎体温も
低温相と高温相の2相性で排卵があるひとにはクロミッドはなん
の効果も無いどころか、これを漫然と続ければ逆に妊娠しにくくな
るということがよくおわかりいただけたと思います。
クロミッドは確かに画期的な排卵誘発剤であり、多くのかたがこ
れによって妊娠されたことも事実ですが、妊娠されたひとのほと
んどが排卵障害(生理不順で卵胞の発育がみられない)のひと
で、その妊娠の90%は服用6周期目までにみられるということも
付け加えておく必要があります。排卵障害のひとでも6周期以上
クロミッドを続けても妊娠しない場合には他の排卵誘発法を選択
する必要があります。

日本で発売されているクエン酸クロミフェン製剤の品名
クロミッド(塩野義)
セロフェン(セローノ)
フェミロン(富士製薬)
オリフェン(岩城)


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