【談話】教育出版小学校道徳教科書問題について

             俵 義文(子どもと教科書全国ネット21事務局長)

 

 「道徳」教科化によって戦後初めて検定が行われ、2018年度から使用する「特別の教科 道徳」の小学校教科書の採択が行われています。私たち子どもと教科書全国ネット21は、これまでの教科書採択において、特定の教科書を支持したり、排除する立場をとってきませんでした。唯一の例外は、新しい歴史教科書をつくる会(「つくる会」)、そこから分かれた日本教育再生機構(「再生機構」)・改正教育基本法に基づく教科書改善を進める有識者の会(「教科書改善の会」)の扶桑社版=育鵬社版・自由社版教科書(以下、「つくる会」系教科書)に対してです。「つくる会」や「再生機構」・「教科書改善の会」は、他社教科書に対して「有害物質が含まれている」、「自虐史観」「反日史観」などと誹謗し、日本国憲法を敵視し、日本の過去の戦争を正当化する「戦争肯定」の教科書です。しかも、この教科書の採択を日本会議が推進し、安倍晋三首相を先頭に自民党の日本の前途と歴史教育を考える議員の会(「教科書議連」)や日本会議国会議員懇談会(「日本会議議連」)が全面的にバックアップしています。こうした事実に基づいて、私たちは育鵬社版など「つくる会」系教科書の採択に反対してきました。

 

 今年の小学校道徳教科書の採択においても、私たちは前述のような基本的な立場で採択に臨むつもりでした。ところが、検定合格した866点の教科書を調査・分析・検討した結果、教育出版の教科書について、このまま採択され子どもの手に渡ることに強い疑念を持つにいたりました。その理由は以下の通りです。

 

 第一に、小学校道徳教科書は学習指導要領と検定のために、どの社も横並びの内容という印象が強いものになっています。加えて、戦後はじめての道徳教科書の検定ということで、各社が不合格を恐れて「安全運転」教科書をつくり、同じ題材を多用していることも特徴です。しかし詳細に見ると、8社の中で教育出版の教科書には、次のような点で、他社と異なる異様な内容が含まれていると考えざるをえません。

@  2年生で扱っている「国旗・国歌」が他社と比べても異常に大きく偏った取り上げ方をしています。「君が代」の歌詞の説明が「日本の平和が長く続くようにとの願いだ」と虚偽の説明をし、君が代斉唱時の起立・礼の行動まで写真入りで指示しています。オリンピック・パラリンピックで使われる旗や歌は選手団の旗・歌(オリンピック憲章)なのに、これを意図的に混同して「国旗・国歌」と記述しています。

A  5年生の教材「下町ボブスレー」で安倍首相の写真をあえて載せ、5年生の「一人はみんなのために・・・」で元ラグビー選手を扱った教材で東大阪市の野田市長の写真も載せています。どちらも掲載する必然性のない写真です。安倍首相は「育鵬社版がベストだ」といって採択を支援し、東大阪市長は育鵬社教科書を採択しています。このような形での現役政治家の教科書掲載は、「義務教育諸学校教科用図書検定基準」の「第2章 教科共通の条件」の2の「(8)特定の個人、団体などについて、その活動に対する政治的又は宗教的な援助や助長となるおそれのあるところはなく、また、その権利や利益を侵害するおそれのあるところはないこと」に明白に違反し、教育の政治的中立を侵す重大な問題です。

B   教育出版だけが、道徳のお手本にするべきとして紹介する人物に、経済界での成功者を多く掲載しています。豊田喜一郎、松下幸之助、本田宗一郎、山葉寅楠などです。これまで社会科や国語・理科などの教科書では、上記検定基準の「(7)特定の営利企業、商品などの宣伝や非難になる恐れのあるところはないこと」を根拠に、特定企業名の掲載は必ず検定で禁止されてきました(例外は育鵬社公民教科書)。それと矛盾するものであり、検定の恣意性の結果です。

C   「正しいあいさつのしかた」を小学校1年、2年と続けて指示しています。子どもたちの行為、行動を型にはめる規制・強制が至る所に強く出ています。また、「どれが正しいおじぎのしかたか」など、戦前の修身と同じようなおじぎをさせる「しつけ」・「礼儀」の教材が多く取り入れられています。育鵬社教科書を2011年から採択している武蔵村山市には後述する貝塚茂樹氏が道徳教育の指導に入り、「徳育科」を設けて「しつけ」や「礼法」を実施していますが、その内容が教科書に盛り込まれています。

 

第二に、ではなぜ、教育出版の小学校道徳教科書が他社と違う多くの問題点があるのか?この教科書の編著者を調べてみて、その理由が明らかになりました。

育鵬社の中学校社会科教科書をつくり採択活動を行ってきた日本教育再生機構(「再生機構」、八木秀次理事長)の道徳教育の中心メンバーが教育出版の監修・編集執筆者に名を連ねているのです。それはまず、監修者の貝塚茂樹氏(武蔵野大学教授)と柳沼良太氏(岐阜大学大学院准教授)です。貝塚氏は「再生機構」がつくって育鵬社から出版した道徳教科書のパイロット版『13歳からの道徳教科書』の中心的な編著者です。『13歳からの道徳教科書』は、安倍首相が「これぞ理想の道徳教科書」と絶賛しています。貝塚氏は下村博文文科相(当時)が、13年に道徳の教科化に向けて設置した道徳教育の充実に関する懇談会の中心的なメンバーで、「再生機構」の理事、日本会議の関係者でもあります。柳沼氏は、貝塚氏とともに小学校道徳教科書のパイロット版『はじめての道徳教科書』(育鵬社)の編著者を務めた物です。この二人と八木秀次氏が、「再生機構」の機関誌『教育再生』(201312月号)で道徳教育とその教科化を推進する鼎談をしています。

この二人以外にも、育鵬社発行の『学校で学びたい日本の偉人』の著者の一人である木原一彰氏(鳥取市立世紀小学校教諭)や武蔵村山市立第八小学校・校長牧一彦氏、主任教諭・小山直之氏、同嶺井勇哉氏の計3人も教育出版道徳教科書の著者に入っています。武蔵村山市には貝塚氏が道徳教育の指導にはいっています。武蔵村山市は人口約72,300人で、小学校7校、中学校3校、小中一貫校3校の小さな都市です。同じ小学校の教員3名が著者に入るのは異例なことです。

 

第三に、小学校道徳教科書採択で、安倍晋三首相に近い赤池誠章参議院議員による教育出版の採択を支援・推進する動きが表面化しています。赤池氏は、第2次安倍政権と第3次安倍政権で文部科学政務官を務め、現在は参議院自民党の文教科学委員会委員長です。

今年の道徳教科書採択に当たって、赤池氏は各社道徳教科書には、愛国心にそった教材がほとんどないと批判し、そのなかで唯一教育出版だけが及第点だとして、自身がつくった教科書の採点表では、教育出版に他社本の倍以上の評価点をつけました。そして教科書展示会へ参加し意見を書くよう呼びかけています。

赤池氏は、日本会議国会議員懇談会(「日本会議議連」)の事務局次長で、日本の前途と歴史教育を考える議員の会(「教科書議連」)、安倍首相が会長の神道政治連盟国会議員懇談会、みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会、安倍首相が会長の創生「日本」、新憲法制定議員同盟、日教組問題を究明し、教育正常化実現に向け教育現場の実態を把握する議員の会、などの右翼議連に所属し、米「ワシントンポスト」への「慰安婦」否定の意見広告や南京大虐殺を否定する映画「南京の真実」に賛同した議員です。その意味で、札付きの極右議員であり、安倍首相や稲田朋美防衛相とも非常に近い人物です。

 

 「再生機構」は育鵬社版の道徳教科書を発行するとしてパイロット版まで出版していました。それなのに小学校教科書の検定申請をしなかったのは、中心の編著者が教育出版の教科書の著者になったので、育鵬社で発行するよりも、教育出版の方がより採択される確率がより高く、自分たちの道徳教育の考えを学校現場に広く持ち込めると考えて、小学校教科書の発行をやめたのではないかと推測されます。今年は中学校道徳教科書の検定が行われています。中学校でもおそらく貝塚氏らが教育出版の中心の監修・編著者になっていると思われるので、中学校も育鵬社が検定申請したか否か疑わしいと思われます。

「再生機構」・「教科書改善の会」の育鵬社版中学校教科書を支援し、採択を推進してきた赤池議員が教育出版の道徳教科書を絶賛し採択を支援しているのは、「再生機構」が、この教科書を育鵬社版の代役として位置付けているという推測を裏付けるものです。

以上のような事実から、教育出版の小学校道徳教科書は「つくる会」系教科書と同じようなものといわざるを得ません。

 

私たちは、こうした事実を広く教員や保護者、市民、教育委員会などに知らせて、育鵬社版のダミーともいうべき教科書によって、子どもたちの道徳教育が行われないよう、教育出版の小学校道徳教科書の採択に反対する世論を急速に広げる必要があると考え、全国各地での学習会や話し合い、教育委員会への働きかけを呼びかけます。

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