「はっかせ〜、おっはよーございまーす」
「おお、わかなちゃんか。もう朝ご飯はできたのか?」
「何言ってるんですか、さっき食べたばっかしじゃないですか」
「二十進法でハタチを過ぎると、覚えが悪くなるもんじゃでな」
「年齢が理由というよりも、悪いプリオン摂りすぎなんじゃないですか。今日は面白い実験を見せてくれるっていうんで、研究室にきたんですけどぉ」
「そうじゃったな。じゃーん『ソフトウェアはハードウェアを凌駕する検証実験会』じゃ」
博士の研究室にはいつもは無い、どこから見つけ出したんだろうと思うくらいオーソドックスなトースターや、CDを縦に入れる方式の古めかしいPCや、なんだかゴツゴツした感じの大きなソファーが置かれています。
「わかなちゃんは哲学やっておるから、不完全性定理は知っておるよな?」
「はーい、知ってます。自分自身に言及できるくらい強力な体系は真とは証明できない命題を持つって奴ですよね」
「哲学らしい言い替え方じゃのう。まあそんなところじゃ。これの意味するところはじゃ、完全なセキュリティシステムは存在しないということじゃ」
「完全であろうとして、システムを補完するたびに穴が生まれちゃうんですよね」
「うむ。これはハードウェアとソフトウェアの関係にも言えることなのじゃ。ハードウェアというのは使い方によってはすぐに壊される。セキュリティが設定されていたとしても不完全性定理により無駄であることは証明済みであり、ましてや防衛を考えていないものならもっと簡単じゃ。つまりソフトウェアは悪意を持てばハードウェアをコロリと壊せるのじゃ」
「それでー、ここで実験してくれるんですか」
博士はまずトースターを実験台の上に乗せました。
「たとえば、このトースターをハードウェアとすると」
博士は白衣のポケットに手を突っ込んで、そこから食パンを二枚取り出しました。わかなちゃんは思わず『ドラえもんみたい』とつぶやきました。
「この食パンがソフトウェアじゃ」
「羽根が生えて飛んでっちゃいそうなトースターですぅ!」
「この食パンはトースターに悪意を持っておる。実験じゃ、この食パンをトースターで焼いてみよう」
博士は二枚の食パンをトースターに差し込み、レバーを下げました。香ばしい匂いが漂ってきました。そして突然食パンがバンっと爆発して天井にたたきつけられてしまいました。トースターも煙を上げてしまっています。
「食パンはトースターを壊した。ソフトウェアはハードウェアを破壊したのじゃ」
「はっかせー。っていうかー、食パンの中に火薬仕込んでませんでしたか?」
「次行ってみよう」
焦げてるトーストを実験台から払い落として、次にPCを乗せました。
「このPCはオタクちゃんの間ではチョー人気だった奴じゃ。PCがハードウェアだとすると、このOS入りCDがソフトウェアじゃ」
「はっかせー、あたし、それ知ってます。世間ではダウンズって言われてたダメPCでしょ、不痔通の。CD入れたらうなり声上げちゃうって」
「次行ってみよう」
博士は床に据え置いてあるソファーの前にわかなちゃんを連れてきました。
「これは椅子型マッサージ器じゃ。マッサージ器というのはな、普通、通販で買っても三日で故障すると言われているんじゃが、これはメーカーが真面目にこさえたちょっとやそっとじゃ壊れんものじゃ。ライオネル飛鳥でも揉みほぐせるように強力になっておる。肉の多い大乃国が座っても大丈夫!」
「マッサージ器がハードウェアで、座る人がソフトウェアなんですね?」
「そうじゃ、こんな頑丈なものでもソフトウェアが悪意をもっておれば壊せる」
「誰が座るんですか?」
「おーい、助手のながせ、じゃなかった、やませくーん」
「はっかせー、お願いだから僕を実験台に使うのはもうやめてくださいよ」
「ダメじゃ、肉体労働は助手の仕事と決まっておる。黙って座らんか」
しぶしぶ、助手のやませ君がマッサージ器に座ります。
「根性入れて椅子に抵抗するんじゃぞ。椅子を壊すまで逃げられんように縛り付けておくからな。ほらポチッとな」
ぐいんぐいん。
「ぎゃっ、強い。もっとゆるめてください」
「ダメじゃな、ブル中野も揉みほぐせるでな」
「ぎゅっ、立てません、助けてください」
「ミミ萩原も揉みほぐせるでな」
わかなちゃんも喜んで、きあいだー、きあいだーって騒ぎ始めました。
まだまだ実験は終わりそうにありませんでした。