◎琥珀色の滲出

納屋の屋根を突き破って落ちてきたものは琥珀色の隕石だった。私はその色に出会って驚喜した。ゴッホに感化されて画家の道に入って以来、生命の発する色をどのようにキャンパスに表現するかを追究してきた。望んでいたその色がここにあるのだ。屋根の修理は家族に任せ、石を持って屋敷の屋根裏にあるアトリエに駆け込んだ。この色をこのまま取り出せればよいが。石を削り、溶き油で顔料と共に混ぜる。素晴らしい、思った通りの色だ。私は、はやる気持ちを抑えながら描きかけの絵に筆を入れた。

次の日昨日手を加えた絵を見てみる。何か色褪せてしまったような気がする。背景に使った琥珀色の顔料ではなく、メインの人物画の方がである。人物の生き生きとした生命力を琥珀色で表わそうとしたのだが、その人物自体に生命力が失せてしまったようにみえるのだ。私は人物の上から新しい絵の具でせっせと色を描き足していった。一日を費やし、描き上がりに満足し休むことにした。

翌日。駄目だった。すでに人物画は色褪せ灰色に変わっている。その代わり琥珀色の背景がより鮮やかになっている。あたかも琥珀色が回りの色を吸い込んだかのような。そうだ、私は思い出した。青年の頃、世界中を流浪し道行く人の人物画や激しい自然の情景を描いていた時、立ち寄ったゴシックの街アーカムで聞いた話を。未知なる恐怖は異空間、異次元からも忍び来るのだ。私は回りに置いてある完成した絵画や描きかけの絵すら灰色に色褪せていることに気が付いた。そして決心した。今日、屋敷には私しか居ない、すべて燃やし尽くしてしまおう。隕石とまだ作ったばかりの顔料と共に、絵にも灯油をかけ火を付けた。燃えるはずだとの確信は絶望に転じた。燃えさかるはずの炎は瞬く間に琥珀色のそれが吸い込んでいくのだ。あとから灯油を投げ足しても炎はおさまり、琥珀色は輝きを増し、さらにはキャンバスの外側へ流れ出ようとしていた。琥珀色の滲出は近くのテーブルにも広がりコーヒーを入れたコップにも触手を伸ばしていた。バキッ、コップが割れコーヒーがこぼれる。その時空間がねじ曲がり金属音が鳴り響いた。琥珀色の触手は黒く変色し、動きを鈍くしたのである。こいつは水に弱いんだ! 私はあわてて手洗い用の水道に飛びつき蛇口を回し水がそれに吹き出すようにした。琥珀色のそれは水が浴びせられる毎に断末魔の金属音を放ち、黒い染みに変わっていった。水を満たしたバケツに隕石自体を放り込み最後の仕上げを終えた時、私は倒れ込んだ。

私は助け出されたらしい。暖かい毛布をまとって眠っていた。「おじいさん、私の夫を知らない?」妻の問いかけに答えようとし、ふと気になってベッドの向こうの鏡に写る横たわる自分を見た。髪も髭も唇も瞳もすべてが灰色になり、すべての色を吸い取られた老人がそこに居たのである。