ソレは目覚めた。月と大地のはざま、灼熱と極寒が行き交う真空に閉ざされた、そこにソレは居た。太古に、ともに地上を我が物にした仲間達は、あるものは南極の山脈の中に封印され、あるものは深海の闇の中に幽閉され、あるものは空間の裂け目に放り出され、あるものは遙か遠き星の彼方に追放された。
先カンブリア以前に行なわれた大いなる虐殺により集ったソレらは、カンブリア時代の殲滅、大氷河時代の絶滅、恐竜時代の壊滅、それらから得た死に絶えることより死んでもなお続く恐怖を食料として自らの繁栄を築き上げた。
ソレが目覚めたのは、また喰い物となる新たなる恐怖の感情が感じられたからである。仲間の目覚めによる大地の蠢動、それがもたらす地震と津波。時折地中や海上に光る核の輝き。地表にうごめくものどもが拡大再生産する増悪と不安。まだ足りない。ソレは渇望した。その眷属が、その末裔が、ソレを呼び戻し再び地表に降り立つにはまだ足りなかった。
ソレはそばにあった小さなかけらを地上へ蹴落とした。最初は小さな物で構わない。恐怖は恐怖を招き寄せ、自ら増大させてくれるだろう。死することですら逃れられない絶望が待っているとは知らないままに。地上から聞こえてくる嘆きと悲しみを味わいながらソレは眠った。