◎退屈除去装置『あくせく君』

「はっかせー、大丈夫ですかぁ?」

助手の長瀬君は博士が入所しているサナトリウムの病室にお見舞いにやってきました。

「いまどき結核でサナトリウム行きだなんてなんだかうらやましいですねぇ。ここに来るまでに患者さん達見ましたけど、あれですね、色白で可愛いお嬢さん、やっぱりいますねぇ。元眼鏡っ娘好きのはかせなんか、眼鏡かけて読書にいそしむ彼女達をナンパしまくりってカンジじゃないですか」

「莫迦をいっちゃあいかん、長瀬君。ここは本当に退屈なところなんじゃぞ。朝は七時に起床、消灯は九時じゃぞ。サナトリウムとは言え病院みたいなもんじゃから患者のプライバシーなんてものはないに等しい。そりゃ気になる眼鏡っ娘がいないわけでもないんじゃが、もしも声かけて仲良くなってみい、娯楽の少ないサナトリウムの中じゃ。あっという間に噂が広まって後指差されるのがおちじゃわい」

「ひゃっひゃっひゃっひゃ。ほんとに暇そうですねぇ。でもここでも研究はできるんでしょう」

「できん。そんなことやらせてもらえるわけなかろう。ほんとうに退屈じゃ。症状が進んでいるとは言え咳がきついだけで、何もできんというわけではない。結核は基本的に慢性型の病気じゃからのう。なまじ元気なだけに暇がこたえる。誰かお見舞いにでもきてくれんと暇つぶしができん。長瀬君が見舞いに来てくれて、わしは心から感謝しておるぞ」

「なんか、気持ち悪いなぁ」

「恋人でもいてお見舞いに来てくれるんだったらもっと良かったのじゃがな」

「そればっかしですね、最近の愚痴って。でも半年も娑婆にでられないんじゃ仮にいたとしても振られちゃっていたでしょうね。コミケに二回も行けませんからね」

「そりゃ君のオタクな恋人の話じゃろうが。まあ、なんせ暇なもんじゃから、しばらく辞めておったコンピュータ通信も再開したしな。もう毎日ネットに書きまくりじゃ」

「コンピュータ持ってきていいんですか?」

「ワードプロセッサと称して持ち込んでおる。わしの唯一の娯楽じゃ」

「趣味の無い人ですねぇ、発明できなきゃ暇も潰せないなんて」

「おおお、そうじゃ、こういう時の為にとっておきの発明品があったのじゃった。ちゃんちゃんちゃんちゃーん、退屈除去装置『あくせく君』」

「センスのない命名ですねぇ。にしても、どこから出したんですか。いつもながら謎の四次元ポケットビスケッツですね」

「これで退屈ともおさらばじゃ、あ、それ、ポチッとな」

博士は装置のスイッチを入れました。すると博士はあわただしく働きはじめました。

「おっ、やっ、とっ、忙しい、忙しい」

たまっていた洗濯物を取り出し、てきぱき洗って乾燥室に干してしまいます。病室の掃除もさっさっとやってしまいます。ものはついでと他の病室の掃除まで片付けてしまいます。持ち込んだノートパソコンを北斗神拳のケンシロウの如く、あたたたたとメッセージを打ち込むやいなや通信ソフトを立ち上げて、ちゃちゃっと送信してしまいます。

「もうやることはないか、もうやることはないか、もうやることはないか」

「もう、ないみたいですよ」

「なぜじゃ、自宅で使った時はいつまでもやることがあったのにどうしたことじゃ。ああ、もう退屈が前の何十倍も押し寄せてくるような感じじゃ、どうしたら良いのじゃ」

「退屈を除去する装置じゃなくて、忙しがらせるだけのものだったんですね。そりゃ、はかせんちは掃除だけでも一週間かかるくらい汚いですからねぇ」

「そうじゃ、長瀬君、君の洋服を洗濯して差し上げよう。さ、脱ぎたまえ」

長瀬君はいそいで装置のスイッチを切ろうとしました。でも遅かったのでした。

サナトリウム中に長瀬君の叫び声が響き渡りました。