富田真弓さんは人から赤アキアちゃんと呼ばれておりました。社長からいただいた特製の赤いアキアのノートブックをいつも持ち歩いていたからです。富田さんは赤い色が大好きだったのでお洋服も赤いもので統一していました。赤いベレー帽に白のブラウス、赤いベスト、赤いミニスカート、そして今日はクリスマスイブで寒い冬の真っ最中ですから白いむくむくのついた赤いオーバーコートと赤いブーツ。
ちょうど会社のクリスマスパーティが終わって家路についていました。公園を通り越していけばもう自分のおうちです。ところがもう九時を過ぎようとしているのに男の子が一人ブランコに腰掛けています。富田さんは子供が大好きだったので元気のなさそうな男の子が気になって声をかけてみました。男の子はびっくりしてブランコから飛びおりました。
「サンタクロースかと思っちゃった」 富田さんが話を聞いてみますと男の子が沈んだ気分になった理由を話してくれました。「友達がサンタクロースなんていないんだって言うんだ。世界中の子供達にたった一晩でプレゼントを配るなんてできっこなくて、お父さんやお母さんがこっそり夜中にプレゼントを置いていってくれてるんだって言うんだ」
富田さんは微笑みました。富田さんはネンネでしたから彼女も実は、いまだにサンタクロースのことを信じているのです。彼女は一度読んだことのあるお話を男の子にしてあげました。「大丈夫なのよ、サンタさんがプレゼントを世界中の子供達に配り終えるまではクリスマスイブは終わらないの。時間が止まって待ってくれているのよ。おうちで待ってなさい、サンタさんを信じてる子供にはプレゼントを持って必ずやってきますから」
男の子はにわかに笑顔になって走っておうちに帰っていきました。
でも今年から富田さんは一人暮らしです。今までは御両親と一緒に暮らしておりましたから毎年プレゼントをもらっていましたが、さて今年はどうなるのでしょう?
そのときでした。空からトナカイにひかれたそりに乗ってサンタクロースが富田さんの前に降りてきたのです。
「おお、君、ちょっとわしの仕事を手伝ってくれんかね。今年は夢見る子供達が多くて大変なんじゃよ。幸い君は着替えんでもそのままサンタの服装じゃ。手間もかからん」
まあ、びっくりしたのなんのって、富田さんは嫌ともいえずにうなずいてしまったくらいですから。
サンタが手をふるとさあっとトナカイとそりがもう一組あらわれたのです。
「トナカイ達が配るべき家を教えてくれる。ドアも窓も自然に開いて君を通してくれる。袋に手を入れればその子供に一番必要なものがでてくるじゃろう。時間はたっぷりある。配り終えるまでは明日は来んでな」 そういうといきなり飛んでどこかにいってしまいました。
富田さんは与えられた仕事はとにかくがむしゃらにやる人でしたのでサンタさんに頼まれたとおりどんどんプレゼント配りを始めました。
御両親が夜中も働いている子供のところへも、クリスマスには縁遠いと一目でわかる別の宗教の子供のところへも、昼間いじめられて布団の中で泣いている子供のところへも、トナカイは連れていきました。さっき公園で出会った男の子のところにも行きました。袋から取り出したのはサンタが彼を訪れる夢でした。夢だけかって? ほら、もうプレゼントは枕もとに置いてあります。
トナカイが連れていくところは日本だけではありませんでした。海の向こうの戦争をしている国のところにも行きます。不安に脅える子供達には一夜だけの安眠をプレゼントします。飢えに苦しむ子供には食べ物の出てこない夢をプレゼントします。そして明日には国連の配給があることでしょう。今にも息をひきとりそうな子供の前に立った時、富田さんは袋から何が出てくるのかどきどきしました。取り出したものは天使でした。天使が子供をお迎えにきたのでした。富田さんは泣きながら立ち去るしかありませんでした。
トナカイは自分の利益や思想のために子供に不安や飢餓や苦痛と死を与えたおとなたちの、息子や娘さんのところへも連れていきました。彼らが大きくなった時におとなたちの二の轍を踏まないように希望と願いを贈りました。世界中から絶叫と泣き声が消えますように、子供達が不安無く眠れる夜が来ますように、そしてもしもできることならば世界中の人々に笑顔が絶えませんように。
こうして富田さんの担当のプレゼント配りはようやく終わりました。彼女は家に帰るなり疲れてすぐに眠ってしまいました。
朝起きて昨日のことは夢だったのかなと富田さんは思いました。会社のクリスマスパーティでちょっとお酒を飲んじゃっていたからです。お酒を飲んで酔っ払ったら彼女に何が起きても不思議ではなかったのですもの。
でも富田さんの机の上にはサンタクロースからのお礼状が置いてありました。それにはサンタさんからの感謝の言葉が書かれていました。そして最後にこう追伸で書いてありました。「君にはおもちゃやお人形以外のものをプレゼントしたつもりですが気がつきましたか」
富田さんは一人うなずきました。今日からはもう決して子供には戻れないことを知ったからです。