◎電脳歴史絵図面『地球盤』

「はかせー、こんにちはぁ」 長瀬君は博士の実験室に顔を出しました。

「なんじゃ、長瀬君、わしは今日、呼んどらんぞ」

「はかせえ、ぼくは邪魔者ですかぁ。毎週わざわざ蕨(わらび)から富士山の麓までやってきてるって言うのに、呼び出しが無くちゃ来ちゃいけないっていうんですかぁ、ぼく泣いちゃいますよぅ」

「すまんすまん、泣かんでもいいじゃろう、わしが悪かった」

「おみやげのメロンまで持ってきてあげたっていうのに酷いじゃないですか。もうこれ持ってかえります」

「だから謝っておるじゃろう、ほら、このとおり、すまん」

「もういいですよ、で、はかせ、ちょっとお願いがあるんですけどいいですか」

「君のお願いちゅうのはいつも変じゃからあまり聞きたくないのじゃがのぅ。まあ、メロンも食いたいし、で、なんじゃ?」

「今作ってるソフトを見て欲しいんです。今日のは凄いんです。ビルゲイツもびっくりしてミリンダさんと別れてファンタをごっくんごっくん飲んじゃうような、そのくらい凄いんです」

「この間はマクドナルドを蹴っ飛ばしてモスバーガー食っちゃうようなとか言っておったくせに、ソフトときたら文字をでかくするだけのバナープログラムじゃったではないか、いまどきそんな陳腐で役立たずなもん誰も使わんて」

「名付けて電脳歴史絵図面『地球盤』」

「非難する割りには、たいしてわしとネーミングセンスはかわらんと思うがのぅ」

「作者にセンスがありませんからねぇ。ま、それはさておき、ちょっと動かさせてもらっていいですか?」

長瀬君はCD−ROMをコンピュータに差し込みました。博士のコンピュータのCDドライブは車載オーディオのCDみたくオートローディングになっているのでするすると入っていきます。

「なんじゃ、ただの地図ソフトではないか、こんなものならいくらでもあるぞ」

「まあ、みてください、歴史の行政地図なんです、こうやって期間を指定して実行してやると」

「なんか地図の色がいろいろと変わっていくなぁ。ああ、わかった、歴史が進むにしたがって国がかわったり、戦争で占領されたりするとこうやって色が変化していくわけじゃな」

「そうです、そうです、ローマ帝国の版図とか時系列で変わるのが分かるんですよね。で、なにかイベントがあったりするとこうやって吹き出しがでて事件を表示するんです」

「これは面白いのぅ、この事件とかの説明は見られるんじゃろか」

「ええ、吹き出しをクリックしてやれば別のフレームが出て説明文が出ます」

「中国の方は特に面白いのう、大きくなってそのままかなと思とったら、すぐ分裂しおる。日本とは大違いじゃ」

「拡大すれば日本も分裂しているのがわかりますよ。見たい地域だけ取り出すモードもあるんですよね。全世界モードにしておけば、ある時間においての各地域の状態が一望できますから、立体的な歴史感覚を養うことも出来ます」

「ものすごいデータ量を扱っとるんじゃな、CDによく納まったもんじゃ」

「これは廉価版で、いいのになるとインターネット上のデータをとってくるようになってるんです、で、データにないものは全体の状況から推測して国境を推定したりとかしているわけです」

「こんなもの、もう誰か考えていそうじゃが大丈夫か?」

「大丈夫です、全世界、各国、各地域を網羅したのはこれが最初でしょう。なんていったって中南米やアフリカ、南極さえもデータがありますし、月日単位で時間の指定ができます、そこらのソフトハウスにはつくれませんよ」

「国境紛争地域とかはどうなっておる?」

「さしあたって日本政府の公式見解を確かめてあります」

「うむ、ぬかりはないな。じゃが、ギャグ無しで会話が進むのも初めてじゃな」

「誉め言葉と承ります」

博士はソフトをいじって遊び始めました。ちょっとしてから素っ頓狂な声をあげました。

「おい長瀬君、このソフト、未来も表示できるぞ」

「ああ、まだデバッグやってる最中なんです、AIがあるからデータ無しでも表示できるのかな」

「なんか気になるんじゃが、ある時点になると国が全部消えてしまうんじゃ。人間の未来を暗示しているみたいで不吉じゃな。核戦争でも起きるんじゃろか。国境の無い世界が生まれるんじゃったらいいんじゃがな」

「ああ、はかせ。このソフト、二千年には未対応でございます」