彼女は入って二年目の新米プログラマでした。社長から入社のお祝いに特注の赤い筐体のアキアのノートブックをプレゼントしていただきました。それからはずっと肌身離さず持ち歩いているので彼女のTMみたいになってしまって人からは赤アキアちゃんと呼ばれるようになりました。
ある時、赤アキアちゃんに部長がお手伝いを頼みました。社長が張り付いている顧客先に出向いて資料を届けて欲しいというのです。彼女は喜んで出掛けていきました。
場所は渋谷です。飢えた一人の若者が赤アキアちゃんに近づいてきました。
「ねーちゃん、ちゃあ、しばきにいかへんか」
赤アキアちゃんはまだネンネだったものですからなにも疑わずに喫茶店に行きました。若者は彼女と話をしていて彼女が自分の会社にやって来ることを知りました。若者は顧客会社の社長の息子で色惚け若旦那だったのです。
若旦那は遊んでいることが知れたらまずいとおもって予定を変更してさっさと会社に戻ることにしました。自分のところにやってきたらそのまま閉じこめてゆっくり食べてしまおうと考えたのです。しかしそのままでは赤アキアちゃんと同じ方向に向かってしまうので寄り道させるために彼女にそっとこういいました。
「ねーちゃんとこのしゃちょーさん、みかんせいじんのスクリーンセーバー買っていったったらよろこぶんちゃうかな」
彼女はついその気になって上新電機まで足をのばすことにしました。
若旦那は先回りして会社に帰りつくと父親の社長にだだをこねていろいろ策を講じました。赤アキアちゃんの社長がやっている仕事はもう納品近くだったのですが大きな仕様変更を入れさせたのです。人を増やさないわけにはいかなくさせたのです。その上でちっとも仕事がはかどらないようにするための工作も行ないました。
赤アキアちゃんは少し遅れて若旦那の会社にやってきました。彼女が社長のところまでやってくると社長は意気消沈してうなだれています。横には若旦那がにたにたして笑っています。若旦那はさっきの自堕落な風体とは打って変わってダブルの三揃いをびしっと着込んで髪のペイントも落としていましたから彼女には同一人物だとわからなかったのです。
「社長さん、どうしてスケジュール表を眺めてらっしゃるんですか」
「毎日3時間ずつねーちゃんと一緒に進捗会議にでることになったからやで」
社長さんのかわりに若旦那が答えました。
「社長さん、どうして資料に赤線がいっぱいはいっているんですか」
「仕様変更対応のやり方っちゅうのをねーちゃんに教えるためやで」
「社長さん、そこの席の机がきれいにおっきく空いているのは何故?」
「それはな、ねーちゃんがずっとここの席にすわるためや」
赤アキアちゃんは顧客先に閉じ込められてしまいました。
そのころたまたま富士君もこの会社に出向いておりました。外注さんがつどうフロアに行ってみると知り合いの社長さんと赤アキアちゃんが憂鬱な表情で座り込んでいます。富士君は二人に話しかけ元気のないことを見て状況を直感しました。
富士君はここの会社のソフトウェアの不法使用状況を前から内々に調べるために潜入していたのです。そこで二人を助けるべくすぐに行動に移しました。告発したのです。事件はその日のうちにマスコミに広く取り上げられました。この会社は取引先からも縁切りされて瞬く間に倒産してしまうことになったのです。そこの社長は負債をすべて返済しおえると家族を引き連れて川に飛び込み無理心中をしてしまいました。あの色惚けの若旦那も石を体にくくられて無理矢理父親によって川に突き落とされてしまいました。
赤アキアちゃんと彼女の会社の社長さんはちゃんと助けだされ、お金も貰って自分の会社に戻ったそうです。
モデムがピーピー、ディスクがガーガー、新しい話のはじまり、はじまり。