◎正論プログラマ

あるところに間違ったことは決して口にしないプログラマがいました。理屈屋さんだったのです。そして知らないことには「しらない」と、わからないことには「わからない」と答えます。誠実な人だったのです。何を発言するにしても充分に表現に気を遣いました。丁寧な人だったのです。それでも人から悪意をもたれることが多かったのです。嘘がつけなかったからです。それで人からは正論プログラマと呼ばれておりました。

ある時正論プログラマをからかってやろうと悪趣味な上司が近づいてきました。

「ちみはインターネットをやっているかね」

インターネットをやるとはどういう意味なのか理解できなかったのでまったく返事をしませんでした。意味不明な質問には何を答えても無意味だったからです。ひょっとして無意味な質問を発する人に邪悪なものを感じたのでしょうか。

「インターネットも知らんのかね、日経ビジネスやプレジデントでも読んで勉強したまえよ、ちみ。わっはっはっは」

次に現われたのは正論プログラマの先輩にあたるプログラマでした。彼も正論プログラマをからかおうとやってきた悪趣味な人でした。

「君、インターネットサーフィンやったことある?」

「ない」

正論プログラマは答えました。もちろん家ではISDNどころか専用線まで引いてネットスケープナビゲーターでバリバリに使いまくっているのですがインターネットサーフィンという言葉には正しいものを見つけられなかったので彼の語彙集合から取り除かれていたのです。

「じゃあここにインターネットエクスプローラーの最新版持ってきてるからさ、君のマシンにインストールしてやるよ、貸してみな」

「いまぼくは仕事中である。邪魔をしないでくれたまえ」

先輩はどなられたので萎縮してしまいました。

「せっかくエッチなアドレス教えてやろうと思ったのに」

次にやってきたのは後輩のプログラマでした。

「先輩、ニュースグループの閲覧の仕方を教えてください」

後輩を育てるのは先輩プログラマの責任であると考えていたので希望の件を教えはじめました。

「こうやって購読するんですかぁ。あ、これなんて読むんでしょ」

後輩はディスプレイを指差しました。正論プログラマはつい画面を覗きこんでしまいました。実は彼はニュースグループだけは読まないようにしていたのです。そこはありとあらゆる議論と口論と戯言がくり返される世界です。もし正論プログラマがそれを見てしまったらどうなるかを自分で知っていたのです。

正論プログラマは一つメッセージを読んでしまうとたまらなくなってまた他のものも読みはじめます。そして一つ一つにコメントをつけていかねば気が済まなくなってしまいました。そして彼は行ったっきりもう戻ってこれなくなってしまいました。ニュースグループは山ほどあってリアルタイムで増えていくのですもの。いつまでもいつまでも読んでは書き読んでは書きしているのです。

うそだと思うでしょう。そう思うなら一度見に行ってごらんなさい。今も正論プログラマがどこかで書き込んでいます。