ある時、魔法使いがソフトウェア会社を訪れました。たまには自分のねぐらから出て社会を見聞しようと思いたち出掛けたのでした。その放浪の過程でそのソフトウェア会社に立ち寄ったのでした。
そのソフトウェア会社には二人のプログラマがいました。一人はお金持ちで会社で使っているマシンも自分で買った最新式のものでした。それはもう高性能でどんなソースプログラムもあっというまにコンパイルできてしまうようなマシンでした。
もう一人は貧乏でした。病気がちの奥さんがいてわずかばかりに会社からいただくお給料もすぐになくなってしまうのです。でも貧乏なプログラマは奥さんのことを心から愛していましたし、二人でそれなりにも暮らしていけることに満足していました。お金持ちではなかったので会社で使うマシンはあてがわれたトロくて旧式のものでした。ちょっとしたコンパイルでもお茶を飲んでいられるくらいゆっくりしていました。魔法使いはプログラマの道具を触ってみたくなりました。お金持ちのプログラマのマシンならほんのちょっと借りても迷惑はかからないだろうと思い、お金持ちのプログラマに少しマシンを貸してくれるように頼みました。
例によって魔法使いはみすぼらしい格好をしていました。もともとそんなに服装に気を使うかたではありませんでしたし、放浪の生活も長くなっていたからです。その姿を見たお金持ちのプログラマは自分のせっかくのマシンをいじられるのが嫌になったのです。
「おいらのマシンはメイク中だよ、あっちを使っとくれ」
魔法使いはお金持ちのプログラマが本当はマシンを使っていないのを看破していましたが、貸してくれる気持ちも無いことも知っておりましたから、もうお金持ちのプログラマには頼みませんでした。
貧乏なプログラマからマシンを借りるのは申し訳ない思いでしたが魔法使いはお願いしてみたのでした。
「おいらの使ってるマシンでよけりゃいくらでも使っとくれ」
魔法使いは厚意に甘えて貧乏なプログラマのマシンを触らせてもらいました。
「あなたは私に親切にしてくれたので、あなたの望むことをなんでも三つだけかなえてあげましょう」
貧乏なプログラマはまるっきり魔法使いのいうことなど信用などしてはおりませんでしたが話をあわせるつもりでいいました。
「そうさなぁ、もしもおいらのマシンがもっと速いCPUだったらよかったと思うべな」
「よし、その願いはかなえられた」と、魔法使い。
「それにもう少し使いやすいOSだったらよかったと思うべな」
「その願いもかなえられた」 また魔法使いがいった。
「そしてなによりももう少し収入が増えればおいらのおっかあも栄養のあるもんが食えて元気になってくれると思うべな」
「よろしい、その願いもかなえられるだろう」
魔法使いはそう言って立ち去っていきました。
貧乏なプログラマがふと自分の机をみると、今まで自分が使っていたマシンの横にそれはもう見事なPowerMacが置いてありました。OSは幻のコープランドです。PCコンパチボードもデフォルトで装着されておりそれはもう夢のようなマシンでした。しかもそれが自分のものになったのです。
そしてそのマシンにはオリジナルの便利なプログラムが一つインストールされておりました。それにはシェアウェアとして公開しなさいと魔法使いからのメッセージがありました。そうすると貧乏なプログラマの銀行口座に毎日毎日入金があるようになり、またたくまに貧乏ではなくなり、奥さんも元気になっていきました。
お金持ちのプログラマは貧乏なプログラマから話を聞いて大変後悔しました。自分も三つの願いをかなえてもらいたいものですからあわてて魔法使いを追いかけていきました。さんざ、探しまわったあげくようやく魔法使いを見つけました。
「仕事中じゃなかったらおいらもあんたに親切してたんだ。だから、おいらにも三つの願いをきいとくれ」
「よろしい、願いがあるならそれを口にすればかなえられるだろう」魔法使いは言ってまたどこかへ去っていきました。
お金持ちのプログラマは大喜びして帰っていきました。会社に帰っても固く口を閉ざしたままでした。何か間違って変なことを口走らないようにするためです。じっくり願いを考えようと思ったからです。
とはいえプログラマですから仕事をしないわけにはいきません。会社ではほとんど仕事が手につかなかったものですから家に帰って仕事をしはじめました。
コンパイルのすんだプログラムを実行してみましたら暴走してしまいました。
「このくそったれ、おまえなんぞ死んでしまえ」
たまたまお金持ちのプログラマの奥さんが旦那さんに夜食を持ってきていて、それを聞いてバタリと倒れてしまいました。
「おい、生き返っておくれ」
奥さんの心臓が動きはじめましたが起きてくれません。
「お願いだから目をさましておくれ」
奥さんは可愛い目をぱっちりとあけました。
お金持ちのプログラマは三つの願いを使い果してしまったことに気がつきましたが、願いなど必要ではなかったことにも気がついたのでした。
犬がわんわん、猫がにゃあにゃあ、あたらしいお話のはじまりはじまり。