黒部レポート2014


「オッチャンの毛鉤はよく釣れるなあ」

811日(月)】

 去年は2度入山したが、親子キャンプと12日の弾丸ツアーで終わってしまい会としての活動ができなかった。

 会員も年を経るにつれ、仕事や家族、体調の関係などいろいろな問題が出てきて、
なかなか思うように日程調整もできないのが現状だ。


 というより、自分がすっかり鮎釣りにハマっているのが一番の元凶かもしれない。

 今回も熊隊長は坐骨神経痛、Hオジはご家族の体調不良、
当然姉さんもそれに合わせるということで、いつものメンバーは集まらない。


 そこで、今回は「御殿場の金本」と私だけが呼んでいるK藤さんに助っ人をお願いした。


K
藤さんは、自分と同い年であるが、会では最も新しい会員で、
薬師沢の小屋開けにも参戦する現役バリバリの最強会員である。


何せ本物の金本と見紛うくらいのムキムキマッチョマンで、担荷力は半端ない。


運動不足で、4階の職場までの階段で息を切らし、エレベーターを常用している
典型的な中年体型の自分とは大違いである。


 K藤さんとチビ(折立)


 本来ならば、13日からの入山予定を無理やり11日に前倒し
していただき、
入山していただくことにした。


できれば、こち
らは10日に入山し、事前に放流用のイワナを集めておきたかったが、
台風11号をやり過ごしたため、11日に一緒の入山となった。



太郎グループの人たちへのお土産(ステーキ肉6
kg!!)や宴会用の酒を満載した
K藤さんのリュックは30Kgを超えているだろう。

自分だったら、三角点に着く前にへばってしまうこと間違いない。



 8:00過ぎに折立を出発し、まずは、太郎の小屋を目指す。

台風の影響で雲の流れは速いが、何とか降られることなく、五光岩ベンチで昼食をとり、


太郎の小屋に着いたのは、丁度正午であった。



 ここ数年、天幕泊で荷が多かったせいもあるが、久しぶりに折立〜太郎間を4時間以内で登り、
わずかだが、自信も蘇ってきた。というより、チビのペースに必死でついていった結果だが・・。

 太郎ではマスターがいつになく愛想よく出迎えてくれた。その理由は後で判明する。


薬師沢への下りも順調で、14:00には小屋に到着した。


 久しぶりにイブニングの釣りができる時間に到着したので、
イワナを釣ることに意欲を燃やしていたチビに声をかけるが、もう歩きたくないという。


正直、自分もバテていたし、台風の影響でお客さんも少ないので、
K藤さんが到着するまでの間、デッキで軽くやることにした。


 以前は、山に持参する酒といえば「焼酎」をメインとしていたが、

ある年、高天原に行っている間に、デポしておいた

 焼酎が「お茶」に変わってしまうという

奇怪な事件が発生して以来、ウイスキーを持参することにしている。



 黒部の水で作る水割りはことのほかうまい。


もっとも、経験者ならわかることだが、山で食べるインスタントラーメンも
自宅で食べるそれとは大違いである。


ロケーションが味を引き立てるのであろう。

 盃がスイスイと進む。

2泊の予定なので、取り敢えず半分まで飲むこととしていたが、

「なくなったら、K藤さんの持ってくる純米大吟醸のご相伴にあずかればいいさ」と
だんだん気持ちが大きくなり、K藤さんが到着した17:00前にはボトルをほぼ1本開けていた。


きっと、焼酎がお茶に変わってしまったあの奇怪な事件の背景にも、
こうした人間の心理がかかわっていたのだろう。

 
K藤さんと無事の到着を祝って乾杯したら、ボトルは空いた。
 K藤さんのステーキ肉への未練も睡魔さまの猛襲には勝てず、あえなく沈没。


スタッフとの宴会にも参加できず、いつになく短い黒部の1日であった。




【8月12日(水)】

 5時過ぎに起床した。

ボトル1本を開けたとはいえ、さすがに10時間寝ればスッキリと目が覚める。



しかし、外は雨・・・。


「この3日間では、
今日の予報が一番よかったんじゃ・・・?」
と小屋番にボヤいても始まらない。


どうやら北陸地方を前線が通過するらしい。


 やっと、挨拶を交わした小屋のスタッフとの朝食を済ますと空とにらめっこである。



今回はチビにイワナ釣りの楽しさを教えるために入山したので、
停滞を決め込んで朝酒を飲むわけにもいかない。


 
8時過ぎに、雨が弱くなったのを見計らって、出発する。
雨で少し増水しているため、チビが渡渉できる場所を選びながらの遡行となった。


 チビにフライはまだ難しいと考え、今回はテンカラだ。
リールが必要ない分、荷物も軽量化されて一石二鳥である。


 竿先のリリアンにチチワでラインを付ける方法と毛鉤の結び方、
ロッドの振り方を簡単にレクチャーしたら早速開始。



 K藤さんには申し訳ないので、先行をお願いした

K藤さんとは初めて一緒に釣りをするのだが、チビを放っておくわけにもいかないのでコーチに専念する。


最初は、枝を釣ったり、糸を絡めたりで、
そのたびにの仕掛け補修に親父は集中も途切れがちだったが、チビはすぐにコツをつかんだようだ。


 さすが、黒部にその釣りバカありと言われた親父の息子である。



  K藤さんに助けてもらいながら、何度か渡渉を繰り返したが、

  水量も徐々に増えてきたので、昼食後早々に撤退する。

 しかし、ここで神業が出た。

何と、水溜りを覗いていた
K藤さんが
やにわにロッドを振ったかと思いきや、まずまずの型のイワナをかけた。


黒部川では増水後水溜りにイワナが取り残されることがよくあるのだが、
そういうイワナは警戒心が強く、

大抵はちょっとした物音や影の動きで岩の下に隠れてしまうので、
釣るのは至難の業なのである。


 
パワーと技を兼ね備えたK藤さん恐るべし!!


 薬師沢の小屋に戻ると、雨も上がり天気も回復気味である。
チビのテンションは持続していたので、渡渉の必要のない範囲で釣ることにした。

初めからそうしていればよかったのだが、
自然を満喫しながら一日のんびり釣ろうなどと考えてしまったために


チビにも
K藤さんにも大変な思いをさせてしまった。


 しかし、
K藤さんのサポートのもと、渡渉の仕方を教えられたのも一つの成果ではある。
イワナを釣るのに渡渉技術は欠かせないアイテムである。


 雨も上がったので午後はK藤さんと別れ、小屋上流の分流で釣る事にする。


チビにに釣らせるには最適の場所だ。


渇水の時はイワナが神経質になってしまい、難しい釣りになるが
少し増水している今のタイミングなら絶好の場所である。


 ポイントとなる小さなプールを覗くと、5〜6匹のイワナが表層を泳いでいる。


早速チビには下流にいる奴から狙うように指示し、

Hオジ特製のフォーム・アントを結んでやる。



午前中は初めて毛鉤釣りをするチビが見やすいよう、
色を付けた大き目のエルクヘア・カディスを選択したが、

ここは波立ちも少ないので、ここ数年では最も実績のある毛針にする。



 いきなり、後ろの枝を釣ったが、幸いイワナは散っていない。
 その後は、入れ掛かりの連発である。

「やっぱ、オッチャンの毛鉤はよく釣れるなあ」

    とチビは少し興奮気味。

天候の回復、時間帯、釣りやすいポイントなど、午前とは条件が大きく改善されているのだが、
チビはすべて毛鉤の違いだと思っている。

Hのオッチャンを敬愛しているだけに、
なおのことそう思わせているようだ。

父親としては、あまり真似をしてほしくないことも多いオッチャンであるだけに、
敬愛するだけにしてもらいたいのだが・・・。


 結局、分流でチビは
7匹を加え、都合12匹を釣り上げた。


テンカラを初めてやる小学生がツ抜けをする天然河川がこの日本にはどれだけあるのだろう。

  やはり、黒部はイワナの楽園である。


 チビには打ち込むことが困難なポイントは父が竿を取り返して、何度か見本を見せた。


 毛鉤が視界から消える岩陰から何度か釣り上げたとき、
 チビに「お父さんには見えているの?」と聞かれたので、


  「心の目で見ているのさ」


と答えたが、それはHオジの受け売りである。


経験的に、毛鉤に出そうなタイミングでから合わせをすると、
それなりの確率でかかるのである。

 本流は水量が多く、チビには難しいので納竿。十分に満足して小屋に帰る。



さすがに、小屋のスタッフとの宴会なしで下山するわけにもいかないので、セーブしてビールを飲む。

K藤さんは、しっかり放流分をキープして帰還。



 お客さんたちの夕食が済み、朝食の準備をしたら宴の始まり。


K藤さんが背負い上げた銘酒のご相伴にあずかる。
当然のことながら、

熊隊長もHオジもいない飲み会は上品に過ぎていく。

しかし、今年は何かが違う・・・って、爽やかな好青年がいる。

朝はボトル1本のダメージで、ぼんやりしていたからわからなかったけど、
何せ富山出身でイワナ釣りは大好き、スキーはばっちり、

イケメンで関西の一流超有名大学の1年生。

うちの娘よりは一つ年下だけど、俺も嫁さんより一つ年下だから全く問題なし。

俺が嫁さんを富山からもらって富山の人口を一人減らした分、
娘を富山に嫁がせればチャラになるし。趣味がピッタリ一致するのは婿として完璧。
何より娘が富山に嫁げば、定年後は娘宅に居候して神通川に入り浸りできるじゃないか・・。

それはともかくイワナの会もしばらく安泰になるのでは・・
 

今回、イワナはあまり釣れなかったが、
このイケメンを今後何年かかけて、釣り上げようと思いつつ、宴はあくまでも上品かつ早めに終了。

ここ数年、夜の帝王としてK
子ちゃんとロングランの飲み会を展開していた
Hオジの参戦回避の影響はこんなところにも表れていた。

 恒例の記念撮影



813日(水)】


  結局、釣りをした昨日だけが悪天候であった。

  天気はまずまずで、放流はK藤さんにお任せし下山である。

  言い訳するわけではないが、決して鮎釣りのためでは無く、

  15日に仕事が入ってしまったためである。

薬師沢に浸してあった魚籠を回収し、放流用の

 オトリ缶に移し始めると、登山客が何人か寄って

 きて覗き込む。

  可愛いお姉さんが「大きい〜」なんて歓声を上げると、ちょっと照れるが、
  俺のことを褒めているわけではない。


  背負子に括り付けて、担いだK藤さんは
 「折立から上ってくる時の荷物と比べたら楽勝!楽勝!」と余裕たっぷり。


確かに、そうだよなあと思いつつ、「水は揺れるからバランスに注意が必要」と、
一応先輩風を吹かせてみたりしたが、そんなことは百も承知だろう。

  チビの提案もあり、恒例の記念写真はヘリ用のデッキで撮影。

私とチビは折立に下山。

K藤さんは雲の平へと向かった。

  思い起こせば、一人で入山していたものが家族同伴となり、
  その家族もも娘が大学生、上の息子が高校生となりいつしかチビと二人になってしまった。


チビも来年からは中学生になり、部活が忙しくなれば一緒に入ることが難しくなるかもしれない。


寂しくはなるが、見方を変えれば父親としての役割から解放されるので、
昔のように黒部源流のイワナを愛する会の会員としての活動に専念することができるともいえる。


  もう一度、「突進王」と呼ばれるくらいイワナに向かってみるのも悪くないなあ・・・。

そのためには、熊隊長はじめ会員のみんなにも頑張ってもらわないと。


ちょっとしたハプニングの顛末を酒の肴に、

面白おかしく

薬師沢の小屋で飲むのが一番楽しい時間なのだから、みんなでシェアしないとね。



昔語りを楽しみにしている新たなメンバーや理解者も出てきていますから。


※後日、K藤さんからいただいた情報では、ここ5〜6年放流を行っていなかったK谷の魚影は濃かったようである。


さらに9月にも
K子ちゃん同伴で30匹超を追加放流したとのことなので、しばらくは大丈夫と思われる。



来年は、2010年にHオジとマサヨ姉さんと放流したイワナがどうなっているか
H谷を覗きがてらの放流も「いいかな?」




だれか「いいとも!」って言ってよ。




  K谷放流のミッション完了!

  K藤さんお疲れ様でした。


(C)黒部源流の岩魚を愛する会