Fine City Singapore
98年11月4日(水) 曇り
バンコックを離陸して2時間、SQ065便は日が落ちたシンガポールに着陸しよう
としていた。高層ビル、高速道路、停泊する船に明かりが灯って美しい。
間もなくチャンギ空港に着陸。バンコックと経度は同じくらいなのだが時差があり時
計を1時間進める。入出国カードに赤い字で大きく「薬物所持は死刑」と書いてある。
入国管理官が一段高いところに座っているので、今年はじめに行ったオランダのスキ
ポール空港を思い出した。
手荷物だけなのでターンテーブルをパスしてロビーに出る。うわさには聞いていたが、
ターミナル内が輝いているようにきれいだ。
3泊4日なので、まずは2階の出発ロビーへ行き、チケットカウンターで帰り便のリ
コンファームを済ませる。市内へはエアバス(といっても航空機のエアバスではなく、
市内と空港を結ぶバス)を利用することにして1階へ戻りチケットを買い、時間があ
るのでバーガーキングで一息いれる。そこでバスルート案内を見ると乗るべきルート
は1のようだ。バンコックで事前に買っていたガイドブックではオーチャードロード
方面へはルート2のはずだが、ガイドマップと案内板をどう見てもルート1のようだ。
今さっき出ていったので次の便は30分後、待つしかない。
バスに乗ると運転手がホテルの名前を聞く。泊まるホテルの名前を告げると、そこに
は直接行かないので道路の反対側にあるホテルで降りろという。
雨上がりの濡れた道を走り、30分で市内のにぎやかな通りに入る。3つほどバス停
を停まって目的のバス停で降りる。オーチャードロードを渡りホテルにチェックイン
する。11月5日(木) 雨のち晴れ
起きて窓から外を見ると道が濡れている。早朝に雨が降ったらしい。こんなに雨が降
るとは思わなかった。傘を買うしかないかと思いつつ朝食をとる。
空港で手に入れたガイドブックにタイ大使館の電話番号が載っていたので電話をかけ
てビザの申請について聞く。今日の午前中に写真を持ってくれば明日には取れるとい
うので早速行く。1ブロックほど先なので10分もあれば行けるところだ。
バンコックの事務所へファクシミリを送るよう手配してホテルを出る。
ショッピングセンターが立ち並んでいる。ラッキープラザ(幸運中心)というのが何
となく怪しそうで面白そうだが、まずは大使館へ行く。既に30人程並んで申請して
いる。申請用紙を書いていると隣の女性(日本人)から、目的の欄には何て書けば良
いのですかと質問される。彼女は今までは留学生だったが、卒業して今回は就職だと
いう。とっさのことに、窓口で聞いたらと答えてしまった。
エアコンが無いところなので、吹き出る汗を拭いながら用紙を記入してパスポートと
提出する。受け取りは明日の午後2時なので大使館を後にする。
少し戻って通りの反対側に見えるスターバックスコーヒーに入って一休みする。
とにかくショッピングセンターとホテルの多いところだ。とりあえず義安城(ニーア
ンシティ)の高島屋に入る。一流ブランドが多く入っているが、5階の一角には銀行
と郵便局が入っていて驚いた。郵便局でテレホンカードを購入する。バンコクに電話
をするが話中音でつながらない。別のエリアにはテナントが入っている。
地下にあるM1は携帯電話の店でアジア各地とヨーロッパをオートローミングできる
というので欲しくなってしまうが、日本、韓国、アメリカ、カナダ、メキシコはその
地域で使用可能な機械の貸し出しになるらしいのであきらめた。
牛丼の吉野屋で昼にするが日本には無いメニュー、豚、鶏、鮭フライがあり迷うが
久々の牛丼を食べる。鮭は「三文魚」と表記されていて「サーモンフィッシュ」と見
当がつくが非常に安い魚みたいで笑ってしまう。地下の食品売場の一角は例のごとく
フードコーナーだが、タイと違うのはクーポン式でない点と値段が高い点。値段はご
飯と3品くらいのおかずで10S$位。このコーナーの横でおばちゃんが7種類の肉
粽(中華ちまき)を売っているが、こちらは1個1.2から2.2S$で安くてうま
いのでお勧めする。(食べるときに手に脂気ともち米の粘りがついてねちゃねちゃする
が。)
そしてオーチャードロードを渡り、向かいにあるラッキープラザ(幸運中心)へ入
る。1階から3階まではカメラ、電化品、時計、服飾、宝石、おもちゃなど色々な店
が入っているビルで、バンコックのマーブンクロンセンターの様な趣がある。(MBK
よりはだいぶ狭いが)。しかし値段を聞こうものなら、買うまで解放しないぞという調
子で値段交渉になってしまう。この辺がタイに慣れた身にとっては愛想のない商売人
達という感じでげんなりする。また人の顔をみると「ニセモノ・トケイ」と声をかけ
てくる連中もいる。4階、5階へ行くと様相が一変する。リミッタンス・サービスな
る看板を掲げる店が目立つ。そして別の店はエプロン姿の女性の写真が並べてある。
よくよく見るとフィリピーナメイドの紹介エージェントだ。メイドの養成学校もある
らしくて授業風景の写真もあったりする。なるほどリミッタンス・サービスとは彼女
らの稼ぎの送金とここで購入した荷物を送るためのものなのだ。料金表にメトロマニ
ラとかプロビンス、銀行口座でも戸口でもOKとか書いてある。それにフィリピンか
ら輸入した食材や雑誌、音楽テープなどを売る店もあり下層とは違う雰囲気がある。
シンガポールのメイドはフィリピンからの出稼ぎが多いということを聞いたことがあ
るが、こんなところで思い出すとは。98年11月6日(金) 雨のち晴れ
道が濡れている。雨が降ったり止んだりしている。パスポートの受取は午後2時なの
でそれまでどう過ごすか悩んだが、結局はオーチャードロード周辺で過ごすしかない。
ホテルの向かいにあるPARAGONにいってみたが、テナント部分は大改装中で期
待はずれとなってしまった。C.K.TONGビル(詩家董大厦)もあまり面白くな
い。昼は伊勢丹スコッツ横の地下にある食堂街で中華風釜飯を食べる。少々塩味が強
いが、割といける味である。
伊勢丹スコッツで時間をつぶして2時になったので、タイ大使館へパスポートを受取
りにいく。来ている人間は4人ほどいた。その後はバスで中華街へ向かう。
ちょうど来たバスに乗ろうとして2S$の紙幣を出すと、運転手は釣りがないという。
仕方ないので降りて考える。どうやら路線図を見て行きたい場所の区間に応じた小銭
を支払うようにすればよいらしい。15分ほど待って次のバスが来たので乗り、用意
した小銭で支払う。エアコン車の料金を払ったが、乗ってからよく見るとこのバスは
非エアコン車で、払い過ぎたと思ったが後の祭り。一方通行が多いのでぐるぐる回り
道をしながら走っていく。
中華街の入口とおぼしきスリ・アリアマン寺院の門が見えたので降りる。ヒンドゥー
寺院らしいが門の装飾がすごい。怪しい人形の集合体で尖塔のようになっていて、シ
ルエットだけならサグラダ・ファミリアの塔を彷彿とさせる。
目指すはチャイナタウン・コンプレックス。手前の空き地では三帝五皇を祀って京劇
の勧進興行が行われているが、何とこれが外から丸見え。それでも写真は撮らないで
下さいという日本語の注意書きがあったけれど、これでよいのだろうか。
いよいよチャイナタウン・コンプレックスへ足を入れる。看板には「牛車水大厦」と
書かれている。1階は服、雑貨の店、2階が屋台食堂街、地下が食品市場になってい
る。市場独特の匂いと活気にあふれてと言いたいところだが、中途半端な時間なので
今ひとつ。地下の果物関係の店にドリアンは見あたらなかったが、ある店の奥にジャ
ックフルーツが3,4個置いてあり、それが2歳児位の大きさなので驚いた。こんな
に大きいのは初めて見た。切り売りしていたので早速買う。1袋2S$で150円、
タイなら30B100円位の見当。タイでは種まで取ってあるが、ここでは房までの
切り分けで種までは取ってないのでちょっと不親切だ。しかし熟していて独特の香り
が強くうまい。ドリアンが果物の王様といわれるが、果物というより濃厚な油脂とい
う感じがする。私としてはこの独特の香りと食感のするジャックフルーツの方が果物
の王様と思えて好きなのだが1個丸ごとは買えないし、買う気にもならない。
ざっと一回りしたが、特に面白いものも発見できなかったので、喫茶店でコーラを飲
みながら次の目的地を探す。ガイドブックの地図を眺めて、クロスストリートを海へ
向かい、チェンジアレイを経由して、マーライオン、そしてラッフルズホテルへ行く
ルートを歩くことにする。ひたすら歩き、テロック・アテアまで行き左折。しばらく
行くと道路上にかかる通路が見えた。ここがチェンジ・アレイのようだ。両替商が店
を並べていたのでこのような名前がついたらしいが意外に少なく、各ブースは美容室、
喫茶店、切手・コイン、土産物などである。大阪地下街にある各地の名産店の様な感
じである。橋になった部分の中程にある両替商に入る。壁のレート表をみると市中と
同じなので少々がっかりしながら、鉄格子の中の大将に「日本円で20,000。
OK?」と言いながら福沢先生2人を渡すと、何も言わずにプリンタ付き電卓の計算
レシートを渡してシンガポールドルが出された。いくらのレートなのか考えながら数
えていると再び金が出されたので受け取る。これは計算レシート通りの金額だ。
こんがらかっていると、日本人らしき一人が入って来て、レートをもう少し上げろと
いうようなことを店の人間に言っていたが彼に連れられてどこかへ行ってしまった。
こちらは予想外の金を手にして、これでいいのかなと思いながら足早に立ち去る。追
っかけて来て計算を間違えたから返せってことにはならないかと。
そういえば鉄格子の中の壁にアラビア文字の額が掲げてあった。
「アラー・アクバル(アラーは偉大なり)」
せめて「サラーム・アレイクム」とでも挨拶しておけばよかったか。不思議な思いのまま歩いていくと突然マーライオンの後ろ姿が見えてきた。マーライ
オン公園は小さな三角形でその先端にマーライオンがあるのだが海に向かっているの
で、この公園からは背中しか見られない。池に小さいマーライオンの噴水があるので
記念撮影をする。マリーナベイにかかるエスプラネード・ブリッジを渡りマーライオ
ンを正面から見る。さらに歩を進めラッフルズ・ホテルへ行く。見事なまでのコロニ
アル建築とドアキャプテンの貫禄、まさに絵に描いたようなとしか言いようがない。
北側の方はラッフルズ・ホテル・アーケードとして一流ブランドがテナントとして入
っている。この一角にラッフルズ・ブランドの売店があるので入ってみると中国の舟
形金塊のペーパーウエイトがあって思わず買ってしまう。
マカダミアナッツのチョコレートはビターとスイートの2種類、形も丸く仕上げられ
ていてなかなかおしゃれなので人気が出そう。
シティモール駅まで歩き鉄道のMRTに乗ってソマーセットへ戻る。郊外は高架線だ
が市内の繁華街は地下鉄になっている。リサイクルのため切符は紙でなくプラスチッ
クカードで回数券と共通になるらしい。折り曲げると違反で罰金。回数券の場合は有
効回数か残金があると自動改札機を通過するが、1回使用の切符の場合は自動改札機
で回収されてしまった。ステンレス車両に赤い帯で、大阪市営の御堂筋線か営団丸の
内線と同じカラーリングだが、正面からみると四角というより蒲鉾型みたいな感じの
面構えである。夜になって大勢の若者もオーチャード・ロードに繰り出してくる。義安城のエントラ
ンスは広場になっているが、その柱の陰で高校生位の連中が腰をおろしてテイクアウ
トした軽食を食べている。さすがに投げ捨てはしないもののタバコを吸う連中もいて、
日本のコンビニの駐車場と同じような風景が繰り広げられている。98年11月7日(土) 雨のち晴れ
きょうも雨が降っている。チェックアウトは12時だが1時までは良いという。
義安城の高島屋へ行き、郵便局で絵はがきを出して、食品売場で昼食を買いホテルに
戻る。例の肉粽屋で買ったカレー風味の餡が入ったのを食べてチェックアウトする。
雨が止んでいたので空港には例のエアバスで行こうと思い、近いバス停に行ってまっ
ていると一番遠い車線を走っていってしまった。このバス停には停まらないらしいの
で道路を渡りマンダリンホテル前で待つことにした。40分ほど待って来たバスに乗
る。主要ホテルをまわって行くので空港まで約1時間かかるが飛行機の時間までは余
裕があるのでかまわない。結構面白そうな市場ビルや商店街が目に入ってくるので次
に来るときのためにチェックをいれておく。バスが高速に入って景色が単調になった
のでうとうとしたら空港に到着した。空港のチェックインカウンターで手続きをすると、係員が一便早い飛行機で行くかと
聞く。空席があるので変更可能だという。特に残る理由もないので変更して出発。予
定より2時間ほど早く着くことになる。あわただしく出国ゲートを通過して、ラウン
ジで待つ間、すでに持っているタイの入出国カードと税関カードの記入を済ませる。離陸して約2時間、バンコク、ドン・ムアン空港に着陸。ボーディングブリッジから
入国ゲートへ行く途中、声をかけられる。典型的なバックパッカーのスタイルだ。
「あのう、日本の方ですか?」
「すみませんが、いろいろ教えて欲しいんですが・・・」
「荷物はそれだけ?」
「ええ、これだけです」
ターンテーブルでの荷物探しに付き合わなくて済むと思いながら
「ちょっと、そこで待っててくれる」
と待たせている間、気になっていた入国ゲート横のVISA ON ARRIVAL
のカウンターで色々聞いてみる。日本人でシンガポールから来たというと係官がVI
SAは必要ないから入国ゲートへ行けという。どうやら申告しているのは特定の国か
らの出稼ぎ労働者のようだ。彼のところへ戻ると
「これ、どう書いたらいいんですか?成田からエア・インディアで来たんですけど、
いつの間にか、他の日本人と、はぐれちゃって・・・」
おいおいイミグレーションカードくらいは機内で書いておけよ。君の手に持っている
ガイドブックには書き方が載っているはずだぞ。バックパッカーなら自分でするのが
当たり前だろう。各欄を説明しながら質問する。
「海外は初めて?」
「ええ、来ればなんとかなると思って」
「学生?」
「会社員なんですけどね、遅い夏休みで10日くらい」
「アドレス・イン・タイランドは適当なホテルの名前を書くんだけど泊まる処は?」
「友達からカオサンが安いって聞いているんですけど・・・」
「オリエンタルじゃ見栄の張りすぎだからスクンビットのマンハッタンホテルとでも
しておこうか」
やっと記入してゲートの列に並ぶ。そしてリコンファームのことなど話しながら順番
を待つ。無事ゲートを通過して次は税関用のカードを記入。ロビーに出るまで1時間
位かかったか。
「両替は?」
「一応500バーツ位、友達からもらってありますから、なんとかなりますよね。
明日あの辺で替えようと思っているんですけど」
「盗難とかどうなんでしょうか?」
「宿代に反比例するっていうからなあ。自分で注意するしかないだろうな」
誰の本でもいいから2,3冊読んで予備知識を仕込んでこいよな。
彼はバスで行くというので健闘を祈りつつ別れる。
エアポートタクシーのシートに座り、英語の授業でイミグレーションカードの書き方
など扱えう方がよっぽど実戦的だろうななどと考えつつ、様々な禁止事項と罰金額の
絵がかかれた“SINGAPORE IS FINE CITY”のTシャツを買い
そびれたのを思い出した。