古いFRPタンクをレストアする その10

 

 サフェイサーを全面に施し,完成したタンク。

 塗装はよそでやるということなので,ウチでの作業はここまでです。

 というつもりだったのですが……。

 燃料コックが取り付くネジ(タンクの内側から貼り付けたヤツ)が

アルミ製で,ネジ山が馬鹿になっていて,どうしてもガソリンが漏れて

しまうのです。

 これではしょうがありません。

 お客さんの許可を貰って,純正のコックからピンゲルのコックに

交換しました。

 コックのところを切り取り(涙),ピンゲルに合う鉄のネジに付け替えます。

 切り取ったところは,樹脂パテで仮付けした後,切った線を中心に溝を

掘り,そこに細くきったガラスマットを積層します。

 乾いたら表面をならし,パテで仕上げて,再度サフェイサーを入れて

完成です。

 最後にトドメをさされてしまったのですが,実はこれこそ私が今回述べた

かったことにつながるのです。

 今回のBIMOTAのタンクは,ガラスのFRPですし,接着面が比較的

広いので,かなりがっちりと接着することができます。

 カーボンFRPのタンクというのもございます。非常に高価なものですが,

信じられぬほど軽く,美しいものです。

 かつてカーボンタンクの補修の依頼を受けたことがあります。

 構造的には,今回のBIMOTAと同じで,タンクの下部に接着面があります。

 そこが部分的に剥がれて,ガソリンが漏るので,なんとかならないかという

のです。

 カーボンタンクは一般的にプリプレグというものでできています。

 カーボンの織物にエポキシ系の一液の樹脂が染み込んでいるものを型に貼

り込み,釜で焼いて熱硬化させます。

 そしてどうやら最後のタンク上下の接着を,二液のエポキシ樹脂で行っている

ようなのです。

 熱硬化型の一液のエポキシ樹脂というのは,硬化した後は非常に接着が

困難なものなのです。普通のFRP樹脂はくっつきません。簡単にぽろっと剥がれ

てしまいます。

 ですからどうしたものか悩んだのですが,前にも少し述べた,サビ止めの塗料

は,かなり良好な接着力を示しました。また,某社のアルミパテ(これもエポキシ

系の材料ですが)がいい感じで食い付くようなので,この両者を用いてなんとか

補修を済ませました。

 ところがまたガソリンが漏れると,送り返されてきてしまったのです。

 見ると,私が補修したところは接着されているのですが,他のところがどんどん

剥がれてきているのです。

 こうなるともうどうしようもありません。カーボンタンクは,そのカーボン目の美しさ

が身上なので,大手術をして,後で塗装でごまかすという訳にはいきませんから。

 カーボンは硬いので,それがかえってアダとなって,接着面が少ないと,震動など

で,剥がれや割れが生じる可能性があるのかと思います。また,未硬化の状態で

型を貼り合せて焼くのではなく,硬化した後に別の材料で接着するというのでは,

良好な接着強度が得られないように思えます。

 勿論,私が触れたタンクはたまたま悪い個体であったのだとは思いますが,走って

いる途中で,突然ガソリンが漏れ出したりすることを考えたら背筋が寒くなります。

 カーボンタンクの場合は,この構造でデザイン,設計をするしかないのでしょうが

(カーボン目を生かしたいのであれば),普通のガラスのFRPでしたら,もっと安全

性の高い構造を考えられると思います。

 その一つは,先ほど述べた,燃料コックのネジを交換した時に使った方法です。

 製品を突き合わせて仮止めした後,合わせ目のところに溝を掘り,帯状のガラス

マットなどを貼り回すというものです。

 これならかなりの強度が期待できます。またデザインの制約が少なくなりますので,

タンクの形状の可能性も広がります。

 確かに,仕上げは面倒になりますが,危険物を詰めるものですから。

 そのぐらいの手間は致し方ないのではないでしょうか。

 現在,FRPタンクは「レース用」などと称して販売されている訳ですが,そのような

逃げ道があるにせよ,ストレス無く,普通に使用できる商品でなければならないと

思います。

 FRPの自由度を発揮する為にも,安全性,強度に関しての真剣な取り組みが必要

です。

 (おわり)

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