
ブルックナーの8番はとにかく長い。
下手をすれば、1曲で90分を越すので、演奏するのも大変だが聴くほうも大変だ。
金大フィルは、角間に移転後の最初の演奏会でこの8番を取上げた。
曲は、一般にはブルックナーの最高傑作と言われている。金大フィルは、4,7番を既に演奏済みであったため、最後の牙城として、登場したとびっきりの大曲だ。演奏会プログラム「顧問あいさつ」の中で、上手くこの曲を言い尽くしている。自分も学生時代には、よく聴いていた曲であるが、今はちょっと苦手だ。
通常のコンサートでは、このシンフォニー1曲のみというプログラム構成が多い。しかし、この演奏会では、なんと「おまけ」にタンホイザー序曲まで演奏している。多分メンツ消化のために無理をしたのだと思うが、演奏時間は賞味100分を越えて、さぞかし大変なコンサートだったろうと想像する。
この曲は、最後まで演奏するには相当の体力を要する。3楽章の時点で既に普通のシンフォニーの1曲分をも越える規模である。その上に、30分にも迫る4楽章を演奏するのは、肉体的な鍛錬だけでは扱い切れない難しさがある。実際に演奏した経験があるが、体力配分は当然として、緊張と気力を最後まで保つのに苦労した覚えがある。
金沢にブルックナーおたくが、100人居るとは思えない。大部分の聴衆も、半ば拷問の心持ちで聴いていただろう。余談だが、ブルックナーには、いわゆるブルックナーおたくというのがいて、ナニ版がどうだとか、どこをカットしたとかで盛り上がる手合いで、クラシックファンの中でも一際、特殊な人々だ。
この演奏会を迎えるまでに、金大フィルはそれまで経験したことの無い、大きな環境変化に遭遇した。言うまでもなく、角間へのキャンパス移転だ。総じて、練習の環境は厳しいものになった。その戸惑いの中で迎えた演奏会だったのかもしれない。
当時、そのような事情を預かり知らない自分は、遠く離れた東京で、この演奏会のうわさを耳にした。いよいよ金大フィルもここまで来たのか・・と感慨にふけったものだ。
今、CDで演奏を聴いてみる。ブルックナーの巨大な山に果敢に挑んでいるのがよく聴き取れる。反面、重苦しい曲調のせいが大きいと思うが、前年のラフマニノフで感じられた音楽に取り組むゆとりには少し欠けていたかもしれない。曲の偉容にちょっと負けていると言うことか。
環境変化の戸惑いも、音に現れていたのかもしれない。80年代には金管楽器が金大フィルの看板の一つであったことは間違いないが、この頃には、特に突出したパートも見られない。平均的には健闘していると言って良いのだろう。この演奏会のマエストロの話は、ほとんど聞かないが、どんな感じだったのだろうか。
この演奏会の数年後に金沢に舞い戻ったとき、再会した金大フィルは、ちょっと意外なものだった。
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