ヒンデミットと聞いてその作品を思い浮かべられる人はそう多くはないだろう。比較的有名作品といえば、「画家マチス」があるが、地方のCDショップなどでは、作曲家の名前さえ見つけることが困難に違いない。
金大フィルが取り上げたこの「ウエーバーの主題による交響的変容」もカタログを探してやっと見つけられるのは、最近、再発されたジョージセルがクリーブランドOと残した名演奏と他、少々くらいだ。
一般的に言って、ドイツ・オーストリア系の古典的作品に偏向していた金大フィルの選曲として、ヒンデミットはとてつもなく、斬新で特異なものだ。金さんとの5回目の共演を迎えて、「現代曲」の選定にどのような経緯が隠されているのか興味津々だ。
1943年のアメリカ滞在時に作曲された、立派な「現代曲」、実際にこの曲をじっくり聴いてみると、意外なほど親しみやすく、難渋な感じは受けない。管弦楽法的には、斬新な響きで、多彩な打楽器を含むけれども、3管編成の標準的なものだ。金大フィルが通常取り上げるサブメインクラス(チャイコのバレエ等)の曲と大差はない。短い4曲は、小さな交響曲のようなバランスを保っている。現代音楽と聞いて、逃げ出したくなるような無意味な音が羅列されているのでなく、先入観なしに十分に楽しめるものだ。鼻歌で、自然に出て来るくらいだから間違いない。 |
1楽章は、始終せわしなく動き回る、どいつからアメリカへ逃れたヒンデミットの気分の反映だろうか。
2楽章は、この曲の一つの特徴である、多くの打楽器が活躍する。何人で演奏したのかは、不明だが、音を聴いた感じでは、最低5名は必要だろう、何せ、自分は本業のトランペット奏者だけではなく、何期も主席バスドラ奏者を務めたのだから、確かだ。(打楽器は、別の機会に薀蓄を傾けよう。)ティンパニに立派に旋律が与えられることも滅多にないことだが、いつものような炸裂する音符ではなくて、微妙な音色を聴かせる打楽器アンサンブルだ。耳をそば立たせるようなアンサンブルを、このセクションが聞かせるのは、金大フィル50年の歴史を振り返っても、他にない。まさに珍場面だ。
それにしても、この楽章は短いが面白い。子供の頃に、初めて顕微鏡を覗いて、池の水の中から、ゾウリムシやミジンコを見つけたときのことを思い出した。顕微鏡のもとで、一つの細胞が分裂を始めてやがて、あちこちに動きまくっているようなイメージ・・・だ。弦楽器がほとんど開店休業状態になる部分では、完全な金管アンサンブルとなる。高度なテクニックが必要なのは、もちろんだが、このような美味しい曲に巡り合えた奏者達が羨ましい。打楽器アンサンブルで曲は終わる。
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