ドーベルマン

これは、私が学生時代、地元の深夜営業のスーパーでバイトしてた時の話です。
ある晩、ドーベルマンを連れたおじさんがやって来ました。デカイ!威風堂々!貫禄充分!カッコイイ!
ドーベルマンって、すっげぇ〜なぁ〜、って思ったもんです。その人はスーパーの目の前の電柱にドーベルマンを結び、
「そこでじっとしてろ」と命令し、僕等のスーパーへ入って行きました。
僕等バイトは「おい、ドーベルマンだ、ドーベルマンだ」と遠目に見て喜んでます。
しかし、ドーベルマンは微動だにせず、ジッとしています。電柱の死角に入っているせいか、
そこにドーベルマンがいる事に気付く人はいません。まるで、置き物のようです。
と、今度は「キャン、キャン、キャン」と吼えまくる小型犬を連れたおばさんが来ました。
よりによって、そのおばさんは自分の小型犬をドーベルマンがいる電柱に結び付けたのですっ!
おばさんと小型犬はドーベルマンに全く気付いていません。ドーベルマンの隠行の術が優れているのか、
それとも、おばさんと小型犬がうっかりなのか?見ている僕等はハラハラドキドキです。
その小型犬は隣にドーベルマンがいるのも気付かず、通行人に「キャン、キャン、キャン」と相変わらず吼えまくっています。
「おいおい、ヤバイんじゃない?あのまんまだと、あの犬、ドーベルマンに食べられちゃうよ」等と僕等は心配でたまりません。
と、遂にその小型犬がドーベルマンに気付いたのですっ!
小型犬はあらん限りの力を絞ったような声でドーベルマンに向かって吼えまくってます。
「うわぁ〜、ヤバイよぉ〜、ど〜すればいいんだぁ〜」僕等バイトの心配はますます募ります。
小型犬はますます吼えまくります。と、遂にその時がっ!
今まで微動だにしなかったドーベルマンが動いたのですっ!
首を動かし、小型犬を一睨みっ!ほんの一瞬ジロッと睨み、また元の体勢へ戻りました。
小型犬はドーベルマンの一睨みでカタマッテしまいました…。まさに蛇に睨まれた蛙状態…。
そのあと小型犬は固まったまんま、うんともすんとも言いません。さっきまであんなに吼えていたのに…。
恐るべし、ドーベルマンの実力。さすが、軍用犬。レベルが違います。
やがて、買物を済ませたおばさんが出て来て、小型犬を連れて行きました。
その時おばさんは「あら、○○ちゃん、いい子ねぇ〜、おとなしくしてるのねぇ〜」と言ってました…。
何があったか、全く知らず、隣にドーベルマンがいるのも気付かずに…。
その小型犬は腰が抜けたようなタドタドシイ歩き方でおばさんに連れて行かれました。
今度はドーベルマンの飼い主が出て来て、「よしっ!いくぞっ!」と一声掛けドーベルマンを連れて行きました。
その時もドーベルマンは何事も無かったような表情で威風堂々とした歩き方で従順について行きます。
ああ〜何事も無く済んで良かったぁ〜。僕等バイトはホッとしたました。
なかなか面白いモンを見せてもらったものです。
その後、バイト仲間でこの話は、面白可笑しい話り草としてひろまりました。