久保田塾・塾長のつぶやきスペシャル

算数はなぜ自習できないか。

私は複数教科を教えることができるが、
算数についての需要が一番大きい。
なぜか。
理由は簡単だ。
算数が一番自習しづらいからだ。

参考書、問題集、塾のテキスト
たくさんの教材、指導書が世の中にはあふれている。
その中には自習を前提として書かれたものも少なくない。
なのに、なぜ自習できないのか。
理由は簡単だ。
ルールが複雑だからだ。

理科の計算分野も含め、理科や社会は内容を覚えてしまえば良い。
そこでのルールは比較的分かりやすい。
覚えること自体は多いかもしれないが、読んで分からないことはない。
苦手だという子の大半は、覚えるのが面倒くさいだけだ。
内容に興味がもてないから覚えられない。
ただそれだけのような気がする。
国語についても似たようなことが言えると思う。

ところが、算数は違う。
覚えたくても内容そのものが理解できないのだ。
確かに色々な図や説明を使って仕組みを説明した本は多いけれど
いくら読んでも何を言ってるのか分からない。
そうした経験は、子供本人ならず、一緒に読んだお父さんお母さん自体もお持ちではなかろうか。

たくさんの自習書があるのになぜ自習できないか。
最近、その理由が分かってきたので私なりの考えを述べたい。

理由はひとつ。
自習書を書かれた先生方は答えを知っていて書いているからだ。
(キョトンとされた方も多かろう。)
当たり前だと思われるかもしれないが、ここが一番大きなポイント。
なぜなら、読む子供たちは皆、答えを知らないのだ。
どうやってその答えまでたどり着けるのか、その道筋が知りたいのだ。

道筋と言ったが、地図で目的地への行き方を調べるのとはずいぶん違う。
本当の道案内なら
例えば、角のコンビニを曲がれば、そこには必ず郵便局が見える。

ところが、算数の解説で、1番目の式から出た結果がなぜ2番目の式につながるのか。
そうした疑問を持たれた方は多いのではないか。
読むだけではそこがつかめず、だから皆、私の所に質問として持ってくるのだ。
それを書いた先生には自明の事が、
読む生徒、解き方が分からず悩んでいる生徒には伝わらないのだ。
生徒だけではない、お父さん、お母さんにすら伝わらないことがある。

面積図や線分図を使うにしても、なぜそのような図になるのか。
そもそも、そこから分からない人もたくさんいる。

実例を示そう。

自習が大前提で作られている「予習シリーズ」という解説付き問題集がある。
四谷大塚という大手塾のテキストだが、市販もされている。

その例題のひとつを見てみたい。
カリキュラムとしては5年の春となっている問題だ。

予習シリーズ算数5年上(p.116)
第13回・例題6
A、B、C3人の身長の平均は161pです。
AとCの身長の平均はBの身長より6p高く、Aの身長はCの身長より2p高いです。
このとき、3人の身長はそれぞれ何pですか。

この例題に付けられた「解き方」を以下に引用する。

AとCの差が2pより、AとCの身長の平均と、A、Cの身長の差は
2÷2=1(p)
ですから、Aの身長はBの身長より
6+1=7(p)
高いことがわかります。
これより、3人の身長の関係は、右の図のような線分図で表されます。
(ここでは、下に示した。)

3人の身長の合計は
161×3=483(p)
ですから、3人の身長は
(483+7+2)÷3=164(p)〔A〕
164−7=157(p)〔B〕
164−2=162(p)〔C〕

どうでしょう。
この解説ですぐに解き方が理解できましたか。

「分かりやすい。これで充分だ」と思われた5年生は幸いです。
どうぞ、そのまま自分のペースで学習を続けてください。
この記事の、この先を読む必要もありません。

もうひとつ例を示す。

世にある参考書の中では比較的良く出来ていると思っているのが
学研の「応用自在」だ。
これにも似た問題が載っているので、その解法を紹介する。

「応用自在」算数(Gakken)(p.217)
平均算・5番
Aさん、Bさん、Cさんの3人の身長の平均は169pです。
AさんとCさんの身長の平均はBさんの身長より6p高く、
Aさんの身長はCさんより2p低いとき、
Aさんの身長は何pですか。

別冊解答は以下の通り。

3人の身長の和は、169×3=507(p)で、
下の線分図で示したような関係になっているから、
Aさんの身長は、(507+5−2)÷3=170(p)

いきなりこの問題に取り組み、もし解けなかったとして、
この解説で理解できるのは、相当な力がある子だけだろう。


この問題
私なら次のように解説します。

まず線分図を書く。
線分図は、何かが分かったから書くのではなく、
何かをつかむ為に書くのだ。


その前に、与えられた情報を整理しよう。

ABCの3人の身長について聞かれている。
(1)その平均は169p。
(2)ACの平均はBより6p高い。
(3)AはCより2p低い。

この3つの情報のうち、すぐにつかめるのはどれだろう。
もちろん(3)だ。
だから、まずここから作図を始める。

次に(2)を加える。
ACの平均というのを別の線で書き加えさせるのが大事。
ここまでで、次のような図が書ける。

これに(1)から3人の合計が507pであることを加え、
次のような図を新たに書き、まとめ直す。

整理していくときは、
前の図を消してしまわないで、新たに書き直すと分かりやすい。
こうすると、途中で迷った時に、もう一度初めから点検し直せるのだ。

最後の図から、Aを求めるのは
(507+5−2)÷3となる。
( )の中が、Aの3倍になることも、線分図からつかめると思う。
Bに5を足し、Cから2を引いたのである。

それにしても、この問題は意地悪い。
問題文で与えられた情報を、ちょうど逆の順番に使うと解きやすく出来ている。
和文和訳ではないが、問題文をいかに読み直すかも大事なポイントだ。
ちなみに、この問題は実際の入試問題。
1999年山手学院中学校(B日程)2番(15)

以上、私なりの意見を述べた。
私の解説をまどろっこしいと感じるなら、それは力のある証拠と言えるかもしれない。
実際には、この説明ですら、容易には理解できない子が少なくないのだ。
だからなかなか書籍だけでは自習ができないのだと思う。
(2007年6月24日久保田塾・塾長・久保田實・記)

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