ラジウスのストーブ

登山用携帯ガソリンストーブの代名詞ともなったRADIUSはスェーデンのブランド。

写真のモデルはNo.42というタイプで手のひらに乗るほどのコンパクトタイプだが、

火力は抜群で、冬の厳しい寒さの中でもまったく不安はなかった。

 

今や登山用の携帯小型ストーブといえば、EPIなどガス・カートリッジ式の物がすっかり主流となってしまったが、その昔、山用コンロといえばもっぱら石油かガソリンを使うものだった。

石油ストーブで代表的なものはオプティマスやプリムスの物で(日本製でマナスルなんてのもあった)、これらは燃料が安く、比較的安全であることから主に大学や高校の山岳部などでよく使われていた。

片やガソリン・ストーブはホェーブスやスベア、あるいはコールマンといったブランドがあり、こちらは火力が強く、よりコンパクトであることから冬の岩壁などを目指すクライマーたちに人気があったようである。

そして、このガソリン・ストーブの代名詞ともいうべきブランドがこの「ラジウス」。おそらく往年のクライマーたちにとってはガソリン・コンロというより「ラジウス」と言った方がぴったりくるのではないだろうか。

ハードな一日の行動を終え、テントの中でこの「ラジウス」の青白い炎とゴォーッという力強い音を間近にすると、それまでの緊張感が一気に溶け、しばし安堵と至福の時が訪れる。

私も十九の頃、同じ年のパートナーと初冬の穂高継続登攀に挑んだことがあった。屏風岩に取り付いたものの1週間分の装備・食糧の荷上げに難渋し、さらに途中から天候が悪化したこともあって、一日目の深夜近くになってようやく東稜の終了点にたどり着く有様だった。ザイルで岩場に身体を固定し、ツェルトをかぶってのビバーク。外はみぞれ混じりの雪がシンシンと降る中で、この「ラジウス」の炎と音はまさに唯一の救いだった。

今は便利さに負けて私もすっかりガス・カートリッジ式のストーブを使うようになってしまったが、時折、道具箱からこの古いストーブを引っぱり出し、コーヒーなど沸かしていると、そんな若き日の青春の思い出が甦ってくる。

 

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