灼熱の北鎌尾根 2001年夏 (前編)

日程:2001年7月20日(祝)〜22日(日)  単 独

行程:1日目 合戦尾根〜燕山荘〜燕岳往復〜表銀座縦走路〜大天荘テント場〜大天井岳往復

    2日目 大天荘テント場〜貧乏沢下降〜北鎌沢右俣〜北鎌尾根〜槍ケ岳〜殺生ヒュッテ・テント場

    3日目 殺生ヒュッテ〜槍沢〜横尾〜上高地

 

 私にとって北鎌は長年の課題だった。

 しかし、なかなかふんぎりがつかなかった。北鎌といえば、辛く長い、一筋縄ではいかない危険なルート。そんな印象が強かった。

そして、気がつけばいつしか北鎌は遠い存在となっていた。

 そんな私が今回その気になったのは「やっぱり山が好き!」のsudoさんによるところが大きい。

 sudoさんの意欲的な山登りに刺激を受け、今回、自分でもどうしても一人で北鎌をやってみたくなった。

(こんなふうに書いてしまうと皆さん、同じことを考えるかもしれないが単独行はあくまで自分の責任でお願いします・・・ね。)

 

ところで、以前は北鎌といえば高瀬から水俣川に入って湯俣経由、末端から登るのが王道だったが、最近は川沿いの道が荒れており、また北鎌尾根の下半部も無雪期にはブッシュが多くて敬遠され、代わりに表銀座の稜線から天井沢に下り、北鎌尾根上半部の「おいしい所」だけを取るケースが多くなってきた。今回、私が採ったのもそのショートカット・コースである。



合戦尾根から見る燕岳


燕山荘前にて


燕岳頂上です。


表銀座縦走路。槍はまだまだ遠い。


「大下り」手前から大天井岳を望む。


夕暮れの大天荘テント場


明日は「ヤリます!」


貧乏沢下部


北鎌沢出合から北鎌尾根を望む。

 

7/20(祝) 快晴

7月の「海の日」から始まる三連休。前夜の夜行で出かけたかったが、所用により当日朝の出発となってしまった。

日程は実質二日半。これで北鎌はちょっとキツいかなと思ったが、しかたがない。まぁ、天気も安定しているようだし、何とかなるだろう。

 

連休初日、朝の特急「あずさ1号」は通勤ラッシュを思わせる混雑ぶり。網棚にはバカでかいザックがズラーッと並んでいる。朝飯抜きで,扉の近くのデッキに長いことぎゅう詰めでいたら,熱気で気持ち悪くなってしまった。

 

終点松本駅までほとんど立ちっぱなしで、その後、各停に乗り換え穂高駅へ。列車の窓の外、緑の稲穂が眼にまぶしい。

「・・・ああ、とうとうここまで来ちゃったな。」

不安と期待が入り混じった妙な気分。

 

穂高駅から登山口の中房温泉までは小型乗合バスが走っているが、あいにくタイミングが悪く、次の便まで1時間待ち。時間がないので、餓鬼岳を目指す4人パーティーになかば強引にタクシーの相乗りをお願いする。(穂高駅−中房温泉まで片道約7,000円。5人で割って@1,400円)助かった。

 

中房温泉11:10出発。タクシーの運転手さんの話では、この辺りの水は地熱のため温かく、水を汲むなら合戦尾根を登って30分ほどの第一ベンチ脇の水場が良いとのこと。

登山届をポストに提出し、歩き始める。合戦尾根は北ア三大急登の一つといわれるだけあって、いきなり急な樹林帯の登りが続く。こんなに一気に登っちゃって本当に水場はあるのかな。ちょっと心配になってくる。

 

30分ほどで第一ベンチに到着。右手の少し下った所に冷たい沢の水が流れている。美味い!持ってきた空のペットボトル2.7リットル分を満杯にする。

小休止後、再び登る。太陽の照り返しが強烈でサングラスをかける。汗がダラダラと流れ,これでもかといった具合に吹き出してくる。はぁ〜、しんどい。これだから夏の尾根歩きは好きになれない。

 

ビスターリ・ペースの中高年グループを次々と追い抜き、2時間ちょっとで合戦小屋へ到着。

ここでは名物のスイカが飛ぶように売れていた。1/8切れで800円。ほとんどの登山者が食べていて何とも美味そうだ。

しかし、ここはグッと我慢。意思の弱い私がここでスイカに手を出すと、そのまま「ビール→うどん→今日はここまで→明日は燕往復のみ」という軟弱モードに切り替わってしまいそうだから(笑)。

 

回りでスイカにかぶりつく音を悪魔の囁きのように聞きながら早々と退散する。

しばらく行くと右手前方に燕岳が見えた。日程が短いので今回ピークは諦めていたが、その姿を見るとやはり登りたくなってくる。実はまだ燕岳を登ったことがないのだ。幸い、合戦尾根の登りを頑張ったおかげで、コースタイムを1時間ほど「貯金」できていた。

 

燕山荘着14:30 ここもスゴイ人。テント場は既にいっぱい。山小屋で売っているジョッキの生ビールが実に美味そうに見えた。

イカン、イカン。今日中に何とか大天井まで行かなければ!

重たいザックをそこらへ置いてカメラだけ持って燕岳へ向かう。

20分ほどで白い花崗岩の山頂に着いたが、ここも立っていられないほどの人、人、人・・・。山頂からは北燕岳から餓鬼岳へ続く稜線が見えた。ここもいつかのんびり歩いてみたい。

 

燕山荘へとって返し、ザックを背負って大天井へ向かう。表銀座コースといいながら、この時間帯歩いている人はほとんどいない。

蛙(ゲーロ)岩を越え、大下りへ。全体的にタラタラした道のりだが、意外と疲れる。途中で北ア猿軍団に遭遇。

それにしても、この日は暑く、大天井手前の分岐辺りではかなりバテてしまった。尾根道に咲いているコマクサもしおれがち。

 

大天荘着18:05 何とか明るいうちに着いた。色とりどりのテントが並ぶ中、自分も急いでテントを張る。今回来る前に軽量化のためツェルトにしようか迷ったが、やはり多少重くてもテントの方が落ち着く。

この時期、山の上では19時頃まで明るいようなので空身で大天井岳へ向かう。

山頂からは明日登る予定の北鎌尾根が天井沢の谷を挟んで対岸に見える。

もうここまで来たらやるしかない。

喉の乾き対策のため、今日まで5日間ビールを断ってきたが、こらえきれずに山小屋で購入。

ま、前祝いということで・・・(笑)

 

[一日目のコースタイム]

登山口(中房温泉)11:10〜第一ベンチ11:40〜第三ベンチ12:20〜合戦小屋13:16−30〜燕山荘14:30−40〜燕岳15:00〜大天荘テント場18:05〜大天井岳往復

 

 

7/21(土) 晴れ時々曇り

第一夜はけっこうぐっすり眠れた。

3:15隣のテントの声で眼を覚ます。朝食を済ませ4:30出発。

昨日より少し雲が多いが、まずまずの天気。

 

うっすらと東の空が明るくなった頃、トラバース道を経て30分ほどで大天井ヒュッテへ。ここで北鎌尾根の最新情報を入手する。

ルートで気になるのはやはり独標辺りの様子だが、つい最近登った若い従業員氏の話では、知らず知らずのうちにトラバースルートに入っていたとのこと。直登ルートを行く人は最近あまりいないらしい。

ヒュッテから20分ほどで貧乏沢下降点着。ここで一般縦走路とはお別れだ。

 

沢の下り口に立つと北鎌尾根の下半部が見渡せる。

貧乏沢は大きく三つの部分に分けられると思う。

上流部は灌木帯。枝がうるさく大きなザックを背負っていると苦労する。

中流部はゴーロ帯。大人数で下降する際は落石に注意したい。

下流部は沢沿いの道。7月だと雪渓が残っていることもあるが、底はスカスカ。あまり近寄らない方がいい。左岸(上流から見て左側)に巻道が付いているので、これを通った方が効率的だ。

 

中流部で体調が悪いので北鎌を諦めたという中高年女性二人組とすれ違い、下流部では今朝、大天井を先行した4人組Aパーティーを追い抜く。

稜線から1時間40分ほどで天上沢との合流点へ。私は一人なので身軽だが、人数が多い場合この沢の下降に2時間は見ておいた方がいいだろう。

天上沢は轟々と水が流れ、気持ち良い所。サマーベッドとビールがあれば一日のんびりしてみたい。(←あるわけないが!)

そのまま天上沢を上流へ向かうと今度は別の4人組Bパーティーに追い付く。彼女ら(女性3、男1の中高年パーティー)は大天井を今朝4時に出たとのこと。私より30分早いスタートだ。

私はここで水を汲んだため、再び彼女らに追い付くのは北鎌沢の二俣となる。

 

貧乏沢出合から20分ほどで右手からゴーロが大きくせり出している北鎌沢出合へ。そこから10分ほど水流を遡って二俣に着く。

休んでいるBパーティーを「お先に!」と言ってやり過ごすと「右俣は水の無い方ですから。」と親切に教えてくれる。にも関わらず暑さでフラフラしている私は、まるで水に誘われるホタルのように、無意識のうちに水のある左俣を進んでしまう。

すぐに下からコールがあり、振り返るとBパーティーの女性が「右!右!」と合図してくれる。ああ、そうだった。ヤブを横切り、正規ルートの右俣へ。

 

この北鎌沢右俣は遡るにしたがって水が消えたり現れたりする。この時期はずいぶん上流まで水が流れていた。

主に沢伝いに登っていくが、中流域を過ぎると大きな岩の涸滝が続き、2ケ所ほど残置ロープが垂れ下がっている。

ロープはけっこう古そうに見えたので当てにせず、脇からうまく乗り越していく。

 

遙か上をまた別のCパーティーが登っているのが見える。それにしても暑い!北鎌沢は東斜面のため、晴れていると日差しが強烈で、私は水がチロチロ流れているのを見つけては岩に口をつけてガブ飲みした。きっと誰かが見たら遭難者かと思うぐらいに肩でゼーゼー息をしながらとにかく飲んだ。何しろこの先、北鎌尾根に入ったら水は一切得られないのだから。

上流部は高山植物が咲き乱れるなかなか美しい所だが、そんな景色を堪能する余裕もない。早くもここまでで相当バテていた。でも、ここからがいよいよ北鎌尾根の始まりなのだ。

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