ゴローの山靴

「ゴロー」は東京・巣鴨にある小さな登山靴専門店

植村直己氏をはじめ、数多くの登山家やヒマラヤ遠征隊がここのオーダー登山靴を愛用している。

 

一番最初に買った革製の登山靴というと、高校三年の春、スイス・ライケル社の「アイガー」というモデルだった。

この靴はたいへん気に入っていたのだが、高校から大学一年にかけて夏の縦走、冬の長期合宿と四季を通じて酷使したため、わずかな年数でダメにしてしまった。

最後には皮の防水性がすっかり無くなり、おかげで北アルプスでの春山合宿で足の指に軽い凍傷を負う羽目となった。これではいけない、とにかく登山靴だけは金をかけようと思ってオーダーしたのが、この「ゴロー」の靴である。

積雪期仕様ということで、内側はベロと中敷きをフェルト貼りにしたセミダブルタイプ。足のサイズを測ってくれた店員さんは、「左の足の方がちょっと大きいですね。」と言いながら何やらカルテのようなものに書き込み、何だか医者で問診を受けているような気分だった。

数週間後、ついに出来上がったとの連絡を受け、ワクワクしながら再び店を訪ねた。はたしてどんな靴ができているだろう。何しろ生まれて初めてのオーダー・メイドである。初めて背広を作った時は感動も何もなかったが、この日、山靴を受け取りに行く時は胸がドキドキするほど興奮していたのを憶えている。

「…できてますよ。はい、どうぞ。」

そういって目の前に登山靴を出された。

「えっ!…これ?…ですか?」

正直言って、それはやたらズングリムックリしてあまり格好の良い靴とは言えなかった。それまで見てきたヨーロッパ製の「ガリビエール」や「ローバー」などの靴に較べて、何だか全体的にスマートではないのである。

「オレの足って、こんなに不格好なの?」

半分後悔しながらも、仕方なくその靴を履き始めたのだが、何回か山行を重ねるうち最初の不満はすぐに消え去ってしまった。足型に合わせて作ったのだから当たり前だが、とにかくフィット感が抜群で、まったく靴ズレができない。内側がフェルト貼りなので厳冬期でも爪先が冷たくならず、ヒマラヤでも不安を感じさせなかった。

考えてみれば、日本人の足型は甲高巾広でそうそう欧米の靴がぴったり合うわけがないのだ。冬から春にかけて積雪期のみの季節限定で使用しているが、今年でもう二十年。足首のクッション部分が少しイカレてきたが、全体的な型くずれはまったく無く、皮の防水性も完璧で、まだまだ十分使えそうだ。

ミーハーな私は山道具に関してもどちらかというと外国ブランド指向だが、冬用登山靴だけはこの国産オーダーメイドを全面的に信用している。

 

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