山岳部は格闘系?

 毎年春、桜の季節になると大学に入った頃を思い出す。

 

高校時代、ワンダーフォーゲル部で地元・丹沢で山歩きをしていた私は、畏れ多くもさらに上を目指そうと、大学に入ったらまず山岳部に入ろうと考えていた。

 今でこそ大学山岳部というと入部者が少なく、常に活動停止や廃部の危機に晒されているようだが、少なくとも私の時期、母校のM大学山岳部は人気があった。

 やはり数々の極地への冒険で一躍名を馳せていた某OBの存在が大きかったし、それ以上に大学創立百周年事業の一環として世界最高峰への遠征許可を取得していたのだから。

 

私も大学を選ぶ際もまずはその点を基準としたぐらいで、部の同期の連中も意識は「文学部」や「経営学部」に入学したというよりも、むしろ「山学部(山岳部)」に入るためにここを受けたという感じだった。(それでも中には、「山っていいなぁ。」などとノホホンとした考えで入部してくる輩もいたが…。)

 そんなわけで、シゴキに対する恐れもあったが、ここで躊躇していてはずっと後悔すると思い、大学に出向いた初日、授業のガイダンスもそっちのけで清水の舞台から飛び降りるつもりでエイヤッ!と入部してしまったのである。

 

さて、とりあえず入部してホッと一息ついたあるの日のこと。

 その日、構内を一人でウロウロしていると突然、背後から「おい、キミ。」と声を掛けられた。

 振り返ると角刈り、学ラン姿のいかつい男の三人組がこっちへ向かってくる。瞬間、身の危険を感じてしまった。

 「キミ、いい体してるねぇ。」

 「我々は体育会空手部だ。キミ、空手部に入らないか!」

 ちなみに当時の私は身長170cmで体重53kg。けっして「いい体」でも何でもないが、その頃は街角でよくそんな言葉で自衛官勧誘を受けたものである。(笑)

 しかし、とりあえず今はこの場をどう切り抜けるかだ。彼らも新人勧誘に必死な様子。ちょっとやそっとでは引き下がりそうもない。気の弱い私はすっかり気持ちが動揺して彼らに断る言葉も見つからない。

 

 「よし、決まりだ!今から部室に行こう。」

 一人の男になかば強引に拉致されかかった時、私は勇気を振り絞って小声で言った。

 「・・・あのぅ、実はちょっと前に山岳部に入ってしまったんですが。」

 一瞬の沈黙。

 「えっ?サンガクブ?」

 「山岳部って、体育会の?」

 「…ほんとに?」

 三人の男たちはなぜかその場でヒソヒソ話を始めた。そして・・・、

 「そうですか。山岳部ですか。」

 「わかりました。あの、どうか体に気を付けて頑張ってくださいね。」

 それまでどちらかというと荒々しい口調だったのが、なぜか優しくなっている。

「それじゃどうも!」「失礼しました。」

そう言って彼らはさっさと立ち去ってしまったのである。

 あとに残された私はわけがわからず「何だったの?いったい。」と半ばキツネにつままれたような気分だった。

 

しかし、それから一ヶ月後。

白馬岳で行われた新人合宿で、私は空手部の人たちの言った「体に気を付けて」の言葉の意味を深く噛みしめることになる。とにかく、その合宿はキツく、同じ一年生の中にはキスリングの重さに耐えかねて雪の上に押しつぶされたり、雪上訓練の滑落停止で流血したりする者もいた。最初、二十数人いた一年生部員は新人合宿終了後、早くも半分に減ってしまった。

たしかに、このクラブは自然に親しむというより、むしろプロレス的な肉体の限界を味わう世界であった。空手部の先輩たちは、きっと山岳部が一種の格闘系クラブだったことを知っていたんだろうなぁ。それならそうと一言ぐらい教えてくれてもよかったのに…(笑)

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