幻に終わった冬山撮影企画

 もう数年前のことだが、某自然派アウトドア系雑誌(あえて名は伏せる)の読者参加企画に応募したことがあった。

内容は「風景写真家のアシスタント体験」というもの。普段あまり知られていないその仕事の大変さや厳しさを読者が体験レポーターとなって紹介するとのこと。
 その頃、中古のニコンで写真撮影することに熱中していた私はなかなか面白そうだと思い、さっそく応募のハガキを出してみた。まあ、抽選で洩れるだろうと思っていたので、編集記者の○○さんから電話で連絡をもらった時はとても嬉しかった。

 「…山岳写真家の△△さんってご存じですよね。あの人を講師として、1月下旬に八ヶ岳へ行こうと考えています。もう一人女性の読者の方が参加しますので、よろしくお願いします。」
 もちろん、その場でOKの返事をした。
 冬の八ヶ岳か。早速、地図を引っぱり出し、あれこれ想像する。やはり雑誌に自分が大々的?に出るのだからウェアや装備もどうするか気にしてしまう。写真家の△△さんて一体どんな人なのだろう。一緒に参加する女性の人はけっこう山の経験あるのだろうか。
 一応、山岳写真家のアシスタントということなのだから、カメラやフィルムについても、もう一度基本を勉強しておいた方がいいだろうなぁ、などと緊張しワクワクしながら、その日を楽しみに待ち構えていたのである。
 ところが…。

出発を数日前に控えたその夜、記者の○○さんから電話がかかってきた。
 「…実は、誠に申し訳ないのですが。」
 写真家の△△さんの都合が悪くなったと言う。
 「…その代わり、××先生、ご存じでしょう?あの方がOKしてくれたので、今度は必ず別の日程でセッティングしますので、よろしく!」
 まぁ、こちらは先生が誰であろうが構わない。要するに冬山へ行ってプロの写真家の仕事ぶりを見て、少しでもそのノウハウが掴めればいい、それよりもミーハーな自分としては雑誌に載りたいという気持ちが強くあった。

次の日程も無事決まり、私は再び遠足の日を待ち受ける小学生のように落ち着かないまま、数日間を過ごした。ところが直前になって、またしても記者の○○さんからの電話。
 「申し訳ありません。××先生に急な仕事が入ってしまって…。」
 まぁ、売れっ子の先生なのだから、そういうこともあるだろう。○○さんが悪いわけじゃなし、もう一人の女性も何も言っていないのだから、我慢しよう。
 しばらくして、次の日程が決まりかけたが、その時はパートナーとなる女性の方が都合悪くなってしまった。当初の予定から3回も先送りになるとさすがにガッカリした。

こっちだっていろいろ用事があり、それを工面しながら日程を調整しているのに…。最初の話があった時からすでに1ヶ月以上が経過していた。これはもしかしたら企画倒れになるかもしれないなと思った。
 それからしばらくして…。
 「今度は大丈夫です。冬山の写真ですからね。この日を逃すともうチャンスは無くなってしまいます。」
 ○○さんの元気な声に、私も今度こそ4度目の正直になるだろうと信じることにした。

ところが…。
 やはり、その日程もボツとなった。理由はまたしても××先生に他の仕事が入ってしまったとのこと。
 「今回の企画はダメでした。でもまた次に必ず別の企画を設けます。その時はぜひ応募してください!」と○○記者は言った。
 私は開いた口が塞がらなかった。

一体この企画は何だったのだろう?
 こちらから応募した手前、自分の山行計画やスキーの予定を全て見送り、ひたすら連絡の電話を待ち、あるいはこちらから電話をかけたりしたのに、ことごとく空振りさせられた。来週こそは行くと連絡を受けて、そのたびに家庭との折り合いをつけて準備をしてきたというのに…。
 まぁ、私の失われた時間など、忙しい彼らには何の意味も持たないのだろう。お詫びにテレフォンカードの1枚でも送ってくれば、まだ許せたのに。
 さんざん振り回されて棒に振ったあのシーズンを私は忘れない。やはり雑誌に載りたいなどといった変な色気は出さず、山は気の合う仲間か一人で行くのが一番だ。

2000.6.10〉

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