夏の南アルプス 赤石沢

 

日程:2008年 8月12日(火)〜14日(木)

同行:タケちゃん(おやぢれんじゃぁ隊、「その空の下で」)、Uさん、Hさん、Nさん(以上、Y岳友会ほか)

参考:「関東周辺沢登りベスト50コース」(敷島悦朗・編、山と渓谷社刊)

 

色字下線部分をクリックすると写真が表示されます。

 動画もあります。けっこう重いけど・・。(Quick TimePlayerの無償ダウンロードはこちらから)


 赤石沢は南アルプス南部に位置し、百名山でもある赤石岳の南側を流れる壮大な谷。

 かつては「沢の王者」などと呼ばれるほど険悪な谷だったらしいが、現在は中下流部に取水ダムができたおかげで水量が半減。

 取り付きやすくなったが、それでも谷の美しさはそのまま残されているとあって、機会があればぜひ行ってみたいと思っていた。

 今回の計画はだいぶ前からタケちゃんとUさんが温めていて、こちらにも声をかけてくれたので、夏の家族サービスをやりくりして急遽ドタキャンならぬドタエントリーさせてもらう。

 Uさんとはちょうど四年前の夏に上越の「下ノ滝沢」(これも素晴らしかった)でご一緒しており、他に彼が連れてくるメンバーが二人。

 結局、野郎五人が集まり、ちょっとした夏合宿といった感じとなった。

 

 前夜、オーケストラの関係で既に静岡入りしているタケちゃんと合流。

 その日は鎌倉の花火大会で、昼下がりのJRで浴衣姿の若い男女に混じって一人ザックにメットをぶら下げた私は違和感タップリ(^^;)

 東静岡駅で落ち合い、夕食を終えた後、タケちゃんの車で登山口の畑薙ダムへ。

 街灯の少ない細いワインディングロードをラリーさながらに突っ走り、途中、2トン以内限定の木の吊橋(井川大橋)を渡ったり、と実にスリリングなアプローチであった。

 

 赤石沢の拠点・椹島(さわらじま)へはマイカーは入れず、一時間ほど鞄穴Cフォレストの小屋宿泊用送迎バスを利用することになる。

 

 夜遅い時間に他の三人とバス発着の駐車スペースで合流。

 南アルプス南部など遠くて不便、さらにお盆といえど平日なので登山者など10パーティーもいれば、なんて思っていたら、とんでもない。

 依然、百名山人気が高いのか全国各地のナンバーの車がギッシリで、これには驚いた。

 さっそく車の脇にテントを張り、景気づけというか前祝いというか、とにかく軽く飲みが始まる。

 そのうち予報に反してポツポツ雨も降ってきて早くも他のメンバーは日程延長やむなし、のんびりムードで構え出す。

 実は金曜に仕事を入れてしまっている私は内心大汗・・。

 ここまで来るとケータイも通じないし、いざとなったら無断欠勤となってしまうが。はぁー、どうなることやら。

 >大賑わいの畑薙ダム駐車場 赤石入渓点はここが目印

一日目 天候:晴れ時々曇り

畑薙ダム7:00−入渓8:10−北沢取水ダム12:00−「門ノ滝」上14:30−大ガラン近くのB.P 16:05

 

 椹島へのバスは、夏の臨時便が出て始発は午前7時発。

 ダートを揺られて小一時間。入渓点の牛首峠は終点の少し手前(「赤石沢川」の青い標識有り)。ここで我々五人だけ降ろしてもらう。

 未舗装ゆえマイクロ・バスはとにかくよく揺れ、あと30分乗っていたらさすがに「ウップ!」となっていたかもというのが大方の感想。

 

 林道脇から沢床へ、遊歩道のような所をほんの少し進み、緩斜面を選んで適当に左の沢へ降りると、もうそこが赤石沢。

 メットとハーネス、少量のギアを身に付け、出発となる。

 「さあ、行きますか!」

 昨夜の小雨もどこへやら、朝から絶好の天気で陽射しを浴びた沢床がまぶしく光る。

遡行開始 「イワナ淵」の始まり 緑の釜が美しい!

 飛び石伝いに歩を進めていくと、やがて大きくて深い釜が現れる。この辺りが「イワナ淵」と呼ばれる所か。

 まだ始まったばかりなので皆は無難にヘツっていく。

 そんな中、大したことはないだろうと試しに泳いだところ、ザックの浮力とツルツルの岩にバランスを崩し、私は早くも溺れかける(←アホ)。

  

 さらに大きな釜が現れる。

 見たところヘツリは無理。

 さてどうしたものかと思っていると、先頭を行くNさんが右岸の壁に垂れ下がった古いフィックス・ロープを発見。

 これを使って左の壁から巻こうとするが、けっこう壁が立っていて、しかもフット・ホールドがかなり乏しい。

 しばらく片手でぶら下がったりして格闘していたが、そのうち釜にドボン!

 「あぁ、これは無理だな。」と周りの反応は冷たく、ただ傍観するのみ。

 

 おそらく、ここがガイド・ブックでハンマーをナッツ代わりに決めて這い上がるという淵だろう。

 もう、ここは泳ぐしかない。距離は約15mほど。もちろん足など着くわけなく、正面突破で行くしかない。

  

 で、切り込み隊長のタケちゃんの出番である。

 50Lのザックを背負ったまま釜にドップン!そのままロープを引っ張り、見事完泳。(うーん、さすが頼りになります。)

 ロープを張り、後続はそれを頼りにスルスルと立ち泳ぎで一人ずつ突破した。

 それにしてもこの淵、深さはどれくらいあるんだろう。

 

 早くも全身ズブ濡れで、歳のせいか体温調節のめっきり利かなくなった私は長袖のラッシュガードにウェット地のベストを着て何とか凌いでいるというのに、Uさんらは半袖Tシャツ一枚きり。

 まったく、よく寒くないもんだ。

 下流は深い釜が連続 マイナス・イオン100%の滝 チョックストン滝手前を残置使ってトラバース

 さらに左岸の壁に打たれた残置を使ってスリング・トラバースする4mチョックストン滝などが続く。

 ふと見ると脇の巨岩のかなり上の方に残置があったりして、かつてのダムが無い時代、どれだけの水量だったかが偲ばれる。

 赤石沢の特徴として、すっきりした形の滝はあまり無く、どちらかというと乱雑に積み重なった巨岩の間を水が噴き出しているといった感じで、これはかなり上流部まで続く。

 

 「イワナ淵」に続く「ニエ淵」は、どこからどこまでがそれなのかよくわからなかったが、エメラルドグリーンの淵がしばらく続くと、やがて巨岩帯の渓相に代わっていった。

 ガイド・ブックでは「曲がり滝」だとか「神の淵」「虹の淵」といった何ともそそられる名前のポイントがいくつもあるが、実際はよくわからなかった。

 

 そろそろ取水ダムかなと思っていると、あまり沢登りらしくない格好の三人組(?)と出会う。

 何となく作業服っぽく見えたのでダム関係の人かと思ったが、どうやら渓流釣りのようだ。

 軽く挨拶をして先を急ぐと、やがて取水口の北沢ダムが見えてきた。

 谷の途中にこんなダムを造るとは何とも無粋の極みだが、その反面、行程の目安になるので予定時間の頃にダムが見えた時はホッとした。

 中下流域に突然現れる北沢取水ダム ダムを駆け上がる しゃわーくらいむ

 ダムは無人のようなのでそのまま、コンクリートのスロープを駆け上がって中央突破。

 左岸の梯子を登り、さらに腐りかけの残置スリングを使ってクライムダウンし、ダム上に出る。

  ダムを駆け上がる (6.6MB)

 

 今回、Uさん他二名は赤石沢遡行後に聖〜光岳まで縦走する6日分の食料、装備を持っているので沢登りというにはかなりの重荷。

 この頃から少し天気が曇り始め、おまけにこの辺り格好の天場がいくつかあるものだから、早くもダム上でメンバー間に「本日はここまで?」といった、まったりムードが漂い始める。

 日程に限りのある私としては、内心「オイオイ」とちょっと焦ったが、少し休んだだけでまた行動を再開してくれたので、ホッ。(^^;)

 

 取水ダムから上は、しばらく巨岩のゴーロ帯の単調な流れが続く。

 一日目のハイライトはもう先ほどの連続する淵で終わったかなと思い始めた頃、いよいよ後半のハイライトが始まる。

  

 まず、出てきたのが「門ノ滝」

 およそ15mの巨大チョックストン滝で、「赤石沢の主」といった貫禄十分。

 映画「インディ・ジョーンズ」に出てくるような大岩の両脇から水が勢い良く「X字」型に迸っていて、何とも近寄りがたい。

 ガイド・ブックの写真で見ると大したことないが、実物はかなりの迫力である。

 

 ここは、たしかガイドの記述によると右岸から巻くように書いてあったはずだが、重荷のNさん、Hさんは切り立った凹角の岩場を見て「いや、あそこは無理!」「やめた方が・・・。」と拒否反応。

 私としては「近づいたら意外と簡単に突破できるんじゃないかなぁ。」という思いもあったが、ここはタケちゃんがより安全を期して、左岸のボロい斜面をリードしてフィックスする。

 浮石混じりの泥斜面から急なブッシュを繋いで1ピッチ。順番にプルージックで巻いていく。

  全体的には小滝が多い そろそろ赤石が目に付くようになってきた。 門ノ滝。悪絶チョックストンの15m。

 さらに行くと「洞窟の滝」。

 ガイド・ブックでは三段15mなどと書かれているが、せいぜい二段10m。

 ここは右手の洞窟を潜り抜けていくのがセオリーで、グレードはW級、A0とか。一応、赤石沢の中では技術的核心らしい。

 とりあえず岩もやっているということで、「さぁ、出番です!」とタケちゃんに煽てられ、私がリード。

 ザックを背負ったままでは狭い洞窟の出口を潜り抜けられないので、空身で取り付く。

 

 洞窟は上から垂れ下がっている残置スリングを頼りに、ワイド・チムニーの要領で離れた壁を突っ張りで足を上げて行き(「B-PUMP2」では割と使うムーブ)、出口の狭い穴に身体を捻じ込む。

 ここはメタボの山屋(?)には腹がつかえて苦しいところ。ザックを背負ったままでは絶対無理である。

 芋虫のようにグニグニ身体を動かして、とりあえず洞窟から脱出する。

 

  ザックを吊り上げなければならないので、穴から抜けた中間のレッジでピッチを切り、残りの滝の落口までは二番手に上がってきたタケちゃんとリードを交替。

 後は私が途中で中継する形で、タケちゃんと二人で残りのメンバーとザックを順番に上げていく。

 洞窟を抜ける所ではHくんが足を滑らせたようで、下のメンバーから「落ちたっ!」と笑い声が聞こえていた。

 

 「洞窟滝」を抜け、さらに左岸に岩小屋のある箇所などを確認しながら歩を進めていく。

 そろそろいい時間だし、天場を探さなければ。

 

 そのうち「大ゴルジュ」手前の右岸に、そこそこ広い平坦なスペースを発見。

 薪となる枯木も豊富にあり、Uさんは「いやぁ、こんないい物件、めったにないよ。」と上機嫌。

 さっそく、テントとタープを張り、焚火を熾す。

 Uさんとタケちゃん、そして私は、本日の晩餐に彩りを添えるべく釣りを開始。

  

 ちなみに、私の釣歴はせいぜい磯釣りと釣れないルアー、あとは管理釣場を少々といった程度(^^)v

 タケちゃんは、かつてGWの鹿島槍東尾根に釣竿を持ってきたという伝説を持ちながら、肝心の腕の方は自信なしということで、期待はUさんに集中。

 もっとも本人以外は正直なところ「まぁ、時間とエサの無駄だろうなぁ。」とタカをくくっていた。

 ・・・ところが、しばらくするとUさんが岩魚をゲット!さらにほんの少しの間を置いて立て続けにヒット!

  おおっ!やりますなぁ!

 

 気を取り直して私も再度、自分の毛鉤を水面に垂らしてみるが、一度引っかけたものの途中でバラしてしまい、その後はウンともスンともアタリなし。

 結局、今回は「ブドウ虫」を使ったUさんの一人勝ちとなった。

点火! U氏の釣果 うめーっ!! メーター越えで燃やせっ!

 釣果三尾を塩焼きにし、5人で分け合うが、やはり現地調達の味は格別である。

 持ち寄った酒を飲みながら焚火を囲んで楽しい夕餉となる。

  

 酔ったUさんは、夜が更けるにつれそのまま、焚火の脇で焙られながら昏睡。

 自分がイワナになって塩焼きにされている夢でも見ているのだろうか。(^^;)

 

 

二日目 天候:ほぼ快晴

 出発7:00−大ゴルジュ7:55−大雪渓沢出合10:30−裏赤石沢出合11:40−百間洞と奥赤石沢の二俣12:30〜14:10−百間洞山ノ家16:50

 

 昨夜は途中ポツポツと夜露がタープを叩いたりしたが、風も無く穏やかな一夜。

 山では大抵、夜半に一度目覚めてしまう私だが、心地よい疲労と焚火の温もりで目を覚ました時には起床時間となっていた。

 こんなに深くて快適な睡眠は久しぶりである。

 

 まだ沢の中間部なので、本日もそこそこ長丁場となる予定。

 約7時間の遡行なので4時半起きとしたが、当然のことながら起きる者無し。

 ようやく5時過ぎに一人二人と起き出し、焚火を熾し、朝食の準備となる。

今日も元気だ!朝からファイヤー!

 朝のうちはイマイチ曇りがちであったが、気持ちを奮い起こして出発。

 昨日もチラホラあったが、「赤石」の名の由来となったラジオラリアという赤い岩が目立つ。

 澄んだ緑色の淵を取り巻く赤と白の岩のコントラストは、何となく庭園仕様の巨大露天風呂の中を歩いている感じがしなくもない。

 この辺り「赤岩の淵」と呼ばれて、なかなか美しいポイント。

 緑の木々の向こうに夏空が広がり最高の遡行日和である。

 

 「赤岩の淵」を過ぎると、いよいよ難関「大ゴルジュ」の巻き。

 その手前で、ふいに単独行の人と出会う。

 いやいや赤石沢を一人で行くとは大したもんだ。ここまでの泳ぎや厳しい巻き、洞窟の潜り抜けなど、私にはちょっと無理な感じ。

 昨日、足を少し挫いてしまったとのことで、「ゆっくり行きます。」と言いつつ、その後、しばらく我々と前後して進むことになった。

 ここらが「赤岩の淵」 あちこち「赤い石」だらけ

 沢はそこから右へ大きく屈曲している。

 とりあえず、どれほどのゴルジュかと覗いてみるが、迫力あるいは怖ろしさという点では「大ゴルジュ」というのはちと大げさな感じもする。思ったより明るいし・・。

 それでも、とても正面から取り付く気のしない代物だが、ふと横を見ると「あそこ、行けるんじゃないかなぁ。」とタケちゃんはゴルジュの中のラインを目で追っていた。(オイオイ)

 

 このゴルジュを越えるには、正面に見える枝沢の「シシ骨沢」をトラバースしつつ右岸から大高巻きだったはずだが、またしてもメンバーからは「悪過ぎるのでは?」との声が上がる。

 単独行氏は、そのままセオリーどおり右岸のトラバースに向かっていったが、我々はタケちゃんの勘を頼りにまずは左岸のブッシュ帯へ。

 しかしながら、少し上がるも上部の鋭い岩峰に阻まれ、先行するタケちゃんから「ダメーっ!一旦戻りーっ!」のコールが掛かる。

 

 で、結局はセオリーどおり右岸の巻きとなる。

 時間的には15分ほどのタイム・ロスなのでそれほど影響なし。

 

 右岸の巻きは、よく見れば特に迷う事も無く、踏跡及び赤テープがすぐに見つかる。

 トラバースはそこそこ高度があり、足を滑らせたらちとヤバイが、慎重に行けばそれほどの危険度は無い。

 途中、軽いルート・ミスで垂直近い木登りの箇所で一度ロープを出したりしたが、正規の踏跡を行けばロープは特に必要なし。

 (しかしながらネットで検索したら、四年ほど前ここで死亡事故があり、事故直後の遡行パーティーは遺体の脇を通過して上に進んだとか・・。)

 

 ゴルジュを過ぎると、さすがの赤石沢も多少水量が減り、だいぶ癒し系の様相となってくる。

  

 途中、ちょっとした釜のヘツリがあり、先頭のNさんがビミョーなバランスで突破すると、皆、次々とチャレンジ。

 先に突破した者は後続のメンバーに対してお助け紐を出すどころか「落ちろ」コールを連発。

 で、四人目のUさんまで何とかギリで突破し、最後が私。

 ホールドを十分確認して楽勝のはずだったのに、タケちゃんがデジカメ構えて「動画マワしてますから、あと10秒以内に落ちて・・・。」と言い終わらないうちに、ふいに足を滑らせ、私が釜にドボン!

 その瞬間「ヤッター!」という歓声と爆笑の渦!しっかり「お約束」の笑いを取ってしまった・・・。

 私が落ちた釜(^^;) 青い空と木々の緑、そして赤石。 まだまだ深い釜と小滝が連続

 

 その後、タケちゃんが高圧放水路のようなナメ滝をソロで突破したり、私が上からお助け紐をもらいつつ洞窟滝をもがきながら突破するなど、意味のないパフォーマンスで滝をクリアしていく。

 重荷のHくんやNさんは「ホントよーやるわ!」といった顔で、当然ながらこういう所は後を追ってこない。

  釜にドボン(21.8MB)  洞窟滝でもがく(15.0MB)

 

  さらに上へ進むと、目を洗われるような美しい緑の大釜

 今まで自分が行った沢の中でも、この辺りの釜の美しさは北アの赤木沢、上越のナルミズ沢と並ぶ「五つ星」である。

 そんなこんなで左手の小雪渓沢、大雪渓沢、そして右手の裏明石沢といくつかの支流を確認しながら本流を詰めていく。

 

 やがて百間洞と奥赤石沢の二俣。

 ここで軽く小休止・・・のつもりだったが、魚影がチラリと見えたとかで釣師のUさんは早くも竿の準備に取り掛かっている。

 

 ・・・で、大休止である。

 

 まぁ昨夜は運が良かったんだよな、と皆、ほとんど期待せずにUさんの一挙一投を遠目に眺めていたのだが、・・・ナントそれほど間を置かず、いきなりのヒット!

 「うっそーっ!!」「マジっすかっ!」

 緑の釜はまさに別天地 シャケを食らう熊?

 まだ先があるので、それほど長居はする予定ではなかったが、その一尾を刺身にして皆で一口ずつ賞味すると、U名人はそのまま続投体勢。

 タケちゃんも「こりゃ、しょーがねーなー。」と半ば諦め顔で急遽、焚火を熾し始める。

 結局、小一時間で尺近いのも含めて計四尾を仕留め、昼から天然塩焼きをいただけることになった。

 

 まったり落ち着いてしまったため、午後の後半戦ではすっかり腿の筋肉が硬直し、もうヘロヘロ。

 タケちゃんのパワーは相変わらずだが、重荷を背負ってもペースの落ちないHくんとNさんの若さが羨ましい。

 

 百間洞に入り、水流はだいぶ少なくなり源流の趣になってきたものの、相変わらず小滝が続く。

 稜線までもう近いというのに、最後に15mほどの大滝。

 スッパリと切れ落ちた滝は直登は無理。ここは左岸からの巻きとなる。

 巨岩の積み重なった乱雑な滝が多い赤石沢の中では、この滝が最もスッキリした形をしているかもしれない。

 

 大滝の左岸からの巻きは濡れたスラブでホールドがやや細かく、ちょっとイヤらしいトラバースとなる。

 重荷組のことも考え、タケちゃんが先行してフィックス。

 そこを越えると、もうほとんど源流域となり、周りの高山植物で癒されながら最後の細い流れを詰めていく。

 手強い滝は上流まで続く。 やっと百間洞の小屋が見えました〜。

 水流は切れることなく、そのまま百間洞山ノ家に詰め上がる。

 これにて赤石沢は無事終了。

 ガッチリ握手を交わした後、当然のことながらビールのロング缶を購入し、乾杯の儀となる。

 

三日目 天候:ガス後晴れ

百間洞山ノ家6:15−赤石岳8:30−赤石小屋10:00−椹島12:00

 

 本日は、下山日。

 赤石沢を離れ、そしてこれから聖、光岳と縦走を続けるUさんら三人とも別れ、タケちゃんと二人で赤石岳経由で椹島へ。

 コース・ガイドでは下山の所要時間は約8時間。最終のバスが午後2時発ということで、朝6時に出発してギリということになる。

 まぁ、歳はとってもまだまだコース・タイムより遅くなることはない・・・はずだが。

 それでも途中何があるかわからないし、明日仕事を控え今日中に下山したい私には制限時間の厳しいフル・マラソンに挑む心境である。

 

 百間洞は大学一年の夏合宿以来だから、かれこれ30年振り。

 それでも段々畑のように整地された小屋指定の天場には見覚えがあり、とても懐かしかった。

 昨日の単独行氏と再び会い、挨拶を交わした後、先を急ぐ。

 

 百間洞から百間平の登りは、あいにくのガスの中。まぁカンカン照りよりは助かるが、ちょっと残念である。

 何とか付いていこうとするが、健脚のタケちゃんの後をぴったり付いていくことができない。

 こちらが腿に乳酸溜まりまくりでフーフー言っているところを、彼はいつもと変わらず軽快なペースでどんどん上がっていく。

 稜線からのパノラマ

 途中でほんの少しガスが切れ、聖岳方面の山並と雪が残る大雪渓沢が見えたりしたが、その後、再び稜線上はガス。

 風が吹くとゴアのジャケットを着ないと寒いくらいで、下界のうんざりするような暑さがウソのようである。

 

 赤石岳避難小屋はお盆の時期だけ、素朴な感じのオネーサンが常駐していた。

 夏季限定だが、「缶ビールが冷えていて、食事も出せる避難小屋」というのは珍しい。

 いつか泊まってみたいものだが、とりあえず目下の課題は今日の下山。

 小休止がてらちょこっと挨拶し、そのまま赤石岳に足を運ぶ。

 

 残念ながら、頂上からの展望は皆無。

 居合わせたおじさんにとりあえず写真を一枚だけ撮ってもらった。

 山頂には立派な道標が立っていたが、たしか30年前はこんな立派じゃなかったような・・。

 それにしても赤石岳って3,120mもあったとは思わなかった。どおりで沢も深いはずである。

 

 その後は、多少の登りはあるものの下りがメイン。

 椹島から赤石岳を目指す登山者と擦れ違いながら高度を下げていく。

 

 10時に赤石小屋に着いたところで残り所要時間3時間半。バスの発車時間まで30分ほど「貯金」が出来たので、ここでほんの少し安心する。

 

 その後もヒザをガクガク言わせながら急傾斜の樹林帯を極力飛ばす。

 何とか頑張ったおかげで、百間洞から赤石岳経由、椹島までコース・タイム約8時間のところ、5時間45分ほどで到着。

 これだと最終バスの一つ前の便にも楽々間に合い、拍子抜けしてしまった。

 まぁ、タケちゃん一人だったら4時間半は楽に切っていただろう。

 後はガンガン下るだけ。 無事下山

 帰りのバスではやはり赤石沢を遡行したオヤジ三人組と同乗する。

 彼らは沢中二泊し、我々よりほんの少し早い時間に降りてきたとのこと。

 

 車を乗り換え、帰りは畑薙ダム先の「口坂本(くちさかもと)温泉」で汗を流す。

 ちょいとヌルめで、シャンプーが無かったり、営業が16時15分までとやたら早かったりと難点はあるが、280円という低料金は今時希少!

 その後、静岡市外までの長い下道を経由し、ようやく帰ってきた。

 タケちゃん、どーもお疲れでした!

 

P.S.赤石沢は水量の減った現在では、さすがに「沢の王者」と呼ぶのは憚れるが、それでも南ア南部という奥深い山域であることから人手やゴミに汚されていない野趣溢れる美渓であることは間違いない。

 「滝直登」系というよりは「泳ぎ、へつり、高巻き」系で、上級レベルとまではいかないが、泳ぎの苦手な者にとってはけっこう厳しいかも。ロープは30m一本あるといいでしょう。

 沢全体の特徴を簡単にいうと、下流部=深い大釜、中流部=巨岩滝、上流部=赤岩の庭園といった感じか。

 そして赤石沢の楽しみは何といっても岩魚と焚火。これに尽きるでしょう。(Uさん、そしてHくんとNさん、楽しいひとときをありがとう!)  


 山行記録 

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