わたしの趣味はトライアスロンですと言うと、「女性の距離は男性と違うのですか」とよく聞かれます。実は男性も女性もまったく同じ距離、同じコースを同時スタートで競技するのです。そればかりか、高齢者やいわゆる障害者でもそれは同じなのです。
(1998 Ironman Hawaii) |
わたしは大阪の専門学校でスポーツ心理学を教えています。生徒はトレーナーやコーチを目指す10代の若者が大半です。授業にはビデオも使いますが、ハワイで行われているアイアンマン世界選手権(1995年)のビデオを見せたときのことです。生徒ははじめ、トライアスロンなんて苦しいだけの根性スポーツだと思っていたようです。ところが視聴後に感想文を書いてもらうと、多くの生徒が「勇気とやる気をもらった」「涙が出そうになった」「ふるえがきた」などと書いているのです。
ビデオではプロ選手たちのトップ争いだけでなく、さまざまな選手の挑戦が紹介されます。
ジョンは車椅子の選手です。交通事故で下半身麻痺になりましたが、「自分の姿を見て、障害者の子供たちに希望を持ってほしい」と考え、トライアスロンを始めました。3.9kmのスイムは腕のかきだけで泳ぎ、ゴールするとボランティアに水から抱え上げられてハンドサイクルという手こぎ自転車に乗ります。180.2kmを走りきると今度はレース用の車椅子に乗りフルマラソンにスタートしていきます。コースは海岸に沿っていてうねるような起伏が続き、車椅子だと下りは楽でも、上りでは時に後ろ向きに進まなければ体重と車椅子の重さを支えられないのです。しかし彼はとうとうゴールラインをその前輪で越え、世界で初めての車椅子のアイアンマンになったのです。
78歳でアイアンマンに挑戦したジム。プロフットボール選手を引退し300パウンド(134kg)の巨体で完走を果たしたダリル。そして女子トップを走りながらゴールまで残り数百メートルというところで脱水のため倒れたポーラは、優勝を逃したにもかかわらず20分かけて立ち上がり、ついに歩いてゴールにたどり着きました。
生徒の感想文には「スポーツは誰もが参加でき、誰でも楽しめ、人を感動させ勇気づけるすばらしいものだと思う」「それぞれ自分の目標に向かっていることを尊敬した」と書かれているものもありました。
ハワイ・アイアンマン・レースには、プロの部門、年代別部門の他に、車椅子の部門、片腕または片脚がない人や盲目の人の部門などがあります。日本でいう「障害者」はハワイでは「Physically Challenged People(肉体的挑戦者)」と呼ばれ、高齢の選手とともにレース中とくに大きな声援を受けます。
日本では障害者や60歳以上の参加者を認める大会はほとんどありません。彼らにトライアスロンは無理だというのでしょうか。ハワイには日本から50代、60代の選手が何人も参加しています。そこには、日本では決して実現できない夢を叶える舞台が整っているのです。
1998年長野オリンピックの後で開催されたパラリンピックは、日本選手の大活躍によって大きな注目を受けました。そのためか、最近では各地のマラソンレースで盲人ランナーの伴走を希望するボランティアの数が増えてきているそうです。ほんの少しのルールや機材の工夫と、人への思いやりがあれば、きっとスポーツは誰でもが自己の目標に挑戦し、楽しみ、そして人に感動を与えるシーンになるはずです。バリア・フリー社会の実現にも大きな役割を果たすことでしょう。
トライアスロンやマラソンは、たしかに簡単にできるスポーツではありません。でも、どんなスポーツでも、目標を持って自分の毎日を大切に生きるすばらしさを教えてくれると思います。あなたも、ごいっしょにいかがですか。