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人体最大の免疫装置〜腸
食道、胃、小腸、大腸などをひっくるめて消化管といいます。この頃、消化管は単に食物を消化吸収するだけでなく高次な機能を持つことが知られるようになりました。なかでも、長さや機能の点で重要な腸は、「人体最大の免疫装置」あるいは「第2の脳」などの異名を与えられています。

通すも通さないも腸次第。腸管免疫系と食物アレルギー


 消化管は、病原菌などが体に最も侵入しやすい口につながっています。そのため、消化管にはからだを感染や食中毒などからまもる免疫系のしくみが備わっています。これを「腸管免疫」といいます。

腸管免疫の中枢はパイエル板という独特のリンパ節です。腸管の粘膜の下には粘膜固有層とよばれる部分があり、多数の免疫細胞が存在しています。とくにリンパ球の一種であるB細胞の場合、総数の約70〜80%が消化管に存在しているといわれ、ここでIgAという抗体を産生します。IgAは粘液中に分泌される独特の免疫タンパク質で、食物と一緒に侵入してくる病原菌などをその場で攻撃する「局所免疫」を担っています。

口から体内に入ってくるもののうち、病原菌などの異物は排除されるのに、わたしたちが食べるさまざまな食物は消化吸収されます。不思議ですね。詳しいメカニズムは省きますが、食物に対して免疫系を抑制し、無用の攻撃をしかけないようにコントロールするのも腸管の重要なはたらきです。このコントロールがうまくはたらかないと、食物アレルギーが起こります。食物アレルギーが子どもの時に発症しやすいのは、腸管免疫系が十分に発達していないからだといわれています。

 ちなみに、牛乳を飲んでお腹がごろごろする「乳糖不耐症」はアレルギーではありません。牛乳に含まれる乳糖を分解する酵素のはたらきが弱い人の腸の中には、消化・吸収されない乳糖が残ります。浸透現象(濃度の薄い方から濃い方に向かって水分が移動すること)によって腸の中に水分が入ってくると腸内が水びたしになり、ごろごろしてやがて下痢になってしまうのです。


腸内細菌と免疫系


腸内細菌は、人の正常な免疫系の確立に対して重要な働きを担っています。

 消化管の粘膜は100兆個以上の腸内細菌にびっしりと覆われ、腸内細菌叢(フローラ)とよばれます。これらの腸内細菌が免疫系を刺激し、活性化していると考えられています。

 大腸にたまった食物のかすを腸内細菌が分解すると、さまざまな物質が作り出されます。これらは抗原として免疫系を刺激し、多種類のIgAが産生されて、感染防御にはたらきます。しかも消化管だけでなく、涙や乳汁、生殖器粘膜など体中の粘膜は互いに呼応して同じIgAを作るので、腸内細菌による免疫系の活性化が全身的にも効果を現すのだそうです。

 少し難しい話になりましたが、考えてみると体調を崩したときというのはお腹の調子が悪くなり、逆にお腹の調子がよいと全身の体調もよいと感じるものではないでしょうか。その背景に、免疫のはたらきも関わっていると言えそうです。

  


  酸をつくって悪玉菌や病原菌を退治する乳酸菌


 乳酸菌の一種であるビフィズス菌は、腸内で酢酸や乳酸を作り出します。これらの酸は腸を刺激して蠕動運動を促進し、整腸作用をもたらすばかりでなく、酸に弱い各種の悪玉菌や病原菌の繁殖を阻止するはたらきもあります。乳酸菌が優性の腸内環境バランスは、お通じにとっても体の抵抗性にとっても重要だといえます。

 最近では、北海道大学の研究グループは、乳酸菌が、細菌や腸管細胞にとって毒性が強い胆汁酸を菌体内に取り込み、蓄積する性質を持つことを発表しました。善玉菌は私たちの健康を守ってくれているのですね。

腸内環境チェック項目  こんな症状、生活習慣に心当たりはありませんか?

a.疲れや体調の不良がすぐにお腹に来る

b.食事が不規則(朝食抜き、野菜嫌い、肉が好き、外食が多い、ダイエット中など)

c.便秘や下痢気味

d.年齢とともに抵抗力が落ちてきたと感じる

e.ストレスがたまっている

f.風邪などで抗生物質を飲んだり、ふだんから薬を飲んでいる

 栄養(とくにタンパク質)や摂取カロリーが著しく欠乏したり、逆に肥満や糖尿病など過剰栄養になると、免疫機能の低下が起こり、感染症にかかりやすいことが知られています。免疫機能を高めるには、多種類の食品をバランスよく腹八分目で食べることが大切です。乳酸菌を含むヨーグルト、乳酸菌の餌となり腸内環境を整える食物繊維を含む食品は毎日食卓にのせたいものです。

また心身の過度の疲労は免疫機能を低下させますが、適度に運動をすると免疫機能はアップします。加齢やストレスで抵抗力が落ちている場合、栄養、休養、運動の3つが元気のための処方箋と言えるでしょう。

腸内細菌ミニクイズ 


第一問 人間の消化管(口から肛門までの管)の長さは、10メートルもあります。では表面積はどれくらいあるでしょう?

  a)テニスコート1面分 b)野球場と同じくらい c)新聞紙と同じくらい





















い。

答 a)消化管、とくに腸管の表面にはたくさんのひだがあって、表面積を大きくしています。そのため消化吸収効率がよくなり、また腸内細菌がすみやすくなります。



第2問 消化管内に生息する腸内細菌の種類は約300種類、約100兆個といわれます。さてその総重量はどれくらい?

   a)約10g b)約100g c)約1kg  





















い。

 

答 c) 



第3問 ウンチの中には腸内細菌がたくさん含まれています。さてウンチの体積に占める腸内細菌の割合は?

   a)約10分の1 b)約3分の1 c)約3分の2 





















い。

 

答 b) 糞便中の3分の1から2分の 1が腸内細菌です。食物のかすだけじゃないのですね!

 
 

  人の生活と腸内細菌


 生れたばかりの赤ちゃんの腸内に、腸内細菌はほとんどいませんが、生後急速に各種の細菌類がウンチの中にも含まれるようになり、4,5日するとビフィズス菌、大腸菌、腸球菌、乳酸棒菌、ブドウ球菌など善玉菌のバランスのとれたフローラができあがります。

 腸内細菌のバランスには個人差がありますが、その人にとってのバランスは健康である限り一生のあいだほとんど変わらないといわれています。とはいえ、腸内細菌の数と種類は、年齢や体調によって徐々に変化し、とくに抗生物質の服用時や、食中毒等の際には細菌フローラのバランスは極端にくずれ、下痢や便秘をおこしたりします。老化にともなう変化としては、ビフィズス菌の比率が下がってくるのが特徴で、その結果、免疫力も弱まります。

 食生活の変化と生活習慣病



 食生活の欧米化が、生活習慣病の増加を招いています。たとえば、かつてはがんと言えば胃がんをさすほど日本では胃がんが多かったのですが、最近では米国と同様に大腸がんの発生が著しく増えていて、その背景には食物繊維の摂取量の減少があるといわれます。ハワイに住む日系人には、日本に住む日本人より大腸がんが多いそうで、食事と大腸がんとの深い関係を裏づけています。

 日本人の食物繊維摂取量は、終戦直後は約27g/日でしたが、経済成長とともに急減し、1990年代には17g前後にまで減りました。和食は脂肪分が少ない点ばかり注目されますが、忘れてならないのは食物繊維の効果です。

 食物繊維は近年、第六の栄養素として着目されています。最もよく知られたはたらきは整腸作用で、食物繊維は腸の中で水分を吸収して膨らみ、便のカサを増すことによってスムーズに便意をもよおします。食物繊維が少なく、脂肪分の多い食事は、便が腸の中に滞まる時間を長くし、発がんにつながる有害物質が増加すると考えられています。また食物繊維はビフィズス菌のえさになるので、善玉腸内細菌の優勢な腸内環境作りに役立ちます。

 病気の予防との関連で注目したいのは、栄養の吸収をある程度抑える作用です。現代の私たちの食生活はどちらかといえば栄養が過剰になっており、生活習慣病の一因となっています。食物繊維は食後の血糖値の急激な上昇をおさえて肥満や糖尿病予防に良い効果をもたらし、ナトリウムの吸収を阻害することによって血圧の上昇を抑えます。

 和食の食材、たとえば大豆には、食物繊維がたっぷり含まれ、そのうえ血液中のコレステロールを下げる効果のあるタンパク質も含んでいます。といっても、今日から食事をすべて和食にするのはちょっと大変。腸内環境を整える和洋の食材を上手に取り入れて、食生活の改善をはかりたいものですね。


大活躍の善玉腸内細菌


  善玉腸内細菌といえば、だれもが真っ先にあげるのが「乳酸菌」でしょう。乳酸菌は乳などに作用して乳菌を作る菌の総称で、種類もはたらきも多種多様です。ビフィズス菌はヨーグルトの中で生息している乳酸菌です。

 近年、乳酸菌はガンとの関連で注目されています。とくにエンテロコッカスという丸形の乳酸菌のはたらきについては、研究が進むに従ってその免疫との関わりが脚光を浴びはじめてきました。エンテロコッカスは小腸下部と結腸上部(盲腸、上行結腸)に圧倒的に多く存在します。とくに免疫力を高める力が強いのがエンテロコッカス・フェリカス菌で、それは腫瘍を壊死させる因子(TNF)を多量に生産し、感染症に対する抵抗力も強めることや、高脂血症患者の症状も改善することが明らかになっています。こうしたはたらきは、生きた菌でも死んだ菌でも同程度に効果があり、ヨーグルトなどの食品から摂取しても有効です。

 乳酸菌の他にも、腸内にはさまざまな腸内細菌がすんでいて、健康に関与しています。そのはたらきをまとめてみると次のようになります。

1.ホルモンやビタミンの産生をサポート

ステロイドホルモンやビタミンB1、B2、B6、 B12、葉酸、ビオチン、ビタミンKなど健康に欠かせない物質の生成をサポートします。

2.免疫系の活性化

腸内細菌が免疫系を活性化し、病気や食中毒などに対する抵抗力をアップ。また善玉腸内細菌が消化管壁面を覆うことにより、侵入してきた病原菌や有害菌の増殖を防ぎます。

3.腸内 pHの調整と整腸作用

腸内細菌がつくる酸によって腸内のpH値を弱酸性に保ち、病原菌の増殖を防ぎます。腸を刺激して蠕動運動を活発化させ、消化酵素では消化できない繊維質を分解したり、タンパク質や糖質を分解して消化を助けます。

4.脂質代謝の活性化

摂取したコレステロールや中性脂肪などの脂質の消化・吸収をコントロールしたり、余分な脂質の排泄を促進します。

5.有害物質や発癌物質の分解・排泄

腸内細菌の中には、有害物質や発癌物質を分解し、排出を助けているものがあります。