勇者、その聖なる存在 ~運命と贖罪の狭間で~

制作者:KrK (Knuth for Kludge)

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馬頭ちーめい著『勇者異説』改稿

序章 勇者の定義

勇者、それは悪を倒し弱きを救う、勇気ある聖なる者である。

第1章 勇者の社会的役割

勇者について語られる数々の逸話は世論が創り出した伝説上での話であり、事実は大きく異なっている。

彼の社会的身分は住所不定無職のアウトローな流れ者である。そして彼は主に野に生息する動物・怪物のたぐいから巻き上げる金品で生活を保っている。そう、勇者の生活とは1匹殺ってなんぼのヤクザな世界なのである。そしてその収入は獲物の質と量により不安定で、時にはまったく収入の無い日もある。そんな時は馬小屋に泊まる事すらできない。ゴロツキに向けられる世間の風は冷たいのである。

しかし勇者は権力者と密接な関係を持つ者が多く、その関係は御禁制のブツの輸入、盗賊に奪われた隠し財産の強奪などという闇の活動で結ばれている。しかし勇者を非難・弾圧できるものはいない。なぜなら彼は権力と「聖なる使命」によりその身分が保証されているからである。

こうして権力と武力を手にした勇者の中には一般民家から金品を巻き上げるという暴挙に出る者もいるが、彼に抵抗できる者はいない。彼にはむかう者はみな悪の力に操られし者として闇に葬られるからである。

以上が勇者の主な収入方法であるが、彼の手にする金・品物などはすべて汚れたモノだと言って良いだろう。

第2章 勇者の世俗的役割

勇者は大いなる闇の抹消という使命のために辛く長い旅を続ける。それは1枚ツカうだけで浮き世のウサもふっとぶ「ヤクソウ」なる植物や、悪魔との契約により使用可能となる「マホウ」なる怪しげな術、力を誇示する事でしか自分の存在価値を見い出せない「パーティー」などに支えられている。

こうした辛い旅に耐えられる者は少ない。何故なら勇者という身分は彼自身がその力で確立させたものではなく、生まれ持った「血」という幻想により世間が創り出したものであり、勇者が必ずしも実力者とは限らないからである。そしてある者は転職すらできない勇者という身分に追われ逃亡し、ある者は自ら他の力「財力」を勝ち取ろうと賭博で身をもち崩して行く中で、わずかな者が身体も精神もをむしばまれながらなし崩し的にその崇高なる使命に向かって進んで行く。

こうしてついに闇を討ち光を取り戻した者こそが真の勇者として認められるのである。

第3章 勇者の宗教的役割

勇者とは世間が勇者と認めるからこそ勇者であり、逆に世間に認められなければ、どんなに崇高で強靱な意志を持っていても勇者とはなりえず、誰も支持をしてはくれない。当然その旅は辛く厳しいものになり、そんな中で勇者を敵対視する者が現れるのも不思議ではない。これが「闇の力」の正体である。つまり勇者の存在そのものが悪を創り出しているのである。

では何故世間は勇者という存在をわざわざ創り上げてきたのであろう?それは荒廃した世界において勇者が唯一の希望であり、それが世間にどう影響しようが関係ないからである。つまり勇者とは夢と希望を与える存在であり、あくまで信仰上の偶像なのである。

事実かくも辛い試練を切りぬけた勇者に待っているものは金銀財宝でも酒池肉林でもない。彼に与えられるものはハラの足しにもならない勇者の「称号」、そして体力バカにはまともに務まる訳もなく、ただ身分を高める為とその人物像を隠す為だけに工策された指導者としての「地位」だけなのである。

こうして多くの社会的矛盾を含みながら、人々は勇者と言う虚像を創りあげていく。

そして伝説へ…


最終更新:2021/11/21

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