02.5.16 最終弁論 国の責任

国の責任について


1 総論
 我々は、被告国の責任に関し、薬事法上の注意義務違反、予防接種実施者としての注意義務違反を多岐にわたって主張しているが、我々が、ここで一番に言いたいのは、なぜ、被告国が、89年秋、MMRワクチンの副作用情報が明らかになった段階で、MMRワクチンの予防接種を一時見合わせ、その安全性について調査しなかったかという点である。
  以下、主としてこの点について、我々の意見を述べることとする。

2 ワクチンの欠陥性
  第1に、我が国において使用されていたMMRワクチンが果たして欠陥ワクチンであったかが問題となるが、被告阪大微研が製造方法を無断で変更していた点はさておき、@MMRワクチンによる予防接種健康被害認定者数は、他の予防接種と比較して圧倒的に多く、わずか4年間で合計1,050名以上に及んでいること(因みに、麻疹では、昭和50年から63年までの間、計51名、風しんでは、昭和52年から63年までの間、計3名しか存しなかった)、A89年9月17日開催の日本小児科学会群馬地方会議において、217人に1人の割合で無菌性髄膜炎が発症している旨報告されていること、B自社株導入後の全国モニタリング追跡調査によっても、91年10月から93年4月まで635人に1人の割合で無菌性髄膜炎が発症していること、Cこれら無菌性髄膜炎の中には、自然感染による無菌性髄膜炎ではさほど認められないけいれんも多発しており、脳炎、脳症など脳の実質に関わる脳中枢神経症状を疑うべき症状が認められること等に鑑みれば、同ワクチンが安全性を欠いた欠陥ワクチンであったことは明らかであり、わずか4年間で事実上接種中止になったのもそのためであるといって良いでしょう。

3 ワクチンの安全性に疑問が生じた時期
  次に本件MMRワクチンの安全性について疑問が生じた時期についてであるが、我々の主張する時期は、89年秋であり、被告国は、この時点で、本件MMRワクチンの予防接種を一時見合わせるべきであった旨主張するものである。その根拠としては、@前述したように89年9月には、看過できない前橋における副作用情報が発表されており、その副作用の発症率が当初考えられていたよりも著しく高い頻度であったこと、A占部株を含むMMRワクチンが、87年11月、カナダオンタリオ州において、自主的に使用が中止され、翌年7月には、在庫商品を回収する措置がとられていることに鑑みれば、被告国は、この時期において、少なくとも本件MMRワクチンの安全性に疑問を持ち得たものである。

4 被告国が、89年秋の時点でMMRワクチン予防接種を一時見合わせなかったことについて
  にも関わらず、被告国は、安易にMMRワクチンの予防接種を継続したものであるが、この点に関し、被告国は、前橋の副作用情報、すなわち前述の群馬地方会議においてMMRワクチンの副作用として発表された無菌性髄膜炎が、かならずしもワクチン由来のものであることが明らかでなかったこと、換言すれば、MMRワクチンの有用性を否定できなかったこと、及びおたふくかぜの蔓延を予防する必要性が高かったこと等から、一時見合わせ等の措置をとらなかったとし、そのことについて何らの落ち度もないとしている。
  しかし、我々は、89年秋の時点で被告国の最終的判断としてMMRを中止すべきであったと主張しているわけではない。我々は、この時点でワクチンの安全性に疑問があることが明らかになったのであるから、せめて、いったん接種を見合わせ、その安全性を調査すべきであったと主張しているものである。被告国は、本件ワクチンの使用者として、単に本件ワクチンの使用を中断すれば、本件被害は免れることができたのである(因みに、89年7月には、PCR法が、ワクチンの同定に利用できるようになったのであるから、直ちに当該無菌性髄膜炎がワクチン由来のものであるのか、自然株由来のものであるかを調査することが可能であったことを付言しておきたい)。
  また、この一時見合わせ措置に関連して、薬事法第69条の2は、医薬品による保健衛生上の危害の発生又は拡大を防止する必要があると認めるときは、当該医薬品の製造業者に対して当該医薬品の販売又は授受を一時中止すること等の権限を厚生大臣に付与している。厚生大臣のかかる権限を行使は、当該医薬品の学問的評価が最終的に確定するまでの間、販売の一時停止等のいわば現状凍結をはかるものであり、89年秋の時点で、厚生大臣がかかる権限を行使することは当然可能であったとも言えますが、被告国が、予防接種実施者として、すなわちMMRワクチンの使用者として、単に、本件ワクチンの使用を一時見合わせるという措置だけで本件被害の発生は防止できた。しかも、かかる一時見合わせの措置は、緊急命令とは違い、メーカーに与える影響が、存在しないことからより容易に決断できたはずである。

5 代替措置の存在
  また、MMRワクチンは、従来の予防接種被害訴訟と大いに異なる点が存する。
  それは、MMRワクチンの予防接種を一時見合わせたとしても、法定接種の対象となっている麻疹、風しんはもちろん、おたふく風邪も含め3種疾病について、単味ワクチンが存在したということである。被告国は、MMRワクチンの利便性として、一度の接種で3種の疾病を予防することができ、経済的に安価であり、且つ、子供に負担をかけないことを上げているが、安全性に疑問が生じたワクチンを使用することは、予防接種の目的からみて、本末転倒も甚だしいと言えましょう。

6 結論
  以上のことから、被告国は、89年秋の時点で、予防接種実施者として、MMRワクチンの予防接種を見合わせる注意義務を負担し、これに違反したことが明らかである。