■薬害エイズに酷似の構図 被害者を足蹴にする＂認定却下＂ 薬被連 編『薬害が消される』00.10 さいろ社 刊
MMR被害児を救援する会事務局長 勢馬 彰
予防接種は、予防接種法を楯に国や自治体により強く勧奨され、多くの自治体では無料で接種を受けられる。病気の子どもにではなく、少なくとも接種当日は健康な子どもに接種されるものだ。
かかりつけの小児科医や周りのおとな、多くの育児雑誌などは、予防接種を早く受けさせるよう母親をせきたてる。予防接種を受けずにその病気に罹らせようものなら、母親失格の烙印すら押されかねない。
１回の接種で麻しん（はしか、Ｍ）、おたふくかぜ（Ｍ）、風しん（Ｒ）を予防できるとして、１９８９年から93年までの４年間に、約１８０万人の子どもにＭＭＲワクチンが接種された。このワクチンは、導入前には理想的なワクチンと宣伝され、89年３月頃には、麻しんワクチンの接種をせずに、ＭＭＲワクチンの接種開始を待つほどだった。
このワクチン接種によって、厚生省の公表でも１８００人が無菌性髄膜炎の被害に遭い、より重大な被害として、死亡５人、重度脳障害、難聴などが発生している。
93年12月24日、国とワクチンメーカー阪大微研（大阪大学医学部構内にある財団法人・阪大微生物病研究会）を被告として大阪地方裁判所に提訴した３件の事故（現在係争中）でも、乳幼児である被害児はもちろんその親は、予防接種を受けたときも、事故が起こったときでさえ、現在の事態を予想すらしなかった。子どもを亡くし、あるいは重度の障害を負わされた親は今も「なぜ、こんなことになってしまったのか」という疑問、後悔を背負っている。
今では、阪大微研が十分な臨床試験を行わなかったこと、また三種のうちの一つであるおたふくかぜワクチン（占部株）の単独の接種実績から副作用が十分予想できたこと、検定でワクチンの培養方法を無断で変更した原液を提出するなど薬事法の規定すら守らなかったこと、さらに国が安全性の確認をせずにＭＭＲワクチンの製造承認を与えたこと、などが明らかになっている。
隠された副作用情報
ＭＭＲワクチン導入直後、前橋市医師会の調査などで、重篤な副作用情報が次々と明らかになった。しかし、ＭＭＲワクチンの危険性は人々に知らされなかった。遅くとも89年９月時点で国やワクチンメーカーが副作用情報を開示し、ＭＭＲワクチンの製造承認取消、販売中止、回収、接種中止の措置を採っていれば、89年10月以降に接種を受けたこの３件を含む多くの事故を防ぐことが可能だった。
接種する医師にも、ＭＭＲワクチン接種による副作用と禁忌の重要性については知らされなかった。予防接種の勉強をしている医師は意外に少なく、国やワクチンメーカーからの情報を無批判に信じてしまった。もともと、医師と患者との関係が対等になっていないこの国の現状では、親に医師の考えが押し付けられたことも考えられる。
大量にＭＭＲワクチンを購入してしまった医療機関が、在庫処理のため、親が麻しん単独ワクチンの接種を希望したのに、医師の独断でＭＭＲワクチンを接種されたという疑惑すらある。
救済されない救済制度
万一事故が起これば、予防接種を実施した市町村が責任を取ってくれる……多くの人はそう思うのではないだろうか。「運悪く」予防接種事故にあったとき、接種した医師、接種を勧めた役所が、責任ある対応をするものと思うのが当然だ。しかし、こと予防接種については、「お気の毒に」という他人事のようなお見舞いの言葉はあっても、誰も誠意を持って対応しない。医師は「市町村に委託されて接種している」、市町村は「国の事務をしているだけ」、国は「窓口は市町村」、都道府県は「市町村と国のパイプ役」と答える。役所の担当者は次々変わり、提訴後は対応が一層よそよそしくなってゆく。
事故が起こり、親が被害児への対応に追われている最中に予防接種健康被害救済制度の説明を受け、書類を揃える。長い間（２年以上になる場合もある）待たされたあげく、被害児の死亡と予防接種との因果関係はないとされ、結局何の補償もなし。決定通知は市町村長名で来るが、これは市町村長ではなく厚生大臣が決めたものだと聞かされる。
親とすれば、とても納得できない。納得できなければ、次に取れる手段は都道府県知事への審査請求だが、原決定がそもそも厚生大臣の意向で決められているため、審査請求が認められることは例外的でしかない。
もう１つの方法は訴訟。これには、費用も時間もかかる。請け負ってくれる弁護士がいるかどうかも大問題となる。
自作自演の認定却下
いろいろ調べたり交渉したりするうち、接種した医師や治療した医師は、どうやら予防接種をしっかりと勉強した人ばかりではないということがわかってきた。また、国や市役所の役人が、保身のために被害を認めたくないのもある程度想像がつく。
しかし被害者にとって最も許せないのは、被害の認定段階での「専門家」の２つの関門、からくりだった。
１つ目は市町村の予防接種健康被害調査委員会。地域の医師会の代表者の他、専門家としてワクチン学者が入っている。関西地域では、阪大微研や大阪大学医学部の関係者が委員になっている。つまり、ＭＭＲワクチンの製造にかかわった人間が、自分の作ったワクチンが不良品かどうかを判定する仕組みだ。
次に、厚生大臣が健康被害認定の意見を聞く、実質的に認定の権限を持っている公衆衛生審議会。ここは接種を推進したワクチン学者の集まりと言ってよい。
普通に考えて、加害の当事者がそれによる被害をできるだけ認めたくないことは想像できる。この国では、予防接種の危険性を指摘する少数の医師を除けば、ワクチンの「専門家」と言われる人は国やワクチンメーカーとつながりのある人ばかりなのだ。
被害者の親を足蹴にする、国と阪大微研
これら被害者の当然の「期待」が次々と裏切られ、絶望の淵に落とされたとき、このままでは被害児もその親もあまりにも惨めすぎる、まともな予防接種行政にさせなければ同じ被害が繰り返される、との決意の結果、最後の手段としてMMR大阪訴訟が起こされた。
幸い、理解ある熱心な弁護士を得ることができた。訴訟は、予防接種健康被害救済制度で認められなかった死亡事故と予防接種との因果関係を認めさせ、すべての死亡障害事故の責任を取らせることが目的だった。しかし被告の国と阪大微研は、３件すべてについて、責任以前に、死亡障害と予防接種との因果関係を否定している。予防接種健康被害救済制度上は、無菌性髄膜炎の医療費、死亡一時金等、または障害児養育年金等を支給しながら、訴訟では、死亡障害はＭＭＲワクチンによるものではなく、因果関係がないものに責任があるわけがないという態度をとっている。
国・阪大微研は、死亡障害の原因をＭＭＲワクチンではないと裁判で主張するために、被害児の体質や親の介護の責任を持ち出している。親は、ただでさえ子どもにこのワクチンを受けさせてしまったことに責任を感じ、後悔しているのに、親が自分の病気を子どもに感染させた、介護が不十分だったと主張し、再び被害児の親を足蹴にする。予防接種健康被害救済制度やこれまでの予防接種裁判の蓄積をまったく無視しようとする態度だ。
現在、個々の事件の因果関係についての証拠調べが終わった。原告は欠陥ワクチンの製造承認取消・販売中止・回収といった処置をしなかった国・阪大微研の責任を追及する局面に入ろうとしている。同じ構図で繰り返されている薬害と予防接種行政そのものを追及することになる。
ＭＭＲワクチンの被害者で訴訟を起こしているのは今のところ３家族だけだ。このワクチンの接種は93年から中止されているので、多くの市民にも忘れられようとしている。しかし、80年代後半の全国的な住民運動によってようやく94年に予防接種法の対象から除外されたインフルエンザ予防接種が、対象者を高齢者に移して再開されようとしているように、被害が忘れられたころＭＭＲワクチンの接種が再開されないとは言い切れない。実際、国やワクチンメーカーはこのワクチンの欠陥を認めたわけではなく、「当面接種見合わせ」になっているだけで、新ＭＭＲワクチンの開発（外国製のMMR輸入のための臨床試験）が進んでいる。
国民自身が、予防接種の知識をしっかりと身につけ、国とワクチンメーカーの癒着によって作り上げられた欠陥ワクチンを見抜き、副作用情報を開示させ、医師に副作用の説明を求められる関係を作っていくこと。それが予防接種による被害者たちの目標だ。
＊ 参考文献
由上修三「3種混合ワクチンは欠陥商品でありただちに接種を中止すべきである」 毎日ライフ 1990.5
斎藤貴男「新・三種混合ワクチンは安全か」 月刊 文藝春秋 1992年7月号
「MMRはなぜ『中断』されたのか」 ちいさい・おおきい・よわい・つよい
No.1 1993
「ワクチンの作られ方・打たれ方」 ちいさい・おおきい・よわい・つよいブックレット9 1996.8ジャパンマシニスト社
栗原 敦 「MMR予防接種は『人体実験』だった」 隔月刊 トリートメント Vol.34
1996.5 さいろ社
「ワクチン禍にも潜む厚生省の犯罪体質」 Ronza Vol.2 No.7 1996.7 朝日新聞社