02.10.31 第1審弁論再開申立

02.11.1報道 asahi.comと朝日新聞夕刊 読売新聞 KTV(関西テレビ) MBS(毎日放送)


平成5年(ワ)第12535号 損害賠償請求事件
平成8年(ワ)第4262号  損害賠償請求事件
原 告  ● ● ● ●  外3名
原 告  上 野   花  外2名
被 告     国     外1名  


弁論再開申立書

 標記請求事件につき、原告らは、下記の理由により,民事訴訟法第153条に基づき,口頭弁論の再開を申し立てる。

平成14年10月31日


大阪地方裁判所第23民事部 合議係 御中


   上記原告ら訴訟代理人 弁護士   石  川  寛  俊
                     同    井  尻     潔
                     同    金  子  利  夫
                     同    阪  口     誠
                     同    重  村  達  郎
                     同    竹  岡  富美男
                     同    武  田     純
                     同    吉  村  信  幸


申立の理由

 先頃更新された衆議院厚生労働省のホームページによれば、国政調査権の行使に基づき、提出者阿部知子議員にかかる「MMRワクチン接種による被害発生の原因究明に関する質問主意書」(以下、「質問主意書」という)とそれに対する政府答弁書(以下、「答弁書」という)において、本裁判の弁論終結時には明らかにされていなかった以下の重要な各事実が明らかにされている。
@ 89年(平成元年)10月25日の段階でも、被告国−厚生省(当時、以下同じ)は、MMRワクチン接種後の無菌性髄膜炎患者と思われる者は数千人〜3万人に1人の割合で発症している可能性があるが、予後不良なものはないとして、引き続き同ワクチン接種を継続することを決めているが(甲A10の7−同年10月25日公衆衛生審議会伝染病予防部会予防接種委員会(以下「予防接種委員会」と略す)とそれをふまえた厚生省保健医療局結核・感染症対策室長通知)、同省は、10月25日の同委員会において、出席した前橋市医師から、同年4月から8月までの被接種者1834人のうち無菌性髄膜炎が10人と184人に1人の高率で発症している旨の報告を受けていたこと(答弁書第1項)、また、それ以前の同年5月から7月の段階で、既に同省は、MMRワクチン接種後の死亡、及び重篤な後遺障害が計3例発症している(答弁書別表第二参照)という報告を県当局を通して受けていたこと(同第2項)。
A 同年10月25日に開催された中央薬事審議会生物学的製剤特別部会同調査会(以下「生物学的製剤調査会」と略す)の会議で、厚生省は、カナダにおいて、占部株おたふくかぜワクチンを含むMMRワクチンについて、接種後、副反応が多発したために、カナダ厚生省の要請により87年11月以降自主的に同ワクチンの製造及び販売停止措置がとられたことに関する情報を既に入手しており、そのことについて会議で審議がなされたが(答弁書第3項2)、正式に外務省を通して在外公館に対し調査依頼をすることが決定されたのみで、特段、被害の発生・拡大防止にむけた措置をとらなかったこと(同第3項1)。
B 三種混合(DPT)、ポリオワクチンの予防接種においても、重篤な後遺症の発生または副反応の多発がわかった段階で、早期に、厚生省により当該予防接種の一時見合わせ措置がとられた経緯があり(答弁書第16項)、厚生省は、MMRワクチンにおける前記重篤な副反応の発症報告、前橋市医師会による組織的な追跡調査結果報告(甲A8、A12,A77)、及びカナダにおける発症報告と同ワクチンの自主的な製造・販売停止の情報を入手していたのであるから、遅くとも平成元年10月の段階で、速やかにMMRワクチン接種を一時見合わせ、同ワクチンの製造・販売を中止、回収すべき権限を十分有していたこと。
 従って、これらの事実は、本件審理の結果に本質的かつ重要な影響を及ぼす事実であるから、上記質問主意書、政府答弁書をはじめ関係書類が書証として採用されるべく、弁論を再開し、証拠として提出する必要がある。


 以下、質問主意書、同答弁書に掲げられた各項目毎に、問題点を詳述する。提出書証は以下のとおりである。

甲A第94号証 MMRワクチン接種による被害発生の原因究明に関する衆議院議長綿貫民輔宛主意書
         平成14年7月31日−提出者阿部知子

甲A第95号証 同質問書に対する衆議院議長綿貫民輔宛答弁書(内閣衆質154第190号)
         平成14年9月10日 内閣総理大臣臨時代理 国務大臣福田康夫

甲A第96号証 平成元年度第14回(平成元年10月25日)
         中央薬事審議会生物学的製剤特別部会同調査会審議録

甲A第97号証の1乃至3 「MMRワクチン及びおたふくかぜワクチン接種後の無菌性髄膜炎に関する調査(依頼)」と題する文書(平成元年11月1日付 外務局北米局長及び欧亜局長宛厚生省薬務局長通知)及び同回答

甲A第98号証 ペトリシアーニ博士より米CDCウォルター博士宛手紙(1989年7月26日付け)及びその英訳

甲A第99号証 各都道府県知事宛厚生省公衆衛生局長通知「百日咳、ジフテリア、破傷風混合ワクチン等の予防接種について」(衛発第49号昭和50年2月1日)

甲A第100号証 各都道府県衛生主管部(局)長宛厚生省保健医療局結核感染症課長外通知(健医感発第45号外、平成12年5月16日)

甲A第101号証 MMR後の重篤な症例被害−予防接種センター京都作成

甲A第102号証 給付区分別・ワクチン別認定状況−予防接種情報センター作成

甲A第103号証 薬事法69条に基づく副作用報告義務に係る薬務局長通知(昭和59年4月27日)


一 質問主意書第1項及びこれに係る答弁書について(以下同じ)
1 原告らは、これまで、平成元年9月17日開催の第118回日本小児科学会群馬地方会議において、前橋市医師会によるMMRワクチン接種後の調査によれば、217人に1人の割合で無菌性髄膜炎が発症している旨の報告がなされていたと主張していた(原告ら準備書面(19)21頁、34頁等)。
 被告国は、この点に関し、平成元年10月の時点で前橋市医師会の調査結果を知った旨認めているが、その調査結果は、1,800人の被接種者に対し、3名の無菌性髄膜炎が発症したというものであるとしていた(被告国第14準備書面44頁)。
 しかし、今回明らかになった甲第A95号証(答弁書)によれば、被告国は、平成元年10月25日開催の予防接種委員会において、出席した前橋市医師から、同市における同年4月から同年8月までの間のMMRワクチンの被接種者は1,834名であり、うち無菌性髄膜炎の発症者は10人であると報告されていたことを認めている。
 これは、原告らがこれまで主張していた発症率よりも高率でMMRワクチン接種後の無菌性髄膜炎が発症していたこと、及び厚生省が上記報告の存在を秘匿していたことを示すものである。

二 同第2,6,7項について
1 答弁書第2項、及び同添付の別表第2によれば、被告国−厚生省は、MMR予防接種開始(平成元年(89年)4月)後まもなくの同年5月9日にMMRワクチン接種をした子供が、同月16日に急性心不全で死亡した(診断名突然死)旨の連絡を、同年7月7日に福島県から受けている。
 また、同年5月17日、同年7月1日にMMRワクチンを接種した小児についても、それぞれ同年5月30日、同年7月27日に、両側性難聴及び急性小児左片麻痺を発症し、後に、予防接種法に基づく健康被害給付金が支給(同省保健医療局担当)されていたことが明らかになった(答弁書別表第2)。
 このことは、MMRワクチン予防接種開始後、3ヶ月もたたない段階から、厚生省当局が、予防接種実施に関わる保健所−県からの報告ルートを通して、MMRワクチン接種後の死亡を含む重篤な症例が3例も発生していることを知っていたことを示すものである。にもかかわらず、同年9月8日に開催された予防接種委員会では、このことには一切触れず、10万人〜20万人に1人の割合で無菌性髄膜炎が発生している可能性があるが、後遺症なく治癒しているので今後ともMMRワクチン接種を推進されたい、としていた(甲A10の5)。
 また、上記予防接種法に基づくMMRワクチン接種にかかる健康被害給付金は、これまで、重篤な死亡・障害事例が計7例も(うち原告木下・上野2ケース)あることが、今回初めて明らかになった(別表第2)。
2 また、同省薬務局は、MMRワクチン接種後、発症した副反応について、ワクチン製造業者からの報告により知りうるシステムになっており(薬事法69条に基づく薬務局長通知−甲A103)、このルートにより、平成元年10月25日以降同4年11月までの間に、死亡4例(うち1例は原告川辺ケース)を含む重篤な後遺症例計5例があること(答弁書別表第3)を刻々と知っていた(答弁書7項)。結局、MMRワクチン接種後、現在までに判明している死亡及び重篤な後遺症例は、わずか4年間の実施期間内に、計10例(別表第2,3−ダブリを除く)もあったことになる(甲A第101号証)。
 この点について、被告国の國枝証人は、その補充陳述書(乙95)において、「承認後、当時都道府県及びワクチン製造会社等を通じて得た情報では、回復不可能な障害や死亡に至る情報はなかったと思います」、及び「前橋市医師会による報告からはこれまでの情報から考えていたよりかなり高い頻度でMMRワクチンによる無菌性髄膜炎が発生している可能性が想定されたことから、MMRワクチン使用後の無菌性髄膜炎発生のデータを至急再点検することに致しました。しかし、回復不可能な障害や死亡に至る症例はなく、当時販売中止を行うまでの情報ではなかったと考えています」としているが、これが明白な虚偽であることが明らかになった。裁判における曽我証言についても同様である(同証言調書26頁)。
3 にもかかわらず、厚生省は、無菌性髄膜炎についてのみ、しかも小出しに情報を出すだけで、これらMMRワクチン接種後の死亡または重篤な後遺症例については、同年9月8日、10月25日、及び12月20日に開催された予防接種委員会、及び生物学的製剤調査会において発症報告がなされ真剣に議論がされたという形跡は全くなく(甲A10の5、甲A10の7、甲A10の9、甲A96)、その後も厚生省は一切被害の全体像を明らかにせず、平成5年4月の接種一時見合わせに至るまで、4年間MMRワクチン接種を継続してきた。
 もし、同年9月8日、及び10月25日の予防接種委員会及び生物学的製剤調査会で、こうした接種後の死亡や重篤な症例についてもきちんと報告がされていたならば、前記前橋市医師会による追跡調査結果、及びカナダでのMMRワクチンの製造・販売停止情報(これについても、後述するように、同年10月25日の段階で厚生省は既に外国文献を含む一定の情報を得ていたことが今回の答弁書及び追加提出資料で改めて明らかになっている)とあわせて、「副反応はきわめてまれであり、発症しても後遺症なく治癒しているので引き続きMMR接種を推進する」(同年9月8日)、とか「予後不良なものはないが、数千人〜3万人に1人の割合で無菌性髄膜炎が発生している可能性があるので、MMRワクチン接種を慎重に行う必要がある」(同年10月25日)として、MMRワクチン接種を継続するという結論にはならなかったはずである。 
  
三 同第3項について
1 被告国は、カナダにおける占部株を含むMMRワクチンの製造・販売中止の事実について、平成元年9月にはカナダの情報は入手していないこと(第14準備書面74頁)、及び同年10月25日開催の生物学的製剤調査会において諸外国の発生頻度等の調査を行いその結果を得て再び調査会を開催し今後の対策を検討する必要があるとされたこと(同47頁)を主張している。
2 しかし、今回提出予定の答弁書(甲95号証)第3項2によれば、「平成元年10月25日の中央薬事審議会生物学的製剤特別部会生物学的製剤調査会においては、占部株から製造されたMMRワクチンの自主的な製造中止について審議が行われていることから、遅くとも同調査会の開催時には、何らかの情報が入手されていたと推測される。」とある。
 また、同調査会の審議録(甲A第96号証)によれば(ちなみに、被告国は、原告らによる文書提出命令申立に対する意見書(平成13年2月23日付け)においても、審議会の各部会及び委員会の議事録は存在しない旨、またその議事要旨は提出済みであるとしていたが、今回、生物学的製剤調査会の審議録が作成されていたことが判明し、被告国がこれまで秘匿していたことが明らかになった)、同調査会は厚生省国立予防衛生研究所の大谷所長(当時)が部会長になり、生物製剤課國枝課長補佐(当時)らも出席のうえ、「カナダについては、占部株を含むMMRワクチンが無菌性髄膜炎の発生により自主的に販売を中止したとの情報がある」として、日本における対応が議論されている。
 3 さらに、提出予定の平成元年11月1日付厚生省薬務局長から外務省北米局長及び欧亜局長宛調査依頼文(甲97号証の1、2)によると、その参考資料としてSmithkline Biologicals社からの情報が添付されている。同社は被告阪大微研のムンプス占部  株を含むMMRワクチンを製造しカナダ宛に輸出していた会社である。被告国は、同社から、「カナダでMMRワクチン接種後12件の神経学上の副反応が発症しており、そのうち9件の髄液からムンプスウィルスが分離された旨、及び同ワクチンは86年に導入されたが、62万2000人中の被接種者のうち約7万人に1人の割合で無菌性髄膜炎が発症し、髄液からムンプスウィルスが検出されたことから、オタワにおける会議後の1987年11月に同ワクチンの提供が停止された」との報告を、その当時既に得ていたのである。
 更に、また、提出予定の平成元年7月26日付John C .Petricciani博士からアメリカCDCのWalter Dowdle博士に宛てた手紙(甲A第98号証)によると、すでに前記大谷所長が同年7月下旬に開催された国立衛生研究所の日米会議において、米におけるMMRワクチン接種後の脳炎発症について情報収集をしており、日本におけるMMRワクチンにおいても同様の副反応を懸念していたことが記載されている。
  前記國枝証人の法廷での証言においても、「カナダの販売中止の情報はおそらく平成元年10月頃、国立予防衛生研究所の大谷所長かあるいは阪大微研の担当者の方からお聞きした」とある(同証人調書18頁)。
 4 つまり、これらの書証によると、平成元年7月下旬の段階で  被告国−厚生省は、海外におけるMMRワクチン接種後の副反応に重大な関心をよせておいたうえ、同年9月あるいは10月の段階で、すでに、カナダにおける占部株を含むMMRワクチンの製造・販売中止の事実を知っており、同年10月25日の生物学的製剤調査会においてもこれについて議論しながら、被害の発生・拡大防止にむけて実効的対策を何ら採らなかったことが裏付けられる。

四 同第5,8,9,10項について
   答弁書第8項によると、昭和63年9月にMMRの統一株ワクチンも自社株ワクチンも製造が共に承認されたが、実施に際しては、「統一株ワクチンについては、先に供給体制が整い、使用可能となったことから平成元年4月から接種が開始され、自社株ワクチンについては、平成3年10月に供給体制が整い使用可能となったことから、自社株ワクチンも接種が開始された」とする(同旨第10項)。
 しかし、被告国の第14準備書面40頁ないし41頁によると「MMRワクチンには統一株と各製薬会社の自社株があったが、承認時点で両者とも有効性に差はなく、安全性についても両者に問題はなかったが、更に接種後の有効性や副作用を追跡調査し評価する上では導入するワクチンは1種類であることが好ましいとの判断から統一株ワクチンが導入された」と主張し、その証拠も引用している。
 即ち、被告国は、これだけ明確に統一株ワクチンのみを先に実施した理由を示しているにもかかわらず、答弁書では、全く異なった理由が示されているのである。。
 答弁書添付資料によれば、ワクチン株の製造数だけを見れば、上記弁明に符合するようなデータとなっているが(答弁書5−別表第1)、平成3年から突如として、各自社株ワクチンが製造され始めており、統一株MMRワクチン接種開始(平成元年4月)後まもなく、統一株MMRワクチン接種後の死亡や重篤な後遺障害が発生し、また、無菌性髄膜炎が多発していたにもかかわらず、在庫がはけるように問題を先送りし、統一株MMRワクチン接種を継続したこと、その一方でMMRワクチン接種存続のために、厚生省は急いで、各ワクチンメーカーに自社株MMRワクチンを製造させたことが推定されるのである。
 現に、自社株MMRワクチンが導入された平成3年10月以降においても、統一株MMRワクチンを接種し、その結果無菌性髄膜炎を発症した者が少なからず存在している(別表第4)。
 また、上記別表第1によれば、ワクチンメーカー全体で、平成元年に比べ、平成2年以降、麻しんワクチンの製造量が倍増しているが、これはMMRワクチン接種後の副反応の多発をふまえ、麻しん単独接種でも対応できるようにしたものと考えられる。
   
五 同第4,12項について  
 答弁書第12項によれば、次の事実が明らかにされている。
 1 厚生省薬務局は、平成元年9月当時、すでに述べたように、薬事法69条の副作用報告義務に基づき、死亡例を含むMMRワクチンの副反応に関する情報を得ていたが、同月11日の生物学的製剤調査会の「MMRワクチンの有用性や接種の必要性の判断に影響を与えるものではない」との判断に基づき、使用上の注意の副反応の項に「ワクチン由来と疑われる無菌性髄膜炎が極めてまれに(10万人〜20万人接種あたり1人程度)発生するとの報告がある」との記載を付け加えるよう製造業者に指示すると共に、都道府県関係当局に対し、一般市民への周知徹底、及び分離されたウィルス株の鑑別検査のため国立予研に検体が円滑に送付されるよう指導を指示したのみで(9月19日付結核・感染対策室長通知−甲A10の5)、その余の対策を取らなかった。また、厚生省は、同年9月8日の予防接種委員会からの「ワクチン接種後の無菌性髄膜炎は(おたふくかぜ自然感染と比較して)極めてまれであり、且つ後遺症なく治癒しているので、今後とも麻しん接種時におけるMMRワクチン接種を推進されたい」(甲A10の5)との意見を受けて、MMRワクチン接種を積極的に推進する立場をとっていた。
 これらは、「MMRワクチンの有用性や接種の必要性の判断に影響を与えるものではない」との前提認識に誤りがあっただけではなく、無菌性髄膜炎の発症率について「極めてまれ(10万人〜20万人接種あたり1人)」と極端に楽観的な情報を公表し、一般市民にMMRワクチンの安全性に関する誤った情報を提供している点においても、接種見合わせなどの具体的措置を取らないまま、接種を受けるか否かの判断を全て国民に任せ切りにしている点においても、明らかに不適切な対応である。なぜなら本件MMRワクチンの副反応は、ワクチンそのものに内在する欠陥に由来して起きているものであるから、このような使用上の注意を付記し、国民に注意を喚起するだけでは、健康被害を全く防止できないからである。
 なお、本件訴訟における被告国側の証人である国枝証人の陳述書(乙第91号証7ページ)によれば、上記副作用情報は接種の必要性の判断に影響を与えるものではないので、緊急安全性情報とする必要はないとの理由で、正確な情報提供すらされなかったのである。
 2 次に、答弁書第3項2及び、同12項2によれば、平成元年10月25日の生物学的製剤調査会においては、MMRワクチン接種後の無菌性髄膜炎の発生、及びカナダにおける占部株を含むMMRワクチンの自主的な製造中止について審議されたが、「ワクチン由来の無菌性髄膜炎の正確な発症頻度が把握され、諸外国の状況が判明した段階で同調査会を開催し、今後の対策を検討する」(同12項2)として、副反応被害に対する対策が事実上先送りされ、外務省に諸外国の状況の調査を依頼したのみで終了してしまった。(同12項2)
 なお、本答弁書に引き続き、原告側が追加資料として入手した同調査会の審議録(甲A第96号証)によれば、「先に考えていた頻度(10〜20万人に1人程度)よりはかなり高い頻度でワクチン由来と疑われる無菌性髄膜炎が発生している可能性があり、今後十分な対応が必要である」との指摘がされたほか、「前橋市医師会の無菌性髄膜炎の発生の報告は、接種後3週前後に発症が集中していること、同年齢の他の髄膜炎の発生が少ないこと、おたふくかぜの流行がほぼ終息した時期にも発生していること、耳下腺腫脹の症状が無いこと等からワクチン由来である蓋然性は高いと考えられる。」と指摘されている。 また、同日開催された予防接種委員会においては、前橋市医師会から、同年4月から8月までの同市におけるMMRワクチン被接種者1834名中10名の無菌性髄膜炎の発症報告がなされており、これら副反応に関する情報が入ってきていたことは被告国側の曽我証人も認めている(乙第84号証8ページ3行目ないし5行目)。
 このような状況を鑑みれば、被告国は、平成元年10月の段階で、すでにMMRワクチンの副反応の発症頻度が極めて高く、死亡や重篤な後遺症も発症していることを十分認識していた。にもかかわらず、このような国民の健康と安全に係る重要な情報を明らかにせず、同予防接種委員会の意見として、数千人〜3万人に1人の割合でワクチン接種後に無菌性髄膜炎が発生している可能性があるので接種を慎重にされたいとしたのみで(答弁書第4項、甲A10の7−10月25日付け厚生省室長通知)、外国における使用状況を照会している間、「接種を継続しながら副反応の発生頻度を調査する」という方針をとり続けた被告国の責任は極めて重大である。
 3 さらに、平成元年12月18日の生物学的製剤調査会においても、MMRワクチンの医薬品としての有用性は認められるとの前提のもとに、使用上の注意の副反応の項の記載を「接種後3週間前後に、おたふくかぜワクチンに由来すると疑われる無菌性髄膜炎が数千人当たり1人程度発生するとの報告がある」と改めるのみで、さらに副反応防止の対策を先送りした(同12項3)。しかし、これは、「数千人当たり1人程度」とする発症率予測が不正確なものであったばかりでなく(予防接種委員会及び生物学的製剤調査会に提出された資料である甲A87によれば、未だ各県によって発症頻度や件数に極端なバラツキがあり、副反応の収集・報告体制が不十分であったことがわかる)、このように使用上の注意を改訂しただけでは、本件MMRワクチンの副反応被害を防止しえないことはすでに述べたとおりであって、被告国の取った措置が極めて不適切なものであったことは明らかである。
 なお、この答弁書を受けて原告側で入手した海外での使用状況の調査に関する資料によると、被告国の厚生省薬務局長は、平成元年11月1日付けで外務省北米局長及び同欧亜局長宛に「MMRワクチン及びおたふくかぜワクチン接種後の無菌性髄膜炎に関する調査(依頼)」と題する文書(甲A第97号証の1、2)を発しており、上記12月18日の調査会の段階では、これに対する回答も返ってきていた(甲A第97号証の3)。このうちカナダ在外公館からの回答文書によれば、@占部株から製造したおたふくかぜワクチンを含有したMMRワクチンの使用中止がカナダ厚生省の要請により行なわれたこと、A中止した理由はMMRワクチン投与後4週間以内に起きた8例の急性髄膜炎が観察され、おたふくかぜウイルスが患者の脳脊髄膜から摘出されるとともに、ワクチン投与後4週間以内に異常な頻度でおたふくかぜが報告されたことであること、B2つの実験室から得られたデータによれば、髄膜炎患者から摘出されたおたふくかぜウイルスの核粒子連鎖が占部ーAM9株ウイルスのそれと同一であると認められたことから、カナダ厚生省生物局が髄膜炎とワクチン投与の間に関係ありと結論付けたこと、などが明らかにされている(甲A第97号証の3)。
 更に、国立予研の大谷所長(当時)らは、同年7月の国立衛生研究所日米会議で、米におけるMMRワクチン接種後の脳炎に関する情報を収集しており、当時から日本のMMRワクチンについても同様の問題が起きることを懸念していたことが、同会議に大谷所長と共に出席していたペトリシアーニ博士から米CDC(疾病予防センター)のウォルター博士宛への手紙(甲A第98号証)からも明らかである。
 これだけ様々なルートを通して具体的な副作用情報を入手しながら、被告国は、「MMRワクチンの医薬品としての有用性は認められる」として、同年12月28日の室長通知(甲10Aの9)においても、「できるだけMMRワクチンの接種機会を提供するため、同ワクチン接種を実施する医療機関ができるだけ多く確保されるよう」都道府県関係当局に対し指導するよう指示し、接種を継続し続けたのである。
 4 さらに、平成3年8月にも、被告国は、依然として、副作用発生報告が増え続けていた状況を知っていたにもかかわらず(別表第4)、製造業者に対して、使用上の注意の項における無菌性髄膜炎の発生頻度を「1200人あたり1人程度」と改めたのみで、またしても有効な対策を取らなかったことも答弁書で明らかにされている。
 以上要するに、被告国は、MMRワクチンの副反応情報に平成元年夏頃から接していたにもかかわらず、副反応被害の調査及び製造業者への不正確な情報提供を行ったのみで、国民に対する関係では、被害の発生・拡大防止に向けてその余の実効性な対策は何ら取らなかったと言って良い。かかる被告国の緩慢な対応が、原告らをはじめ、数多くの副反応被害をもたらしたことは明らかである(甲A第101,102号証)。

六 同第16項について
1 答弁書第16項によれば、昭和49年12月24日、及び同50年1月30日に接種したDPTワクチンによる死亡事故が発生した際、厚生省は、早くも、昭和50年2月1日には「百日咳ジフテリア、破傷風混合ワクチン等の予防接種について」(衛発49号厚生省公衆衛生局長通知−甲A99)を発し、各都道府県にDPTワクチンおよび百日ぜきワクチンの接種を一時見合わせるよう要請している。(甲A99)
 この要請は、薬事法にもとづく行政指導であり、それによって一旦接種が見合わされたものである。 
 本件訴訟で原告らは、薬事法上の規制権限(法69条の2他)を行使しなかった違法について主張しているが、上記事実によれば、死亡事故発生の直後、もとより死亡とワクチンとの因果関係が医学的な意味で確定されていない段階において、国がワクチンによる国民の生命身体への危害を防止する立場から接種の一時見合わせを指導し、新たな被害者の発生を防止しようとした「実績」を示すものである。
 国は、本件訴訟で規制権限を発動するのは大臣の裁量に属する等と主張し、本件において規制権限の「発動」義務を争っているが、過去の例においても2件めの副作用報告が入るや直ちに接種見合わせを指導しており、この例からすれば、本件においても平成元年9月及び10月に多数の副作用報告が事実上厚生省に送られていた段階で、上記のような接種見合わせを措置が十分可能であったことを示す有力な証拠資料である。
 なお同様の措置はその後ポリオワクチンについても接種見合わせの措置がとられている。即ち平成12年ポリオワクチン接種後に無菌性髄膜炎を発症しその後下肢麻痺又は急性脳症をとなった症例がそれぞれ1例づつ発生した際、被告国−厚生省は安全性確保の観点から調査等を行う期間、当該ロットのポリオワクチンの接種を見合わせている(甲A第100号証)。
 この点も安全性確認の立場から接種見合わせの措置が容易であることを示すもので、本件原告主張を裏付けるものである。